女子にも体力章検定導入ー検定種目に攻撃や防空に役立つものが入っているのが時局を表すが、どれだけ実施されたか
1943(昭和18)年9月23日の信濃毎日新聞朝刊は、一面で「戦力の画期的増強へ 国内態勢を徹底強化」の政府方針を伝え、青年男子の17職種への就業禁止、女子の活用、学徒の徴収猶予撤廃などによる国民動員の強化があげられました。
そんな日の紙面に「女子体力検定 国防と体育に重点」との記事も掲載されていました。もともとは、男子青少年の基礎的体力を向上させる狙いで、厚生省が日中戦争下の1939(昭和14)年10月から始めたのが「体力章検定」です。今度も同じ厚生省が、女子を対象に同様の検定を行うとしたのです。女子の動員促進と機を同じくしており、男子同様、基礎的体力向上で男子の代わりを務めさせる狙いがあったのは間違いないでしょう。
男子の体力章検定は、100m走、2000m走、走り幅跳び、懸垂、重量運搬、手榴弾投―の6種目で、特に重量運搬と手榴弾投げは、軍事目的であることが明らかです。では、女子はどうだったか。著作権切れであり、よくまとまっているので、以下に記事を転載します。
◇
(ここから転載・1943年9月23日の信濃毎日新聞朝刊4面より)
「女子体力検定 国防と体育に重点 基礎、特殊、行軍の三種」
この秋から女子にも体力章検定検査が実施される、体育を通じて活動的な女性を仕立て上げると共に明るく強くやさしい日本の母日本の家をつくり上げようといふのが目的だ、該当者は数へ年十五歳から廿一歳までの女子全部、廿二歳以上でも希望者は受検できる、検定の仕組みは基礎検定、特殊検定、行軍の三種、以下各検定種目について簡単に説明しようー
【基礎検定】
▼千米速行 △上級四分三十秒以内△中級五分以内△初級五分三十秒以内△級外六分以内
▼縄跳 これは只一本の縄さへあれば簡単に出来る運動で腰部の発達、体の柔軟性を増す、跳躍のやり方は片足跳び両足跳び何れでもよい △上級一分二〇秒以上△中級一分〇秒以上△初級四〇以上△級外二〇秒以上
▼短棒投 長さ三十糎、直径四糎、三百グラムの棒を投げるのでこれも国防上の必要性を織り込んで加へられたもの、投擲の方法も各人得意の投げ方で規定の距離に達すればよい △上級二四米以上△中級二〇米以上△初級一六米以上△級外一二米以上
▼運搬一〇〇米 重量八瓩(キログラム)の土嚢を両手に一個づつ下げて五〇米を折返し走る、八瓩といふ重量は丁度バケツに水を一杯入れた重さに相当する、空襲時の活動を予想しての種目である △上級二四秒以内△中級二六秒以内△初級二九秒以内△級外三五秒以内
▼体操 体操は身体を平均に発達させる、検定には間違いなくスラスラとやりさえすればよい △上級大日本女子青年体操△中級大日本国民体操△初級国民保健体操第二△級外国民保健体操第一(記事には第二とあるが、誤植であろう)
【特殊検定】
▼水泳 これは距離泳(二〇〇米完泳)時間泳(七分間泳)泳速(五〇米一分二五秒以内)のどれか一つ出来さへすればよいわけだ、距離泳は静かな水の所で二〇〇米完全に泳げればよく泳形は自由、時間泳は流れに沿いまたは遡ぼり或いはプールの如き静かな所で七分間泳ぎ続けるもので泳形は矢張り自由、泳速は水勢のない所で五〇米を一分二五秒以内に泳げばよい、これも自由形である
水泳の検定に通過したものは基礎検定の体力章の下に「水色」の波形の模様が入る
▼行軍 女子も歩く必要が日増しに多くなった、そこでこの程度は是非とも歩けなければならぬといふ標準がこれ、二四粁(キロメートル)を五時間以内に様定められてある
これに合格すると体力章の下に「茶色」の筋が入る
女子の体力章は帯留め、あるいはブローチに作る筈である。
(転載終了)
◇
さて、短棒投げは、柄付き手榴弾を想定してのものかもしれません。筋力の少ない女性でも遠心力を使えるとの発想でしょう。そして運搬は記事でもあるように、防空の火災発生を想定していると言えます。それにしても、両手に水をたっぷり入れたバケツを持って百メートルを24秒以内で走れば上級という要求は、かなり厳しいように思えます。
そして、体育とあるのは、まさに体を育てる、つまり次世代を生み育てる女性とする狙いが込めてあります。
ところで、検定の基準にめでたく達した時にもらえる体力章は「帯留め、あるいはブローチ」とあります。もしかしたら作られたのかもしれませんが、当方でこれまで発見できたのは織り出しの布と紙製のものしかありません。
男性の体力章も、当初は七宝焼きのバッジだったのが、いつからか織り出しの布と紙製になっています。下写真、右が初期のバッジ、左が織り出しのものです。
女子の体力章検定の目的は「明るく強くやさしい日本の母、日本の家」をつくるtめだったそうです。それなら、戦争なんかとっととやめてしまえば良いのに。表向きの理由付けの裏には、必ず真の狙いがあるといえましょう。
関連記事 兵隊育成の体力章検定
ここまで記事を読んでいただき、感謝します。責任を持って、正しい情報の提供を続けていきます。あなた様からサポートをしていただけますと、さらにこの発信を充実し、出版なども継続できます。よろしくお願いいたします。