根暗で陰キャのヲタクが、はじめて美容院に行った話し ⬛カテゴリ: 過去回想
学校ではクラスに馴染めず" ぼっち歴 "もそれなりに長かった自分。
重度の陰キャでコミュ障、人間に対してまったく興味がなかった、卑屈で根暗なヲタクの自分が " 脱オタ "をしようと心に決めたのは、社会人になってから人生で産まれて初めての" 彼女 "が出来た頃のことだった。
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彼女の地元、秋田県での初デートを終え、しあわせを互いに噛みしめたあと、僕らはそれぞれの日常に戻っていった。
僕は自動車の部品を製造する下請け会社で働き、彼女は青森の弘前の大学に通っていた。
福島と青森の遠距離恋愛ではあったが、毎日のメールや1日の終わりに日課としていた寝落ち通話で、恋人らしいやり取りをその後もひとしきり続けていた。
何気ない話しの流れで、お互いの第一印象を伝えあっていたことがあったのだが、それに対して彼女曰く、
「 思ってたんだけど 」
「 言っていいかな……?」
「 眼鏡じゃなくて、コンタクトにしたらどうだろう……??」
「 洋服はともかく、髪型もちょっと(ダサいし)……
( 散髪は ) やっぱり美容院にして欲しいかも…… 」
と
自分のファッションや容姿に対して、彼女は幾つかの切実な要望を訴えてきたのだった。
「ま、まぁ、たしかにそうだとは思うけど……」
「俺は産まれてこのかた、美容院なんてお洒落な場所、行ったことないよ (笑)」
と告げると彼女は、
「お洒落じゃないよ!今時フツーだよ!?」
とさかさず驚きの声をあげながらツッコミを入れてきたのだった。
美容院…… 美容室…… 床屋……
床屋はともかく、前者2つの違いというものがまったくワカラン。。
自分は本当に、産まれてこのかた、町の行き付けの床屋でしか散髪をしたことがなかった。
独り暮らしをしながら専門学校に通っていた頃も、(県内ではあったが) わざわざ地元に帰省をしては、その" 行き付けの床屋 "に通っていたのだ。
保育園から小学校、中学校から高校、そして専門学校から社会人へと…… 今のいままでずっと" 地元の床屋 "が、僕にとっては安心安定の場所だった。
その床屋は町の小さなお店で、家族で切り盛りをしている床屋さんだった。
落ち着いた初老の夫婦と、jazzとエルビス・プレスリーが好きなダンディーな中年のおじさん(息子さん)、トークが面白く明朗快活で美人なお姉さん(娘さん)と、同じく同年代の朗らかなパート助手の女性の既婚者 総勢4名。
自分が小さな頃からお世話になっていた床屋さんで、お店の人たちも、僕の成長を長らく見守ってきてくれた人たちなのだ。
保育園から小学校低学年の頃は、散髪を終えたあとにお店のおばさんが「よく出来ました。これ、お駄賃ね」と大人しく待つことが出来ていたぼくに、100円玉を渡してくれていたのだった。
散髪の為に訪れるたびに、ドラマなどでよく見聞きする『" いつもの "でお願いします 』というやり取りが、床屋さんと僕の合言葉だった。
お客さんが多いときは、お店の方が煎れてくれた熱々のコーヒーに砂糖をいっぱいに入れてすすり、ふかふかの黒いソファーで、ジャンプやサンデーなどの青年漫画や冊子を読んだり、ゲームボーイ(スーパーマリオ)をしながら順番を待つというのがデフォルトだった。
床屋の中は、大人の男性が使う整髪剤のような、何とも言えないダンディーな香りが漂っていて、それもなんだか心地が良かった。
そんなこんなで彼女の言い分に困惑をしながらも、自分としては「床屋でいいじゃん……」とも思っていたが、自分は筋金入りの根暗なヲタクだし、世間の若者たちとはだいぶ違って、
「 やっぱり自分はイマドキの若者と呼ぶのには程遠いのだろうな…… 」と自覚していた事もあってか、彼女の切実な申し出に押されるように
「 じゃあ。 次の休みの日、近場の美容院を探して、勇気出して行ってみるよ 」と、
渋々ながら、彼女に約束をしてみせたのだった。
もしかしたら、これが自分にとってのいい機会になるかも知れない。
彼女との通話を終えた次の日。
僕は、離れて東京で暮らす姉へと久しぶりに電話をした。
彼女との一連の流れは伏せたままで、なるべく自然と、「あのー。」「そろそろイメチェンしようと思うんだけども。」「美容院とか美容室って、どんな感じ……?」と、藁をもすがる思いでアドバイスを求めたのだ。
姉は、「おっ、いいじゃん」
「フツーに予約入れて、どんな髪型にしたいか要望言えばいいよ?」
「最初は" おまかせ "が良いかもね」と端的に説明をしてくれた。
地元の町の美容室にも幾つか知見があったようで、「駅前のところがいいんじゃない?」「私が高校生の頃からあるし。」と場所についても見繕って意見をくれた。
持つべきものはやっぱり姉だ。と内心感謝をしつつ、僕は後日すかさず、そのオススメされた美容院へとおそるおそる予約の電話を入れてみたのだった。
そして、あくる日曜日。
仕事で疲れた身体と心を引き摺りながらも、彼女の切実な約束を果たすため、僕は、電話で予約をした美容院へと車で向かうのであった。
正直なところ、この当時に勤めていた会社は中年と老人が殆んどで、女性と言えばパートの既婚者。独身の若い女性などひとりもいないような、機械と油と汗臭い匂いにまみれた、出逢いとはまるで無縁のような、男性が大半の むさ苦しい職場だった。
だからという訳ではないが、お洒落をしても意味など無いように、その当時は思えていた。
駅前の駐車場に車を停め、緊張をしながらおそるおそる予約をしていたお店の様子を伺いつつも中に入ると、自分よりも少し年上?のお洒落なお兄さんと、明るくスタイリッシュなお姉さんら2名が「こんにちはー!」と挨拶をしてくれた。
予約した旨を伝えると、「こちらへどうぞ~」とすぐさま鏡の前の座席に案内される。
防水マント?があてがわれ、「今日はどういった髪型にしましょう?」と、担当の女性がにこやかに尋ねる。
「あ、えっと…… " おまかせ "でお願いします」とおずおずと要望を告げると、「分かりました」「軽めに鋤(す)いてゆく感じでいいかな?」とお姉さんは手際よく、洗髪やカットなどの作業を軽快に進めてゆくのだった。
はじめての美容院に緊張の色を隠せなかったが、洗髪やカット中に担当のお姉さんとの他愛ない会話で、少しつづ緊張が解れてゆく。
「美容院ってはじめてで……めっちゃ緊張してます(;´д`)」と素直に告げるとお姉さんは「あはは、そうなんですねー」と爽やかに笑ってくれていた。
自分が口下手なのを気遣ってくれたのか、お姉さんはご自身の事について、この町に来た経緯などを色々と話しをしてくれたのだった。
作業中のお姉さんを直視するのもなんだか申し訳ないような気がして、僕はカット中も下を向き目を閉じたまま、担当のお姉さんがしてくれる話しに相づちを打ったり返答をしながら、他愛のない会話を続けていた。
こうしてあらためて来てみると、床屋と美容院も、たいして差はないように思える。
少しづつ緊張が解れ、安心して身体(頭)を預ける。
カットや洗髪、ドライヤーによる乾燥、細かい調整による仕上げを終えて、約50分ほど。慣れた手つきとハサミを扱うパチパチとした軽快な音は、微睡(まどろ)んでいた自分にはとても心地が良かった。
「はい!お疲れさまでした~」と散った髪の毛を払いながらお姉さんが告げる。
鏡の前で、ヘアワックスでさらに仕上がった自身の短髪にまとめられたヘアスタイルを眺めてみると、自分のような根暗なヲタクでも、少しは格好良く・垢抜けをすることができたような気がした。
「ありがとうございます!」と会計を済ませ、メンバーカードを作って貰い、美容師さんたちに「またよろしくお願いします!」と胸を張って挨拶を告げると、僕はお店のドアを開けて歩き出し、大きく背伸びをした。
ここに来る前と終わったあとで、こんなに気持ちが大きく違うものだとは、正直思っても見なかった。
自分の意思で来た訳ではないけれども、彼女に指摘をされなければ、きっと、ここに来ることもなかったのだろうと思った。
いろんな人の助けを借りて、僕はきっと少しだけ、前に進んだのだ。
その日の夜。
彼女に「さっそく美容院に行って来たよ!」と報告をした。
さかさず「見せて見せて!」と返信がきたので、幾つか写真を自撮りをして送る。
彼女は通話越しに、「うん、いい感じ!さっぱりしたね!」と素直に喜んでくれていた。
それがなんだか嬉しくて、僕は照れ隠しをするように「さすがに顔の造形は変えられないから、我慢してね (;´∀`)」と冗談を交えて言うと、「それは仕方ないよね (笑)」と二人して声をあげて笑ったのだった。
自分の散髪のスパンは、約二ヶ月に一度。
その後、そのお店には片手で数えるほどは通い、その都度お世話になっていたのだが……
最後の散髪を終えた際に、いつもの担当のお姉さんから
「今度、このお店 引っ越すことになったのよね」と、" 隣の市内のほうへと移転する "という旨を告げられたのだった。
「少し遠くなるけど、良かったらまた来てね」と、お姉さんはにこやかに微笑む。
結局、隣の市内のほうへと移転していってしまったそのお店には、なんとなく足を運ぶ気にはなれなかった。
距離的には車で40分ほどで、通えないこともなかったが、店舗も大きくし、さらに人員も増やすということで、自分のなかの引っ込み思案な部分が、それを嫌煙していたのだと思う。
地元の駅前を通りがかる度に、ガラ空きになった店舗を見やっては、せっかく通い慣れてきたお店を思うと、少し残念な気持ちになったりもした。
その店舗が空きテナントになったあと。
残念な気持ちで途方に暮れてはいたが、少しだけ自信を得ていた僕は、同じ要領で、町の美容院を探し、ドキドキしながら勇気を以て予約をしては、新しい散髪の場所を開拓していったのだった。
幼い頃から住み慣れた町なのに、自分の知らない・訪れたことのない場所があるなんて、ちょっとだけ不思議な気持ちになったりもする。
小さな町の中心部にある、四つ角の一角。
次に選んだ場所は、フレッシュな若い女性が二人で切り盛りし始めた" 新しく開業した店舗 "だった。
学生の頃にこの店舗が通い慣れたゲームショップだったことを振り返ると、学校帰りに友人らと立ち寄ってアーケードゲームに燃えたこの場所が、なんだか少し感慨深くも思えた。
このお店にも2、3回通ってみて、店員さんたちも爽やかな笑顔でその都度迎え入れてくれてはいたが
なんとなくだが 次第に足を運ばなくなり。
メンバーカードを作ってもらった手前、申し訳ない気持ちとは裏腹に、僕はあらためて、自分に合った別なお店を探すことにしたのだった。 嫌な気持ちになった、というわけでもなくて、本当になんとなく。
新しく開業した個人のお店ということで、(おそらく)自分よりも年下の若い女性ということもあり、接客というか他愛ない会話も控えめで、僕が口下手なせいもあってか、その辺りのベテラン感や居心地の良さのようなものが合致しなかったように思う。
カットや洗髪は上手だったけれども、接客の経験という意味であらためて思えば、まだ技術に一生懸命なぶん、浅かったのかなと思ったり。
そこになんとなく、僕は居心地の良さを感じることができなかったのかも知れない。
上記のお店に通い続けているうちに、以前通っていた駅前のお店が、あれからいつの間にか復活していた。
よくよく見ると別なお店のようだが、はじめて通ったお店と大差ないように見える。
僕は再び、新しくテナントに入ったその美容院へと通ってみることにしたのだった。
これで三件目。
最初の尻込みしていた自分とは思えないくらい、フットワークの軽めな自分になっていった。あくまで小さな町での中ではあったが。
案ずるより産むが易しで、経験に敵うものはないのかも知れない。
例のように予約の電話を入れると、次の休日に、その美容院を訪ねた。
一連の流れは最初のお店のそれと大差なく。
人員は、中年の男性・女性が1名づつと、新人らしき若い女性が1名。
それこそ、" 新店舗 "という名目で、この空きテナントに入ったのだと、自己紹介代わりにお店の方が簡単な説明をしてくれた。
僕の隣には、横並びに若い男性(高校生と大学生?)のお客さんが2名ほど、座席に座ってそれぞれに散髪をされていた。
どちらも散髪の途中のようではあったが、みるみるうちに横並び二人の髪型が、同じような仕上がりにカットされてゆく。
僕は、「" ヘルメット ……?のようなヘアスタイルだなぁ…… "」と内心思った。
失礼と無礼を承知で言わせて貰うのであれば、「これ、美容院でカットして貰う意味ある……?」と、待っている間に身も蓋もないようなことをずっと思いながら、顔をしかめていた。床屋で散髪をして貰っても、きっと大差はないのだろう。
下準備を終えて、中年の女性の担当さんが僕の座席の背後にやって来る。
「今日はどうしますか?」と尋ねられ、つい、いつものように「" おまかせで "」と言いそうになってしまったが、自分の横並びである、最初は長髪だった二人が、みるみるうちにテンポよく刈り込まれ、徐々にヘルメットのような微妙な仕上がりになってゆく様を端から見ていた僕は戦々恐々とし…… 咳払いをするとあらためて、
「髪の毛は長めで良いので、今日は少しだけボリュームを減らしてください !」ときっぱり注文をしたのだった。。
たまたまなのだろうか?
横並びのふたりがヘルメットのようなヘアスタイルになってしまったのは……
要望をしたのだろうか?
この、高校生と大学生らしき若い男性たちは……
考えれば考えるほど、これからカットをされるであろう、自分のヘアスタイルへの不安が大きく膨らんでゆくのを感じる……。。
美容に興味は無いとは言え、あの髪型にされるのだけは絶対にイヤだった
これで自分まで横並びのふたりと同じ髪型にされたら、三人おそろいのヘアスタイルになってしまう……
解放され、三人同時に外へ出た自分たちを想像すると、それだけはなんとしても避けたかった……
幾つか美容院を替え、通ってみてあらためて思うのだが……
散髪するということは、切って貰う側の要望を伝える努力と、髪を切る側のセンスも問われる、繊細で芸術的な作業とやり取り(コミュニケーション)なのだな。と感じる
この三件目のお店は、残念ながら、自分が通いたいと思うようなお店ではなかったということなのかも知れない。
淡々と作業をこなす美容師さんに対して申し訳なさもあったが、洗髪をして、ドライヤーで乾燥をして、それなりにカットで髪を鋤いて、仕上がりを綺麗にセットして貰ったあと
「お疲れ様でした」の声かけと共に、レジで会計を済ませ、これまでのようにメンバーカードを作成して貰ったのだが
「ありがとうございました」の挨拶と同時にお店を出たあと、僕が再びこのお店のドアを開けることはなかった。。。
確かこのとき。
土日の休日を利用して、姉が東京から実家に帰省をして来ていたのだが、この一連の出来事を淡々と説明をしてみると姉は、
「なにそれウケるw 」と、それを端で聞いていた母と一緒に、お腹を抱えて笑い転げていたのだった。
「あんたヘルメットにならなくて良かったねw」
「でもさ、その髪型、もしかしたら世間では流行ってるのかも知れないじゃんw」と
面白可笑しく、僕に対して囃し立てるのだった。。
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……
…
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後日。
直近に通ったそのお店の繁盛ぶりが気になって、駅前を車で通りがかってみると、店内は暗く、お店の物もすべて撤去されており…… そのお店は開店からほどなくして、瞬く間のうちに閉店してしまったようであった。。
根暗で陰キャなコミュ障ヲタクが (地元の) 美容院 (美容室) をめぐる冒険。
「つづく ?!」
※ ちなみに町の中心部にある四つ角の一角にあった " 若い女性二人で切り盛りしていたお店 "も、いつの間にか同じように閉店してしまっていたようです。
きっと、年寄りが多いこの町では、ニーズが合わなかったんだと思います。。
現場からは以上です……。
( ;ノД`)…
・美容院と美容室 = 違いはない。
・理容師 → 髭剃り、顔剃りが可能。
・美容師 → 上記が不可。
#オススメ音楽 🎧🎶
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