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綿帽子 第十五話

「おはようございます」


「尿がどれぐらい出ているかチェックしたいので、便器の方にしないでこちらにしてくださいね」

看護師さんが大きな四角い容器を持ってきて便座の横に置いた。

これからしばらくは、この中を目掛けて用を足さなくてはならないのだ。

「そう、容器の中心に向かってベストショットを放つ」

一滴も外に漏らさず、尚且つ看護師さんの手を煩わせることがないように、俺の俺をコントロールしなければならないのだ。

今の俺にそれができるのかは定かではないが、頼まれたからには仕方がない。

俺はベッドから降りると任務を遂行すべくトイレに向かった。

正しく競馬でいうところのジョッキーの様な心境だ。

ジョッキーは馬の身体の動きや、その時の馬自身の精神状態を瞬時に感じ取り、確実に勝利へと導かなければならない。

名ジョッキーになればなるほど、その日の天候、馬場状態は勿論のこと馬の息遣いさえも判断材料として状況に見合ったレース運びをする。

俺はトイレに入ると容器を覗き込み、それから大きく深呼吸をした。

そして、懐から徐に俺の俺を取り出すと、慎重に狙いを定めてから第一打を放った。

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