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帝国以後

共産主義の崩壊は、依存の過程を劇的に加速させることとなった。1990年から2000年までの間に、アメリカの貿易赤字は、1,000億ドルから4,500億ドルに増加した。(中略)世界がアメリカなしで生きられることを発見しつつあるその時に、アメリカは世界なしでは生きられないことに気付きつつある。

序章第2節7段落目

歴史は歩みを止めることがない。民主主義が全世界に広まったということで、もっとも古くからの民主主義国ーアメリカ合衆国、イギリス、フランス(中略)徐々に寡頭制に変貌しつつあることを示している。「逆転」という概念は、(中略)世界における民主主義の動きを分析するためにも有益なのである。民主主義は現在、それが弱体であったところで前進しつつあり、それが強力であったところでは後退しつつある。 

ー序章第3節最終段落

著者はフランス人人口学者のエマニュエル・トッド。本書は2003年のイラク戦争前に書かれ、超大国といわれ経済も好調なアメリカが実は衰退しつつあるこということを指摘した本。本書は著者がもともと専門としていた世界の家族類型とイデオロギーの関係性の研究と、人口統計からその国の状況を読み解くという技術をアメリカに応用したものなので、そもそもの著者の持っている分析ツールについてある程度予備知識(ウィキペディアでいい)を入れておかないとわかりづらいかもしれない。また訳も、元が回りくどいから仕方ないのか、回りくどい言い回しや文章構成が多々あり若干読みづらく感じる。

著者の主張は冒頭の引用のとおり、
①アメリカは消費する財の多くを輸入に依存しているためアメリカは経済的に弱い
②自由貿易を推進しすぎて富の偏在が起こり、それによって社会が分断し民主主義が衰退している

今の世界から見ればそのとおりだが、2002年という、アメリカが唯一の超大国として世界をリードしていた時期に指摘したというのに驚かされる。特に②について「それが弱体であったところで前進しつつあり、それが強力であったところでは後退しつつある」とは予言といっていいような当て方である。連邦議会に乱入が起こるアメリカ、首相たらいまわしのイギリス、共和党も社会党も衰退したフランス、55年体制に逆戻りした日本と枚挙にいとまがない。「逆転」という概念が非常に素晴らしい。どうしても近代以降の人間はものごとを進歩的に、科学技術についてはそうであるためそれ以外でも、見る傾向があると感じているので、今まで民主的であった国でそれができなくなるということをなかなか想像できない。当然過去の歴史を見れば国家が衰退し滅亡することはありふれた事象なのであるが、自分たちももしかしたらそうかもしれないという発想にはなかなか到達できない。著者はそれを人口統計や経済統計を根拠として、非常に明快に示してくれる。ただ統計資料についてたくさんあるわけではなく、少ない資料で全体の状況を見事に推理している。 
また、著者は2050年にはアメリカ帝国は存在しないだろうと予言している。「帝国」というのがなかなかわかりづらく、決してアメリカが存在しないといっているわけではない。むしろアメリカは「帝国」でなくヨーロッパや日本、ロシアと同じような大国として存在するだろうとしている。著者の「帝国として存在しない」ということはどういうことかわかりづらいが、著者の「帝国」とはアメリカが現在他国から財を吸い上げいる(貿易赤字を賄う金融収支の黒字がある)状況と、それを裏付ける軍事力、イデオロギーであるから、それがなくなる、つまり自由貿易から保護貿易にかわることで貿易赤字が減り(外国製品の流入に歯止めがかかる)、世界中に配置していた在外米軍がいなくなる、年中デモや政治的な暴力事件が多発するような状況を想像すればいいのであろうか。まさかと思いながらもすべて実際にまだまだ規模は小さいものの生じていることにぞっとさせられる。

以前インデックス運用について何か問題があるだろうが問題が何かわからないということを書いたが、もしかしたらこれがその問題なのかもしれない。したがって米国株に偏重したポートフォリオを組んでいるとしたら少しずつ見直さなければならないのかもしれない。少なくともそのままにして寝ておけばいいとはいえないだろう。

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