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【開発50年以上の歴史と技術で作る】「ずっときれいな景色を楽しんでほしい」透明の防音壁にかける技術者の挑戦
こんにちは!積水樹脂グループnote編集部の土井です。
今回は当社が50年以上にわたって開発に携わる防音壁とその中で注目されている製品、「長耐久ガラスコーティング透明板」についてご紹介します。
日本で最初の高速道路ができたのは1965年、防音壁が設置されはじめたのは1970年ごろ
1963年7月16日、初めての高速道路となる栗東ICと尼崎ICを結ぶ名神高速道路(71㎞)が完成し、その2年後の1965年7月1日には名神高速道路が全線開通しました。
余談ですが、この名神高速道路には大阪と京都の間に「天王山トンネル」があります。初めて車で通った時はここがよく野球や受験で例えられる「天王山」だ!とちょっとテンションが上がりました。
この高速道路に、今では当たり前の風景となった防音壁(遮音壁)ができたのは1970年ごろのことです。(公益財団法人 高速道路調査会 50年のあゆみ より)
当社の防音壁の開発は1971年から
当社はその前から道路標識や標示材など交通安全製品に携わっていたこともあり、1971年から「ジスロン遮音壁」として防音壁を開発していました。
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この時から50年以上、当社は技術を改善し、防音壁を開発してきました。
今ではその技術を民間にも転用して、防音めかくし塀などを開発しています。
防音のタイプ(遮音か吸音か)、技術や外構での防音対策は下記をごらんください。
阪神大震災の直後に、入社してきた萩原
本日お話を伺う萩原室長(以下、萩原さん)が入社されたのは、阪神淡路大震災で阪神高速道路が東灘区深江地区で635mにわたり17基の橋脚が倒壊した後。
阪神高速は、地震の復旧と併せて最新の環境対策を施されました。当社では裏面吸音板など自動車騒音対策としてさまざまな製品を設置しました。国道43号沿道の高層住宅に対するため、路面から高さ約7m。山側に設置された遮音壁には、透明板を多用することで、近接家屋の日照等に配慮しており、またドライバーから街並みや六甲の山並みが見えるようになりました。
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萩原さんプロフィール
現在の部署は第一事業本部 都市環境事業部 開発室。入社以来ずっと防音壁の開発に参画。
休日は、会社の仲間とは 自転車ツーリング や キャンプ や スノーボードなどアクティブに過ごすことも多いです。愛犬ポメラニアン(あんず)と自宅近くの近江八幡のお堀でのお散歩も癒されます。(プライベートの様子は最後の「おまけ」をご覧ください)
萩原さん)入社直後は構造設計の業務で防音壁の開発に参画し、阪神高速道路の復興に先輩たちが携わっているのを見ていました。
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私が最初に製品として携わった防音壁は名神高速道路の高槻市付近に設置されました。設置された時は両親を車に乗せて、これを作ったんだよ!とドライブがてら紹介しましたね。
土井)高速道路なので、一瞬ですけれど通るたびに見てもらえますね。
萩原さん)そうなんです、そのドライブで、両親に私が携わった製品を見てもらえたのは一瞬でした。笑 今はリニューアルでもうその防音壁はないので土井さんにはご紹介できないんですが。
それからずっと防音壁の開発をしています。
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当時の音響フィールド試験(今はなき、竜王スケート場の駐車場)
土井)防音壁はちょうど防音めかくし塀のお話を聞いた時に知りましたが、用途によりいろいろな種類があるんですね。
萩原さん)そうです。
当社が製作・販売している防音壁(一部)
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萩原さん)場所にもよりますが、このごろ人気が高いのは透光性遮音板です。眺望性も確保できますし、日照も守られます。
そしてこのアルミの枠も当社の防音壁の付加価値なんですよ。
土井)何が違うのですか?
萩原さん)アルミ枠は軽くて、鉄よりは柔らかく、さまざまな形に押出することができるんです。アルミ枠の透明板は1997年から開発しています。
土井)この透明な素材はなんですか?ガラス?
萩原)ポリカーボネートです。ガラスも透明ですが、当社はポリカーボネートを使用しています。
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萩原)ポリカーボネートには3つの大きなメリットがあります。
◆ポリカーボネートの3つのメリット
①軽量
ポリカーボネートの比重は1.2とガラス(2.5)や鋼板(7.85)などに比べ、非常に『軽量』な素材です。ガラスの1/2の重さです。
②耐衝撃性
耐衝撃性能に優れ、二次災害の危険性の少ない素材です。
③耐燃性
ポリカーボネートは、燃え広がらない『自己消火性』の性能を持っています。
土井)素晴らしいじゃないですか。
萩原)ただ、ポリカーボネートには弱点があるんです。
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◆ポリカーボネートの2つの弱点
①紫外線により劣化する
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②表面が柔らかいので、傷がつくと白濁してくる
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萩原さん)ちょうど上の写真のように、設置基準の20年を経過すると黄色くなったりします。これから高速道路などは長年設置された防音壁が増え、リニューアルが必要なものが増えてきます。そして今後は人不足になってくる未来が予測されるので、できるだけメンテナンスが楽で、ライフサイクルコストがかからないものが必要とされる。
これをなんとかできないか、が私の大きなテーマでした。
ライフサイクルコスト
製品や構造物(建物や橋、道路など)がつくられてから、その役割を終えるまでにかかる費用をトータルでとらえたもの。建物の場合、企画・設計から建設、運用を経て、修繕を行い、最後に解体されるまでに必要となるすべての費用を合計したものです。
初期費用(建設など)より、ランニングコストの方がライフサイクルコストに占める割合は高くなります。
そのため、長寿命・高耐久の部材を使用する、維持管理をしやすくする、などの視点が計画当初から求められます。
何とかずっときれいな透明板で景色を楽しんでもらえないか、の思い
萩原さん)そこでまずは、耐候性の処理をしたポリカーボネートを開発し、3層の押出での製法でやってみたんです。
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土井)3層で最初からできるということは表面加工は不要という事ですか?
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萩原さん)そうなんです。密着性も高く、塗装も不要でいい、と思われました。しかし、、、、表面の柔らかさはあまり変わらなかったんです。。。
土井)先ほどの弱点の①紫外線の劣化 は防げても ②の問題がクリアにならなかったんですね。
表面硬度を向上させ、耐候性能も向上させるガラスコーティングを行うことに
萩原さん)当然設置基準には合格しています。が、最新の技術を持ってしてでも、20年以上経過すると、黄色くなってしまう。申し訳ない、何とかできないかという気持ちが常にありました。
そこで、次は特殊ガラスコーティングを試してみることにしました。
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こうすることで表面硬度は向上しますし、耐候性能も向上できました。
土井)この耐候性能はどのような形で計測するのですか?
50年キレイが保たれる評価の試験を行うのは2年がかり
萩原さん)強力な紫外線をあてて促進試験を行います。20年相当を試験するのにも通常10か月程度評価時間が掛かります。それを50年程度となれば2倍以上つまり、評価に2年程度必要なんです。また、大型連休中は試験機が止まったり、失敗したらイチからになるので、常にどうしようという気持ちが頭の隅っこにありましたね。
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萩原さん)でもやはり開発のすぐ近くに評価ができるところがあるのは強いですね。培ってきた技術がすぐの改善に役立ちます。
これがその促進試験の結果です。
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促進耐候性試験の結果をグラフにしました。SWOM(Sunshine Weather-O-Meter)とは、屋外の環境条件を模倣し、製品や材料の耐候性を評価するための試験方法のことです。(値は試験値のため、保障値ではありません)
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摩耗の試験も
(下の写真を見て傷がついていないのわかりますね!)
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雨でセルフクリーニング機能がある点も余裕で合格!
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耐衝撃性の試験も実施しました。
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萩原さん)試験の結果であり、保証値ではありませんが、10,000時間後もきれいが保たれる、ということはおそらく私がいなくなった後にも安心・安全を守る防音壁になります。また、これからは道路は新設よりもリニューアルが増えてきます。一方で建設等に携わる人員不足は続くと思われますので、このような長寿命の製品を設置することが、メンテナンスの負荷も軽く、安全安心を長続きさせることに役立つと考えています。
すでに高速道路や九州新幹線などにも使われているんですよ!
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8月には国土交通省の新技術情報提供システムNETISにも登録されました。
「NETIS」とは?
国道交通省の「NEw Technology Information System(新技術情報提供システム)」の略です。
「NETIS」に登録されるメリットは
①製品の技術が信頼できる
NETISに登録されている“新技術”は従来技術に比べて優位性の高い技術なので、従来の技術と比べて活用した際の効果が同じかそれ以上と見込まれるから
②その製品を工事で採用する企業が工業工事の入札に有利になる
NETISに登録されている製品を実際の工事で活用すると、活用の効果に応じて工事成績評定での加点の対象になるから
土井)今後はどうこの製品を進化させていかれるのですか?
萩原さん)ご要望もいただいているので、さらに1枚が大きなサイズの長耐久ガラスコーティング透明板をも製作できるようにしていきたいです。
土井)たくさんお話聞かせていただいてありがとうございました!
おまけ
オフも充実の萩原さんに写真を見せていただきました。
滋賀工場の品質管理、開発、製造の皆さんとサイクリング。
想像(私の)より自転車&ウェアがみなさん本格的!
さらっと「この日は彦根城まで行ったかな」とおっしゃられましたが、距離を調べてみたところ、往復で軽く40km以上!😲
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中村さん、ご退職されているのですが時々このnoteを
見てくださっている とのことで、嬉しいと同時に
ちゃんと伝えないと、と背筋が伸びました。(土井)
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