私たちは間違えるようにできている サイエンス本紹介 #3
サイエンス本紹介について
「サイエンス本紹介」では、サイエンスメソッド(科学の考え方)を身につけるのに役立つ本を、私たちが厳選して紹介する。
第3回目は「超常現象をなぜ信じるのかー思い込みを生む『体験』のあやうさ / 菊池聡」である。
この本は、外界を認識するための人間の情報処理のシステムが、いとも簡単に超常現象を信じてしまうメカニズムを備えていることを教えてくれる。
「科学で明らかにされている知識こそ全て!」といたずらに超常現象の存在を否定する本ではない(検討もせず否定と決めてかかることこそ科学的な態度ではない)。
おすすめポイント
さて、この本がどのように科学と関連するのか?
科学の目的は、人間が直接知覚できる現象を分析し、背後にある本質を捉えることである。
現象から本質を捉えるプロセスは「認知体験」と呼ばれる。これを3つのプロセスに分解すると、直接の見たり聞いたりする「知覚」と、知覚情報を保存した「記憶」と、情報の総合的な解釈や判断をする「思考」がある。
この認知体験でエラーが起これば、本質を正しく捉えることはできない、すなわち、科学の目的が達成できない、ということになる。逆に言うと、人間が嵌りやすい認知のエラーについてあらかじめ自覚しておくことが、科学を実践する上で大切だと言える。
この本は、認知体験の「知覚」「記憶」「思考」のそれぞれについて、起こりやすい認知のエラーを説得力を持って説明してくれる。この本を読んだ後は「自分で確かに体験したのだから間違いのない事実である」と主張することに慎重になるはずだ。
以下、引用しつつ紹介していく。
知覚のエラー
知覚のエラーについて書かれた第2章を読むと、
ということがわかるだろう。ここでは多数の知覚のエラーに関する研究の結果が説得力を持って示されているが、この記事では1例だけ引用する。以下の絵を見て欲しい。
(画像:「超常現象をなぜ信じるのかー思い込みを生む『体験』のあやうさ / 菊池聡」 Gregory’s Dalmatian Dog (Photographer: RC James))
「これは何の絵でしょう?」ときかれても何が描かれている絵なのか多くの人がわからないはずだ(実際の実験結果でもそうだった)。しかし、何の絵かわからなかった人も「これはダルメシアンの絵です」と言われると、絵の中にダルメシアンが浮かび上がってくるのではないだろうか?
これは事前知識によって知覚が変化することを示している。人の知覚は単純な外界からのインプットではなく、あらかじめ持っている知識による影響を受ける。
記憶のエラー
記憶のエラーについて書かれた第3章を読むと、事後情報によって偽りの記憶が作られることがわかるだろう。しかも恐ろしいのは、
ということである。
この章は、驚くべき記憶変容の例がたくさん出てくるのでとにかく読んで欲しい。
思考のエラー
第4,5章は、思考段階のエラーについて説明される。
第4章を読むと、人間には自分の仮説をそれに合う例で確認しようとする「確証バイアス」という思考の癖が備わっていることがわかるだろう。
例えば、「外国人には犯罪者が多い」という考えを一度持つと、「外国人が犯罪者である例」ばかりに目が行ってしまう。そして、「ふむふむ……たしかに外国人犯罪が多いな……」と納得してしまうだろう。本来、この仮説を確かめるには、「外国人が犯罪者でない例」「日本人が犯罪者である例」にも着目しなければならない。注意したいのは、これは人間に備わる癖なので、意識しなければそのような思考をしてしまうということだ。
「めったにないこと」が起きたら、それは偶然ではない何かの要因があると考えるのは正しい姿勢だろう。しかし、「めったにないこと」という解釈がいかに危ういかが第5章を読むとわかる。
「知人に不幸があった」としよう。その不幸があった日の数日前に知人が「夢に出てきた」ら、これは知人の"不幸の予兆"だと考えるのではなかろうか? しかし、よくよく考えてみると「夢に出てきた」以外に、「思い出のカップが割れた」「思い出の場所がニュースで取り上げられた」など、予兆として解釈されるような出来事は無数にある。しかも、知人というのはたくさんいる。さらに言うと、この"不幸の予兆"を体験できる人は世界中に78億人いる。そして、"不幸の予兆"が噂話として取り上げられ、フィーチャーされる。
ここまで読んでみてどうだろうか? 世の中で語られる"不幸の予兆"は本当に「めったにないこと」と思うだろうか?
まとめ
客観性を高めて科学を実践するためには、人間の認知体験に数多くの落とし穴があることを自覚し、「我々はしばしば間違える」という態度でいることが望ましい。
ぜひこの本を読んで、認知のエラーを少しでも回避できる素養を身に付けたい。
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