【偶然日記#7】皺を刻むように生きる
朝ランニングをしていたら空き地があった。
しばらく前から空き地だったことは知っている。改めて空き地だと思った。ここにどんな家が建っていたか思い出せない。アパートだった気もするし、一軒家だったような気もする。
空き地の先にはアパートが見える。そのアパートの名前は本郷館という。100年以上前に建てられた3階建ての巨大な木造の下宿屋、というのは10年前までの話。今はその名前を残すのみで、ぼやっとしたクリーム色のアパートになっている。
艶っぽく黒ずんだ木造造りで揺るぎない存在感を放つ本郷館を僕はしっかり覚えている。10年ほど前、そこは老朽化を理由に取り壊された。
100年後、今の本郷館は時代の変化を刻み込んだ以前の本郷館と同じ存在感を放っているだろうか。
洗い流すことのできる汚れではなく、刻み込まれた皺の威厳。
変化を受容する木という素材。
心に負った悲しみや傷は洗い流すことのできる汚れとは違う。それは刻み込まれた皺。隠すでもなく飾るのでもなく立つ。それは守りたくなるほど美しく厳かな姿。
こんにちは