「ラストマイル」を観た風俗嬢が過呼吸を起こした話
【注意】この記事はネタバレを含みます。
もうすぐ公開終了となる映画「ラストマイル」
先日やっと、やっと鑑賞できました。
「アンナチュラル」「MIU404」が本当に大好きなので、「ラストマイル」はすごく楽しみにしておりました。
公開されてすぐ観に行けなくても、ギリギリになっても、必ず劇場に足を運ぶつもりでおりました。
故に、あえて予告編やレビューなどは事前に一切見ないように徹底。
既に見てきたという友人知人にも詳しい話を聞かず、まっさらな状態で鑑賞したかったのです(公式サイトのイントロダクションくらいは読んだ)。
が、それがまさかあんな事になろうとは……。
平日の昼下がりの映画館は良いものです。
まずあまり人がいない。飲み物や軽食を買うのもスムーズ。
映画は絶対に一人で観たい派なので、平日昼は色々と都合が良いのです。
いざ上映。
満島ひかり、好きだなあ。キレイとカワイイが両方存在するお顔立ち。小柄で華奢なのに存在感がある。そういえば彼女は昔、アイドルグループのセンターメンバーでしたね。
岡田将生も年齢と経験を重ねて大人のオトコになりましたね。とりあえずお顔が美しすぎる。
ディーンフジオカ、彼は悪役が本当に似合う。英語の発音が綺麗で聞き取りやすく、流石でございます。
と、まあ、最初は「ラストマイル」の主要人物たちを軸に話が進んでいきます。
「MIU404」の星野源&綾野剛が登場し、ニヤニヤが止まらない私。
藍ちゃんの「きゅるっと」が聞けて幸せすぎました。ありがとうございます。藍ちゃんかわいい。
しかし、だんだんと不穏な展開に。
警察が捜していた山崎(中村倫也)は、なんと病院におり、5年前から植物状態だと判明。
植物状態になった理由が「飛び降り」。
搬送されてしばらくは意識があった山崎ですが「馬鹿なことをした」と弱々しくつぶやきます。
ここから、冒頭、ロッカーの扉の内側にマジックで書かれた
「2.3m/s 70kg →0」の文字。
これの真相が明らかになるわけです。
山崎は過労により正常な判断ができなくなっており、「自分が飛び降りればコンベアが止まる」というとんでもない発想に至ったのです。
「死んでも止めるな」という上司の叱責が倉庫内に響く中、まさにスーパーマリオのスター状態のように、なんのためらいもなく飛び降りた。
山崎の体はコンベアに激突し、頭が割れて大量の血が流れ出します。
薄れゆく意識の中、異常を検知し停止するコンベアを見つめる山崎。そこで彼の意識は途切れる。
駆けつけた上司が山崎の体を床に降ろすと、コンベアが動き出す。
その間、わずか数秒。
ここまで観て、私の心臓は100メートル走を全力疾走した後のように激しく鼓動し、耳鳴り、めまい、頭から血の気が引く感覚、
そして呼吸の仕方が分からなくなりました。
指先が痺れ始め、視界は白黒に反転し、これはまずいと思い、フラフラしながら退室しトイレに駆け込みました。
滝のような冷や汗が止まらず、視界の白黒や耳鳴りもずっと続いており、便座に座ったまま15分ほど意識朦朧としていました。
もうこのまま帰ろうか悩んだのですが、戻ることに。
石原さとみ、井浦新など「アンナチュラル」のメンバーが登場し、爆発事故の焼死体を解剖します。
一人目の被害者である男性の遺体が、本当は若い女性の遺体と判明します。
その遺体こそが山崎の婚約者でした。
彼女は自ら爆弾を使用し、生きたまま爆風と炎を顔面から浴びて焼身自殺したのです。
映画が終わり、エンドロールとともに流れる米津玄師の「がらくた」。
劇場内が明るくなっても、しばらく席から立ち上がれませんでした。
なんとか映画館のロビーに出て、ソファーに座りました。
私の職業は、風俗嬢です。
初対面の男性の前で裸になり、性的なサービスをし、時間内に射精に導くという仕事です。
本当に汚い仕事です。
「シティヘブン」というサイトがあります。現在風俗のポータルサイトの中ではシティヘブン一強と言われています。
そのシティヘブンが毎年秋に開催している
「ミスヘブン総選挙」。
シティヘブンに掲載されている風俗店に在籍している風俗嬢を競わせてランキングを付けるという、本当に頭のおかしいイベントです。
今年、私はそれに出場します。
というかもう4回目の出場です。
ミスヘブンに出場し、入賞を狙うとなると、本当にしんどいんです。
投票期間は11月頃ですが、9月頭からノミネート嬢が選出され、そこから投票に向けてノミネート嬢はさまざまな努力をします。
まず第一にシティヘブンの主要機能である「写メ日記」の更新。
目を引く写真や動画を撮り、アクセスしてもらえるような文章を考え、それを1日15本〜20本書きます。
「マイガール」という、フォロワーのような機能があり、その数字を増やすために「限定記事」を書きます。
これはマイガールに登録した人しか見られない記事で、全公開の記事では禁止されているトップレスがOKとなります。
なんの変哲もない記事をマイガール限定公開にしている嬢は腐るほど居ますが、私はそんな事したくない。
トップレスの写真を、無料でばらまいているのです。
正直そんな写真、見せたくありません。私も一応女性なので。
でもマイガール登録数を増やすには、これが一番手っ取り早い。
毎日毎日、何枚もトップレスの写真をばらまき続けています。もちろん動画もね。
写メ日記を何本書いても、1円にもなりません。
店によっては手当があるみたいですが、私が在籍している店はそんなのない。
乳首晒して下着姿晒しても0円。
寝る時間を削って写真や動画の加工、文章を考えて予約投稿しても0円。
死にたくなりますよ本当に。
ミスヘブンだって入賞できるか分からないし。
でもね、もしも私が「全て嫌になった」と、店のビルの屋上から飛び降りて
そのまま死ぬか、死ななかったとしても山崎みたいに何年も植物状態とか、そんな事になっても。
ずっと私に通っていた常連客は「あの子いなくなったんだ〜」って、
なんでもなかったように他の風俗嬢と遊ぶんです。
汚い欲望を向ける対象が変わるだけ。
世の中ってそういう風にできている。
「自分を追い込むこと」には、天井がない。
「私よりもっと写メ日記書いてる風俗嬢は沢山いる」
「毎日予約で完売する風俗嬢は沢山いるのに私はずっと待機している」
「心身ともにおかしくなってからが本番だ。例え38度の熱があっても、リストカットで腕がズタズタでも、休まず出勤しなければならない」
こんな強迫観念に常に脅かされながら毎日働いています。
なんのために?誰のために?
ミスヘブンで結果出せなかったら?
生きているのが怖い。消えたい。死にたい。
山崎が飛び降りようと思った理由はあくまでも推測であり、目を覚まさない限り彼の本当の気持ちは誰にも分からない。
婚約者が死を選んだ意味はあったのだろうか。
荷物1個あたり20円値上げしたところで焼け石に水。
デリファスのコンベアは、今日も動き続ける。