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改めて3.11に想いを馳せるドラマ『水平線のうた』

「東日本大震災」から、もうすぐ14年…。東京に住んでいる自分でさえ、あのとき抱いた恐怖を今でもハッキリ覚えています。

ましてや被災地の方々にとっては人生が大きく変わってしまった大災害であり、何年経ってもあのとき受けた心の傷は癒えないと思います。

ドラマ『水平線のうた』は、そんな「東日本大震災」で妻と娘を失った阿部寛演じる大林賢次が主人公。津波に流された二人は、遺体が見つかっていませんでした。

賢次は津波で亡くなった人の霊がタクシーに乗ってくるという話を聞いて、妻と娘に会えるかもしれないからとタクシー運転手になりました。

行き先は埋め立てられたり消えてしまった土地で、到着するとシートからいなくなっているらしい…。

転職して十年。妻と娘にはまだ会えていません。

ある晩賢次はタクシーに乗せた白鳥玉季演じる女子高生・りらのハミングを聴いて、聴き覚えのあるそのメロディーがなんという曲か尋ねます。でもりらは、答えないままタクシーを降りてしまいました。

震災の前に家で松下奈緒演じる妻・早苗がピアノを弾き、娘・花苗が歌っていたところに出くわした賢次がなんの曲かと聞くと「ひ・み・つ」と、教えてもらえないことがありました。りらのハミングはまさに、二人が演奏していたその曲でした。

りらをタクシーに乗せてから半月ほど経ったある日、チェロを弾く青年の演奏を聴くりらと偶然再会し、またあの曲のことを尋ねます。りらは、完璧に口ずさめるのに「曲名は知らない」と言います。

曲の真相が知りたければ大船渡へ行こうとりらに誘われた賢次は、片道2時間かけて大船渡のとある音楽喫茶へ向かいます。

りらは3歳のときに、石巻で被災し両親と大船渡へ。その後両親は離婚。小学校卒業と同時に、再び石巻に戻っていました。

大船渡にいる頃、震災で遊び場を失った子どもたちの面倒をみてきた音楽喫茶の店主・三好に、りらもお世話になっていました。

その音楽喫茶で三好のピアノとりらのリコーダーで演奏してくれたのが、あの曲でした。

13年前、偶然海に流れ着いた楽譜。それは、まぎれもなく早苗が書いた楽譜でした。持ち主が現れるまで預かっておこうと、三好夫妻がずっと大切に持っていてくれたのでした。

亡き妻の早苗に逢えたようで、思わず「お帰り」と言う賢次。

その楽譜はクラリネットの“パート譜“で、おそらく四重奏の楽譜の一部。他の楽器の楽譜もあるはずだと、三好は言いました。誰かと演奏するつもりで、早苗が四重奏の楽譜を書いたのではないかと。

りらを送って行った賢次は、りらの父親・一樹と出くわします。一樹は、りらが霊が見えるとか霊の言葉を伝えるとか嘘を言って人の気を引くことがあると言い、遅い時間までりらを連れ回した賢次を責め、娘には近づかないよう警告します。

それでも賢次は、りらと話がしたくて会いに行きます。

「今から話すことは信じてくれても信じてくれなくてもいい」
「あぁ」
「おじさんはさぁ、たまたま私がタクシーに乗ったと思ってるでしょ?」
「…違うのか?」
「私は誰かに導かれるみたいに、いろんな場所に連れて行かれることがあるの。頼まれてその場所に行くこともある。体の中に、そういう風が吹くことがあるんだよ」
「風?」
「あの夜は女川のアイツといて、急に行かなきゃってなった。そしたらおじさんがいて、タクシーに乗ってすぐ、あぁなんかつながりがあるんだなって分かった」
「どういうことだ?」
「ああいうときにさ、風がいろんな記憶を落っことしていくの。風になった人の記憶をさ」

ドラマ『水平線のうた』前編より

りらはそこから賢次と早苗と花苗のエピソードや、賢次自身の話をし始めました。

「なぜ自分しか知らないことをりらが知ってるのか?」と、賢次は尋ねました。“早苗の記憶“が見える…それが自分の能力だと言うりら。霊が見えるときも、体の中に入ってきて話をするときもあると。

十何年も前の霊は話さないし、形も溶けてうっすら見えるだけ。だから、賢次のタクシーに乗っても賢次には分からないだろうとりらは言いました。

霊がタクシーに乗ってくるというところから、このドラマは″ファンタジー″要素もあると思いながら観ていたので、このりらの能力についても自然に受け止められました。

賢次はわけが分からないながらも、りらの話を信じた様子でした。

早苗が残した楽譜は、ボランティアで早苗がやっていた病院での「ふれあいコンサート」用の四重奏の楽譜と思われました。

「音楽って、心の薬」だという看護師。長期入院の患者さんは、コンサートを楽しみにしている人が多かったと。

四重奏のメンバーを看護師に聞くと、早苗の高校時代の恩師の菊池先生に聞けば分かると言われました。「お知り合いだと思ってたのに…」と言われて菊池先生に会いに行ったところ、いつも指名をもらって病院までタクシーに乗せて行っている菊池さんでした。

あの楽譜は、賢次と早苗の結婚十周年を記念して早苗が作ったものでした。病院のコンサートで、早苗がピアノを弾いてかなえが歌って、サプライズで賢次にプレゼントするつもりの曲でした。

早苗がピアノ、チェロが消防署の田中くん、フルートが市役所の前田さん、クラリネットが菊池先生の夫。

全員がすでに亡くなっていることを賢次は知りました。田中くんと前田さんは、震災で…。

もし音源があるならピアノ譜に書き起こしてあげるという菊池先生の言葉で、父親が二人の演奏の動画を携帯で撮っていたことを賢次は思い出します。

父親の携帯に、二人の演奏動画が残っていました。涙を流しながら動画を観る賢次。

「誰かに演奏してもらったら?」りらは、菊池先生に頼んでピアノ譜を起こしてもらって編曲も頼もう…四重奏の完成形を聴けるようにしようと賢次に提案します。

他に聴きたい人はいないだろうと言う賢次にりらは、自分も四重奏で聴きたいと言います。このりらのセリフ、心に沁みました。

「私は聴きたいよ。なんで一人だけ、なんで大人だけが悲しんでると思ってるの?なんでうちらはなんも感じてないと思ってるの?あの頃に早苗さんが一生懸命おじさんのために書いてさ、花苗ちゃんも歌ってさ。喜ばせようと思ってたんじゃん。あのときいなくなった人たちが、あのときまさかいなくなるとは思わないままに作ってた曲がさ。往復7万かかる町さ流れ着いて、小学生の私の“脳ミソ“ぺったん貼り付いて…。私あの頃寂しくってさ、早苗さんさ救ってもらったんだよ。私が聴きたいんだよ。そうやってあの町でみんなに弾かれたり、吹かれたり、聴かれたりしながらこの曲…。やっとおじさんのところに帰ってきたんじゃん。旅をさ、長い旅をしてきたんだよ。十三年頑張ってきたこの曲がさ、おじさんがメソメソ泣くためだけにあるって、もったいなくない?ってか、ありえないでしょ!涙ふけっ!悪いけど私、そういう涙見飽きてんだわ。そろそろハッピーに行こうよ!」

ドラマ『水平線のうた』前編より

実はこのドラマ、阿部ちゃんが主演というだけで観てみました。でも、りら役の白鳥玉季の演技にすっかり心を奪われました。自分のことを理解してくれない父親とは口も聞かないし、不思議な能力のために人知れず悩んだり苦しんだり…。三好夫妻にだけは唯一心を許していて、他の大人に対しては不信感を抱いているよう。

どこか、人生を達観しているようなりら。メソメソ泣いてばかりの賢次を叱咤激励するりらの姿は、どちらが大人なのか分からないほど大人びて見えました。

「早苗も花苗も喜ぶだろうな。それこそ、会場さ来てくれるかな?」
「風だけどね」
「ありがとう」
「きもっ」

りらは賢次のことを“おじさん“扱いし、りらに花苗の面影を見ている賢次。二人の偶然ではない出逢いが、なにかしらの奇跡を起こすのか?

亡くなった父親に「海に散骨してほしい」と頼まれてどうするべきか悩み続けていた賢次が、あの津波の起きた海へ父の遺骨を散骨するのか?

前編・後編のこのドラマ、後編で聴ける四重奏がどんな演奏になるのか非常に楽しみです。

決して風化させてはいけない「東日本大震災」という大災害をテーマにしたドラマや映画を数々観てきましたが、また一つ素敵なドラマがそこに加わりました。

ドラマ『水平線のうた』は、改めて3.11に想いを馳せるきっかけになる温かくて優しい作品だと思います。

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