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綿帽子 第十話

先生がやって来た。

「◯◯さん、色々と培養したりして調べていますが、変わらず原因は不明です」

「ウイルス性の可能性は低くて、どうやら細菌性のようです。何かというのは断定できていません」

「そこが掴めると良いのですが、この抗生剤が効いているようですので継続して様子を見ます」

それだけ告げると先生は足早に去って行った。

希望が見えて来たのだろうか、まさに鍛冶場の馬鹿力とでもいうべきだろうか。

本当にもう神仏は信じないと決めてから、俺は少しだけ気合いが入っていた。

相変わらず希望の灯は遠くとも、生きるんだという強い意志が戻りつつあった。

口からは自分自身の死滅した細胞が発している臭いなのだろうか?魚の腐敗臭に似た香りがした。

強く実感する死の香り。

死臭としか表現のしようがない。

こういう時に鏡を見るべきではないと言われたりするのだが、如何せんスマートフォンという便利な物がある時代。

わざわざミラーアプリをダウンロードするまでもなく、見ようと思えばいつでも自分の顔を見られるのだ。

早速俺はiPhoneの写真アプリを開いてみる。

カメラの向きを反転させてから自分の顔を覗き見た。

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