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NEW DAYS ★ プチDAYS★ブルックリン物語

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ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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2023年3月の記事一覧

プチDAYS「探しものは探してると見つからない」

アジシオが突然異次元へ飛んだ。 だって全くどこにもいなくなったのだ。何度も探す。しかし見つからない。こうして数日が過ぎた後、ひょんなタイミングで冷蔵庫を開くと、ひょっこりオカメ納豆の横にいた。そこは開けるとすぐ目に入る場所なのでおそらく異次元に紛れ込んでいたアジシオが何らかのタイミングで僕らの住む世界へとスライドして戻ったんだと思う。 不思議なことがある。音楽室の譜面。探しているジャズスタンダードの本「リアルブック」の3つ目がどうしても見つからない。これもつい最近ひょんな

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プチDAYS「樅を運んでる」

ぴはモミ(樅)を運んでる。 家のあちこちの隅っこに去年のクリスマスツリーのモミの葉っぱが落ちている。それは実はぴがあちこちものに当たりながら歩くせいで、迷ってぶつかった探検の結果、ソファの下や普段は目が届かない隅に、掃除し忘れたモミのカケラを体にくっ付けて運んできちゃうんだと思う。 あれ? またモミが床に落ちている。拾って綺麗にしてもまた気がつくと落ちている。日本へ帰国する前の1月頭に慌ててチョキチョキ切って抱えたモミの木を路上に捨てる時に後ろ髪引かれたあの思いが切なく蘇

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プチDAYS「おごと〜!でも無事よ。3」

ぴが帰還して少し経った。 最初はふらつきつつあった歩行も、もうかなり堂々と歩いている。しかし一番船を漕いでた左足はまだ少しおぼつかない。彼女もそこをわかって用心して踏ん張ってるのがわかる。 ご飯は偏食が進んでていて退院したすぐ後はもぐもぐだった食事が、今や毎回味付けを変えないと鼻をぷんとそむける始末だ。大江屋じゃ茹でたサツマイモとゆで汁汁、鳥の胸肉のゆで汁、ブロッコリーやトマト、マッシュルーム、人参のスープ、おかゆ、など常に作り置きしてうまく混ぜてぴの食欲が増すように工夫

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プチDAYS 「おごと〜! でも無事よ。1」

ぴが倒れた。 レコーディングのMIXを取りに行って帰宅し夕方一緒に聞いた。その後キッチンに二人で移動し、パパはぴごはんを作ってた。気配を感じて振り向くと、 キッチンの近くにうんこを放出したまま、その側のアイランドキッチンの下に挟まってぴが喘いでいた。心筋梗塞か脳溢血かおそらくそんな症状だと瞬間思った。息が止まる思いだった。 舟を漕ぐように左手を動かし、舌はべろっと垂れて目は白目を剥き、呼吸困難で全身硬直する彼女を救い出しタオルで身体を包み水を口にあてた。 苦しそうに声

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プチDAYS 「おごと〜! でも無事よ。2」

家に帰ると暗い床にぴの寝てたマットがある。 がらんとした部屋でアウターを脱ぎ捨て鍵を置き、一人ソファに寝っ転がる。ぎしっ。 ここんところずっとニューアルバムに没頭してた。思えば半年、一年? オンオフこそあったけれど、ゴールを目指してたものが二日前に仕上がった。持って帰ってきたばかりの音源を大音量でぴと一緒に聞いたのだ。時々ヘッドフォンの右を空中に開いてぴの耳に近づけて。 ぴが好物のミネラルたっぷりの海苔を久しぶりおやつにあげたりもした。思えばなんか普段しないようなことを

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プチDAYS 「凪の一日」

「Dr.Yanの施術は明日の1時です。このメールにくれぐれも返信をしないようにしてください。」 ピン!と音がして携帯を見ると明日のPhysical Therapy(理学療法)の診察のreconfirmation(再確認)だった。 ここのところ週一で通う中国式鍼治療。鍼は即効性があって毎回施術が終わるとスキップができるほど体が楽になる。楽になるからついつい鍼終わりでチャイナタウンでランチを食べてしまうのが玉に瑕。でもそうなるよねえ。美味しいものの宝庫チャイナタウンだもの。つ

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プチDAYS「長い1日だよ」

パンデミック以降、N Yの路上で亡くなるホームレスの数が急増したそうだ。そりゃそうだろう。明日は我が身、毎日地下鉄でお金を懇願する彼らに何かしてあげたいとは思ってもなかなかできないのが現実だったりする。 その亡くなった原因に「薬」が一番多いと言う記事を読んだ。心臓発作が多いそうだ。零下の街に薄い毛布にくるまり路上にいる彼らの姿がふと目に浮かぶ。この街にある危ない橋は一旦渡ると戻れない。出所は寂しさだったり夢と現実の落差だったり家族との不和だったり起業の失敗だったり。みんな大

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