血沸き肉躍るアート本3選 #おすすめの美術図書
参加させていただいているメンバーシップ「オトナの美術研究会」様の月一お題企画、今月はぜひ書かねば! と思っていたら、もう月末じゃないですか~!!
トシをとると時間がたつのが速いと聞くが……なるほどこれが……ゴホゴホ
というわけで、ぎりぎりになってしまいましたが、6月のお題は #おすすめの美術図書 でございます!
美術の専門教育を受けたことがない知識浅薄などシロートアートファンのワタクシ、面白いアート本は大好物です。「関連本は全制覇してるぜ! へへっ」というところまで極めて……は、全然ないのですが(ゆるっと行こうぜ人生…って、オイ)、これまでに読んだ中から、読みだしたら止められない、血沸き肉躍る3冊を、厳選してご紹介します!
……ちなみに、うち1冊はおそらく絶版で……って、おいっっっ!!!
アマゾンで中古はまだ売ってますし、図書館にもあると思いますので! 許してくださいっ!
①このドラマ、事実です!「修復家だけが知る名画の真実」
「推し」のアート作品というものは、時空を超えて誰かの「推し」でございます。ワタクシが生まれるはるか前に描かれ、ワタクシが世を去ってからはるか未来にもきっと誰かに愛され続けます。
そんな「推し」を過去から未来へと伝えるのに欠かせない存在が、絵画修復のお仕事です!
一見、地味だと思うでしょう……? ふっふっふ。
しかし、修復家さまたちは、アートをそのままの形で次世代に伝えるために、表から裏から研究し尽くし、ときには、あっと驚く新事実を発見するのですよ……!
というわけで、最初のおすすめはこれ! のっけからたぶん絶版です! でもイチ推し!
「修復家だけが知る名画の真実」(吉村絵美留著、青春出版社)
絵画修復家の吉村様が、ご自身の仕事の中で発見した様々な事例を豊富にご紹介してくださる一冊です。とにかく面白くて、読みだしたら止められないこと保証付き!
修復の過程で、キャンバスに隠されていた幻の作品が浮かび上がる……!
行方不明だった絵画が、壁の中から発見される……!
キャンバスの釘から、サインの位置から、修復家が見破る贋作……!
売れない画家の絵に売れている友人の画家がサインして販売する……!
画家の息子が父親の贋作を作って売りさばく……!
ほらほら、もう読まずにいられないでしょ? これみんな、事実ですよ事実。小説でもマンガでも映画でもないのです。そう、ギャラリーフェイクのフジタさんじゃないの、現実のことなのよ!
こうした事例を、修復のプロの視点で、文章で一切あおることなく、冷静にたんたんと語って下さっているところが、よけいに興奮します……ハァハァ(えっキモイ? そうかも)
もちろん、修復家の視点はそれだけではありません。古今東西の画家がどのような手法で作品を描いたか、絵の具や塗り方、支持体の選び方などを知り尽くしたうえでのお仕事なので、めちゃくちゃ勉強になります。
岡本太郎は黒を漆で白を胡粉で塗っていた、とか、ルノワールは美しい肌の質感を表すためにどんな筆を使ったと考えられるか、など、絵画を鑑賞するときに知っておくと楽しい知識も満載です。
油絵具は完全に乾くのに50年以上かかるそうで、管理や修復ではそのことが様々な難しさを生むこととか、修復でどこまで綺麗にするかの判断や、繊細な絵画を美術展のために運ぶときの工夫とか……もう、全ページが目ギンギンになる面白さです。
ワタクシ的には一生の永久保存版です。でも紙だと新書だから、読み倒すとボロボロになるのよね……なんでこれ電子書籍にしてくれないのよ~……
2004年出版と、かなり古い本なので、その後の技術の発展で、今の修復の現場ではどうなっているのか? と、知りたくなります。誰か最新事情を書いてくれませんかね~
②世界一有名な贋作者の物語「私はフェルメール」
続きましては、おそらく世界で最も有名な贋作事件の犯人、メーヘレンのノンフィクションです!
「私はフェルメール」(フランク・ウイン著、武田ランダムハウスジャパン)
「贋作」というワードは、アート好きだけでなく多くの人が読みたくなるキラーワードかと思われます。ましてや世界のみんなが大好きなフェルメールの贋作で、さらに「贋作である」と信じてもらえず贋作者自らが法廷で贋作を制作してみせざるを得なかった……という劇的な事件。
凄腕贋作者のメーヘレンが、なぜフェルメールの贋作に手を染め、なぜ法廷で自らが贋作者だと証明する羽目になったのか、子供時代から死までを詳細にまとめた一冊です。
「うまい」だけでは画家として大成できない時代に生まれてしまった生真面目で気弱な天才、メーヘレンが、その真面目な努力と卓越した技術、人間的な弱さゆえに、憧れのフェルメールの「新作」を贋作として生み出していく様が、たまらなくドラマティックです。
贋作をどうやって作ったかという解説の過程では、フェルメールの技法を詳しく分析してあって、これまた勉強になってしまいます。
もう、このまま映画にしてもいんじゃね? と思う、事実の物語でございます(メーヘレンの半生は映画になってるみたいですね)。こちらも、寝る前に読み始めるとやめられなくて寝不足になること請け合いです!
ちなみにこちら、その後「フェルメールになれなかった男 : 20世紀最大の贋作事件」と改題され、現在はちくま文庫に収録されて、継続して販売されています。
まだお読みになっていない方! 必読ですよ!
③オークションという興奮、未来への提言も「巨大アートビジネスの裏側」
最後は、サザビーズジャパン代表取締役会長兼社長の石坂泰章氏が、絵画オークションの舞台裏を紹介する「巨大アートビジネスの裏側」(石坂泰章著、文春新書)です。
アートでドラマティックな話題といえば、オークションは欠かせませんよね。落札価格の高さや、ときには落札のハンマーが鳴った瞬間に作者の意向で破壊されてしまう作品とか……
この本は、オークションの世界的老舗のプロが書かれているので、オークションの実際の進め方などが臨場感たっぷりに紹介されています。
うまく盛り上げるためのオークショニアの技術や、美術品の流通市場の実態について、詳細に書かれていて、これまた目ギンギンになります。
ただ、この本はそれだけじゃないところが、今回推したかったポイントです。
日本の美術館のコレクションを活用して地方の美術館を活性化する方法や、美術への関心の高さを文化としての層の厚みにつなげる提言など、未来の日本の美術界にむけたメッセージが「なるほど!」と思うのです。
とりわけ個人的に「うんうん!」とうなずいたのが、最後のほうでちょっと触れられていた、アーティストの取り分についてでした。
アーティストが画廊などを通して作品を販売する一次流通市場の価格よりも、アーティストが介在しないコレクター同士の二次流通市場の価格のほうが高くなりがちです。アーティストが優れた作品を生み大成すればするほど、二次流通市場の価格は高くなります。
なのに! 二次流通市場でいくら高額がついたとしても、肝心のアーティストには1円も入らない!!! ことに、ワタクシはかねて、門外漢の部外者として、ひっそりと怒りを感じておりました。
そりゃ二次流通市場で高額がつけば、アーティストが一次流通市場で作品を販売するときの号単価などが高くなるのは高くなりますよ。でも、こういっちゃなんですが、知れたものじゃないですか……
二次流通市場で高値で転売するコレクターはどんどん儲かって、作品を作ったアーティストは貧しいままって、なんかおかしくないすか!?
……というワタクシの怒りをやわらげるヒントが、この本にありました。
海外では、二次流通市場でついた価格のなにがしか(ひとけた前半%ですけど)はアーティストに還元する仕組みがある国があるそうです。
日本もそうなればいいのに~!!!
日本の優秀な若手アーティストが日本から出て行ってしまうという話を聞いたことがあるのですが、日本にいても作品を作るだけではカッツカツの生活しかできなければ、そりゃ海外行くでしょ、と思います。
なんとなく「アーティストなんて好きなことしてるんだから、貧しくても仕方ないだろ」的な考えが日本にはあるような気がしまして……
画材だって高いんだし、栄養をしっかり取って体力つけないとアーティストとしての寿命も削ることになっちゃうし。少なくとも、人並みに豊かな暮らしをして、経済的な心配をせずにアーティストが作品を制作できる環境になればなあ。それには、この本で紹介されていた二次流通市場の価格のなにがしかを還元する仕組みが一つの解ではないかと思ったわけです。
というわけで、厳選した3冊は以上です!
どれもワクワクドキドキ間違いなしですので、もし機会がありましたらぜひ~
……って、古い本ばかりで恐縮です^^;
最後までお読みいただき、ありがとうございました。