むかしむかしのその昔⑮ タミオくんのワークショップ
タミオくんと出会ったのは彼が見田宗介/真木悠介さんの学生だった頃。私の職場に時折出入りしていた。そのタミオくんが今年3月で東工大を定年退職し、名誉教授になったそうだ。
コロナ禍が始まる3か月ほど前に、さまざまな縁をもつ仲間たちが集まる機会を作ってくれたのもタミオくんだった。
大学を出て、彼はある会社に勤務し始めた。その頃、私はミニコミ誌で彼をインタビューしたことがある。「僕たちを育ててくれた場を、これからは僕たちがつくっていかなきゃね」と彼がいうのを聞いて、頼もしい先輩だと感じたことをおぼえている。
私の子どもが小さかったとき、ある日でかけたプールでばったり出くわしたこともある。彼は二人の子どもたちといっしょにプール遊びをしていた。いつもほほえみを絶やさない姿は、お父さんになっても変わっていなかった。
それから何年経っただろう。30年勤務した会社を辞め、同志社大学の教授として迎え入れられた。そして、東工大に移って7年半が過ぎ、また新しい道を歩もうとしている。
タミオくんは会社員時代に休職してサンフランシスコのCIIS(California Institute of Integral Studies)に留学し、組織開発学修士課程を修了した。その後復職して仕事でも重要なポジションをこなしながら、個人の社会的な活動も展開してきた。彼は、テックナットハンの翻訳や招聘、マインドフルネスを日本に広めた中心人物でもある。
東工大のワークショップに私も足を運んだことがある。それは学生でなくても、誰でも参加できるワークショップだった。私は仕事を終えてから会場の東工大へ向かい、遅れて教室に入った。
扉には「靴を脱いでお入りください」の表示。
電気の消えた部屋にはキャンドルがいくつか灯されていた。床のクッションの上に、参加者は車座になって座っていた。静かにファシリテートするタミオくん。それに応える人たち。それからうたったり、からだを動かしたり。
そうだね。「場」を提供するんだね。居心地のよい場所を。
自分が居心地のよいと思う場所を知らない人がまだまだたくさんいるように思う。それは、どこかにあるんじゃない。自分のなかにあるもの。
それが見つけられるように、静かなときと場が必要なんだ。
私も長い間その場所から離れていたことをこの日思い出した。
とても気持ちのよい夜だった。