”愛するということ”の本質を問う『アナログ』は、何度でも観たくなる愛しい映画でした
やっと映画『アナログ』を劇場で観てきました!
「愛する人を想い続ける心に、涙する。この秋一番の感動作。」
この”うたい文句”に嘘偽りなしの素晴らしい作品でした。ただひたすら優しく愛しい時間がそこに流れていて、映画のセリフの中にもありましたが「人を愛するってこういうことなんだな…」ということを、観終わったあとも自分の心の中で静かにかみしめています。
「アナログ」というタイトルの持つ”意味の深さ”も見事だと感じました。
パンフレットにあった「ピアノ」のマスター役・リリー・フランキーの言葉【「便利になること」は、どこか「心が不便になること」だと、この映画は教えてくれます】はまさにその通りだと。
映画のそこここに「アナログ」が散りばめられていて、なんでも便利になり過ぎた今だからこそ時代と逆行するような「アナログ」の良さがじんわり心に沁みてきました。
もっともっと細かい「アナログ」の描写がいろいろあったのですが、とりあえずいくつか書き上げてみます。
【手作り模型や手描きのイラストにこだわっているデザイナーの悟】
今のデザイナーはパソコンを使ってCGで作業をすることがほとんどだと思われますが、どれだけ時間と手間がかかっても自分のイメージを伝えるために手描きや手作りにこだわる悟の”人となり”が「アナログ」な作業を通じてこちらに伝わってくるようでした。日本橋のレストランの仕事で悟の描いた手書きのイラストは、温かくて本当に素敵でした。
【携帯を持たないみゆき】
悟がデザインした喫茶店「ピアノ」で偶然出逢った謎めいた女性・みゆき。本当の自分を隠す意味もあって携帯を持たない生活を送ってきたけれど、連絡先を交換することなく「毎週木曜日に、同じ場所で会う」というこの「アナログ」な約束こそが、悟とみゆきの距離を少しずつ着実に近づけていく役割を果たしていきました。
直接会っていろんな話をして、その日に何をするのかを決める…事前にLINE等でやり取りしないで当日その場で予定を決める感じもまさに「アナログ」でした。
【みゆきの真実と現状を告げに大阪まで悟を訪ねて行く悟の親友・高木と山下】
山下の奥さんの仕事がきっかけで知ることとなったみゆきの真実と現状を告げに、わざわざ大阪にいる悟に二人が会いに行くのも「アナログ」でした。LINEや電話で告げることもできたのに、悟の顔を直接見て涙を流しながら語る姿を見ていたら、人間同士のコミュニケーションはやっぱり本来こうあるべきなのではないか?と改めて感じさせられました。
【初めて昼間に海辺で会い、糸電話で想いを告げた悟とみゆき】
このシーンはこの映画の中でも重要なポイントになっていました。海辺に落ちていた凧を見つけて、二人で”凧あげ”をしたのも「アナログ」でしたね。紙コップとタコ糸で糸電話を作り、電話で話をしたことがなかった二人が糸電話で話をするシーンはグッときました。糸電話も「アナログ」。
「あなたに何があったのか僕にはわかりません。でも僕は受け止めます。これから先、みゆきさんと一緒に歩いていきたい」
悟のこの言葉、聴こえていたのに聴こえていないフリをしたみゆきの答え実はYesでした。
ネタばれになってしまいますが、みゆきが突然姿を見せなくなった理由は事故でした。悟がプロポーズをしようと思い「ピアノ」で待っていたまさにその日に…。
脳障害と下半身まひが残り、意思の疎通ははかれないとみゆきの姉に告げられます。車いす姿になってしまったみゆきを演じた波瑠の表情は胸が痛くなるほどリアルでした。
みゆきの姉が木曜日なら「ピアノ」に悟がいるであろうと、みゆきの日記を持ってお店に現れました。これは悟が読むべきだと。
その日記を悟が読むシーン辺りから涙腺が…。その時のニノの泣く演技があまりにも素晴らしかったのもありましたね。映画を観ていたら、悟のみゆきへの想いの方が最初は強い印象でしたが、日記を読むとみゆきの悟への想いも負けないくらい強いものがあったことがヒシヒシと伝わってきました。二人は相思相愛だったんです。
相手の素性もよく知らなかったし、身体の関係もない相手にプロポーズをする悟の心情を不自然に感じてしまうことはないのか?と私自身映画を観る前に考えていました。
でもこの映画はそういうことを感じる”すき”もないほど二人の距離が自然に近づいていって、互いに相手を想い合う「純愛」がいつの間にか成立してしまっていました。これが成立できたのは間違いなく悟役がニノでみゆき役が波瑠の二人だったからだと、今はそう感じています。これが私がnoteに書いた”二人から生まれる化学反応”だったんだと。
映画のラスト。みゆきを毎日見舞うため、海の近くに家を建て会社を辞めてフリーランスのデザイナーになった悟。日課は車いすのみゆきと一緒に行く海辺の散歩。寒くなってきたので帰ろうとする悟は、みゆきの手が動いて悟の腕に触れたことに気づき…。次の瞬間みゆきがかすかな声で「今日は木曜日なの?」と。悟の目からポロポロと涙が…。
今も、これからも毎日が木曜日の二人。誰かをここまで愛することができれば、人間本望かもしれませんね。
たけし流「純愛」を描いた『アナログ』は”愛するということ”の本質を問いかけてくるような、何度でも何度でも観たくなる愛しい映画でした。
長い文章最後まで読んでくださり、ありがとうございました。