_母と暮せば_舞台写真_熱いコップの水富田松下

青白い炎が真っ赤な火炎へと増幅していくような凄みにあふれた作品…★劇評★【舞台=母と暮せば(2018)】

 井上ひさしが生前悲願として抱きながら、具体的な作品にすることができなかった長崎を舞台にした物語を、映画監督の山田洋次監督が、広島を舞台にした井上作品「父と暮せば」と対になる作品として映画『母と暮せば』に昇華させたのが、2015年。井上作品を上演してきたこまつ座(井上麻矢代表)が山田監督の了解のもと青森の劇団「渡辺源四郎商店」主宰の畑澤聖悟に脚本を依頼し、名匠、栗山民也の演出で舞台化された「母と暮せば」が連日上演されている。広島原爆の惨禍から生き残った娘の新しい恋愛を、幽霊となった陽気な父親が恋の応援団長として後押しする「父と暮せば」と見事なシンメトリーを為すように、「母と暮せば」は、通っていた大学で長崎原爆の被害に遭った医学生の息子が、生きる気力をなくし始めた母親のもとに幽霊となって現れるという物語。そこには「生き残って申し訳ない」という娘や母親の共通した思いと、何とか先に進んでほしい父親や息子の切なる思いが、ふたつの物語をつなぐように横たわっている。「母と暮せば」にはさらに、多くのクリスチャンが住む長崎の上空で炸裂させたキリスト教国、米国の宗教上の欺瞞や、大量殺戮兵器の使用さえ「実験」に過ぎなかったと思わせるような原爆投下国の戦後処理の冷酷さとそれに対する激しい怒りも描き込まれており、より奥行きの深い作品になっている。それを凝縮された二人芝居の中で表現していく富田靖子と松下洸平の演技は、青白く燃えていた小さな炎が、最後は真っ赤な火炎へと増幅していくような凄みにあふれ、一方では、家庭内の些細な出来事やふとした思い出さえ、生と死を境にした立場では、親子を結びつける強いきずなになるということを一見ほのぼのと淡々と、しかし切々と私たちに伝えてくれる。映画の『母と暮せば』もさまざまなところで上映されることを期待したいが、この舞台「母と暮せば」こそ、長崎で広島で、そして何より全国の津々浦々の町で上演され、人々の心に「絶対に許してはならないもの」を気付かせるきっかけになってほしいと心から願う。見られたくないものにふたをしようとする人々が増えているこんな時代だからこそ、この作品をじっくりと見つめてほしい。(舞台写真撮影・宮川舞子)
 舞台「母と暮せば」は10月5~21日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演され、12月まで茨城、岩手、滋賀、千葉、愛知、埼玉、兵庫で巡演される。東京以外の公演の詳細は以下の通り。
【茨城公演】 2018年10月27日(土)14:00開演
水戸芸術館 ACM劇場
【岩手公演】 2018年11月3日(土・祝)14:00開演
花巻市文化会館
【滋賀公演】 2018年11月17日(土)14:00開演
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
【千葉公演】 2018年11月23日(金・祝)14:00開演
市川市文化会館 小ホール
【愛知公演】 2018年12月1日(土)13:00開演
春日井市東部市民センター
【埼玉公演】 2018年12月8日(土)14:00開演
草加市文化会館
【兵庫公演】 2018年12月11日(火)13:00開演
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

ご予約・お問合せ:03-3862-5941(こまつ座)

 当ブログでは舞台「母と暮せば」を徹底追跡しています。既に掲載済みの製作発表リポートや稽古場リポート、初日前日舞台稽古一部公開と囲み会見リポートなどもあわせてお楽しみください。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」舞台「母と暮せば」の初日前日舞台稽古一部公開と囲み会見リポート「【Report】 舞台化された「母と暮せば」初日の幕開ける、富田靖子と松下洸平が開幕前日に明かす絶妙のコンビネーション(2018)」=2018.10.08投稿


★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」舞台「母と暮せば」の稽古場レポート記事「【Report】 命が吹き込まれる現場、舞台「母と暮せば」稽古場リポート(2018)」=2018.09.27投稿

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」舞台「母と暮せば」の製作発表記者会見レポート記事「【Report】 富田靖子と松下洸平、製作発表で舞台版『母と暮せば』に決意新た(2018)」=2018.08.03投稿

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」こまつ座「戦後“命”の三部作」完成製作発表記者会見レポート記事「【Report】 名作「父と暮せば」を6~7月に新キャストで再演、映画で生まれた『母と暮せば』も10~12月に舞台化へ(2018)」=2018.04.17投稿

★舞台「母と暮せば」公演情報

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