慣習から解き放たれる。心地よい選択をして結婚行事を楽しんでみたい。
慣習が好きじゃない。
厳密にいうと、伝統は美しく尊いものではあるけれど、「わたしたちを縛る道具として伝統を重んじる慣習」が好きじゃやい。
「両家顔合わせ」という両家の親睦を深めるお食事会において、「××しなければならない」という肩をこわばらせる慣習に、わたしも彼も縛られたくなかった。
大切なのは「一般的な両家顔合わせのマナーを守ること」ではなく「家族同士が喜び合える選択をすること」であるはずだ。
わたしたちと、わたしたちの家族が、皆自分らしくいられるように。自分たちが「心地よい」と思える選択をして、その場に集まろう。
その筆頭として、わたしたちは「手作りクッキー」を両家のお土産として準備することにした。
断じて、わたしも彼もお菓子づくりが得意なわけではない。頬を落とすおいしいお菓子をつくれるスキルも、綺麗で映える見た目のお菓子をつくる能力も持ち合わせていない。
けれど高級品のお菓子を買って渡すよりも、美しくて可愛い既製品のお菓子を贈るよりも、「手作りお菓子」を渡す選択のほうが「心地よい」と感じたから、やってみることにした。
作るのは、アイスボックスクッキー。
アイスボックスクッキーとは、棒状にした生地を金太郎飴のように輪切りにして焼くクッキーのことだ。
棒状にする段階で生地を組み合わせて模様づけをすることで、動物やフルーツなど可愛らしいクッキーを簡単に作ることができる(と、レシピ本に記載はあるが定かではない)。
大量の薄力粉とバターを買って、ざっくり当たりつけたら、クッキーづくりスタート!
〜素人の不器用クッキーづくりレポをお楽しみください〜
まずは、プレーン。
少しずつ材料を組み合わせながら、混ぜてまぜて、混ぜまくる。どんどん質量が増して、重く固くなっていく生地に完全に手首がイカれた。
プレーン生地が大量にできたら、生地を小分けにして、彩りをくわえていく。
ひとつめはココアパウダーを少しずつ入れながら、つくるココア生地。マーブル色がだんだんココア色に染まっていく様子は見ていて楽しい。達成感がある。しかし、手首は完全にイカれた。
ふたつめは、抹茶。抹茶パウダーが見つからなかったので、抹茶ラテの粉を投入して色づけ。
はじめは「砂漠か」とツッコミたくなるほどパサッパサになってしまって、泣きそうだった。やはり、手首はイカれた。
みっつめは、明太子。
ではなく、食紅で色づけしたプレーン生地だ。食紅をお湯で溶かして、少しずつ加えながら色合いを調整していく。染まりやすく、手首はイカれなかった。ありがたい。
さいごは、たらこ。
ではなく、食紅で色づけしたプレーンその2だ。やや薄い色合いになるように調節した。手首は無事だ。
こうして、全5種類の生地が完成……!!
すでに疲労感が全身を包み込み、冷蔵庫で寝かせている間に、こちらも一休憩。
生地を寝かせたら(身体を充分に休めたら)5種類の生地を組み合わせて、模様をつくっていく。
まずは、いちご。
おい、ニンジンと呼ぶな。
つぎは、キウイ。
大丈夫、ちゃんと後でキウイになるから。信じて。
そして、くまさん。
おい、ウサギと呼ぶな。
切るのが下手くそな件に、触れるつもりもない。
こっちは、カエル。わりと良い感じ。
そして、ウサギ。
切る前がだいぶエグいけれど、断面はいい感じだ。
そして、こちら。
なんだ、これは。
分かる人はいるのだろうか……。
おい、かまぼこと呼ぶな。
正解は、可憐なマーガレットである(お花)。
本当にほんとうに、かわいいお花になる予定だったのだけれど、おかしい。
とりあえずピンクの部分がいい感じに「オカッパ」に見えるので、「オカッパの女の子」にすることにする。
お花から、女の子へ、華麗に変身だ。
金太郎飴のように等間隔で生地を切ったら、ゴマで瞳や鼻、種などの模様つけて、焼く最終準備に入る。
ほら、キウイになっただろう。ゴマの存在はスゴいのだ。
(だけどゴマつけが大変すぎて、腰がやられた。)
いざ、焼きタイム。オーブンで8分ほど焼いたら、焼き色がつかないようにアルミホイルを被せるのがポイントだ。
こうして累計10時間ほどかけて完成した「手作りクッキー」が、こちら。
お花でも、オカッパの女の子でもない、何かが生まれたけれど、これはこれで可愛いから良しとする。
素人によるお菓子づくりのポイントは、ポジティブシンキングなのかもしれない。
クッキーをしっかり冷ましてから、透明のラッピングバックに詰めて、リボンで飾りつけをしたら、完成!
世の中に「手作り感満載クッキー」を両家顔合わせのお土産に携えていく人がどのくらいいるのか分からないけれど、わたしたちらしいギフトに仕上がったと思う。
兎にも角にも、こちらは勝手に大満足だ。
手作り感満載のクッキーを携えて、いざ両家顔合わせへ挑んだわけだけれど。
結論、特別何かがあったわけではない。
けれど、オリジナリティある贈り物を持っていったことで生まれた会話があるし、体験できた感情がある。わたしたちが知らないところで浮かび上がった心の声も、きっとあるだろう。
手作りクッキーがなかったら、当たり障りのない(なんて言ってしまうのは寂しいけれど)言葉を交わして、「また今度」と終わっていたかもしれない。
通例である両家顔合わせというイベントのなかに、わたしたちだけの「陽だまり」をもたらせたような気がして、充足感が心のなかをじんわりと満たした。
果てしない自己満足ではあるけれど、たぶん、両家とも驚きながらも喜んで受け取ってくれていたと思う。
きっとこれから、何年、何十年と経っても、両家顔合わせに手作りクッキーを携えた思い出は忘れないだろう。
そんな愛しい思い出をつくることができたのは、やっぱり「一般的な両家顔合わせのマナーを守ること」ではなく「家族同士が喜び合える選択をすること」ができたからだ。
そして「慣習という縛り」から抜け出すことで、結婚にまつわるイベントを「こんな風に楽しんでみよう」という新しいアイデアが生まれてくることを知った。
これからも「心地よい」と思える選択をして、ウェディングイベントおよび結婚生活を楽しんでみたい。