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人は不器用な方が幸せかもしれない。中日の「器用すぎる」根尾投手を思う。相次ぐポジション変更の先に投手人生を決意。愚直にマウンド勝負を貫いてほしい
器用に何でもこなせる人をうらやましく思う。ただ人は不器用の方が幸せなのかもしれない。中日の「器用すぎる」根尾昂(あきら)投手を思う。入団後の相次ぐポジション変更を経験した。根尾投手が最後に選んだのは投手人生。プロ入り7年目の24歳。愚直にマウンド勝負を貫いてほしい。
根尾投手は高校時代から野球ファンにとってスーパースター級の選手だった。大阪桐蔭高時代、2年春から4季連続甲子園に出場。投手とショートをこなす「投打二刀流」。3年時には春夏連覇の原動力となった。
ピッチャーとして150キロを出し、野手として俊足巧打。しかも中学時代は「オール5」と文武両道だった。実は東京大学がマークしていて、大阪桐蔭高へ進学するにあたり、進学主体のコースへ入るべきではないかと勧めていたという。
両親ともに医師であり、子どもは学業に秀でている甲子園優勝投手。理想的な「パーフェクト・ファミリー」だ。
そして根尾投手は高校卒業後の進路として、プロ野球を選んだ。2018年のドラフト会議で中日、日本ハム、巨人、ヤクルトの4球団が1位指名。抽選の末、中日が交渉権を獲得した。
岐阜県出身の根尾投手。中日は東海エリアで群を抜く人気を誇る。まさに理想的な球団に選ばれたといえる。契約時には「ショート一本でいかせてください」と伝えていた。
ただ、ここから流転のプロ野球人生が始まる。ルーキーイヤーにフレッシュオールスターに出場。9月に1軍初出場を果たした。
2年目の2020年。8月4日にプロ初先発を果たしたが、ポジションは「ライト」だった。1軍で9試合に出場したものの、ショートでの出場はなし。ただ、本人はショートへのこだわりが消えなかった。
2021年に外野中心で自己最多の72試合に出場した。ただ打率は2割にも到達しなかった。翌年、根尾選手は外野一本で勝負しようとするが、4月にショートへ再コンバート。そして5月には投手として出場した。
根尾選手にとっては器用にどのポジションでもこなせる。それゆえの「不幸」かもしれない。まさに「器用貧乏」だ。
不器用で、自分にはこれしかないと思えば、愚直に突き進める。なんでもこなせてしまうだけに、周囲からいろいろな選択肢を提示されてしまう。これは器用すぎるゆえの「悲劇」に映る。
ようやく投手として野球人生の道が定まった。2022年は25試合に登板しながら、23年2試合、24年3試合と、ここ2シーズンは1軍出場に恵まれていない。
ただ根尾選手には、ここで再び野手に戻ることをしてほしくない。投手として決意したからには、マウンド上の勝負を貫いてほしい。
器用すぎるゆえにポジション変更が続いた「流転のプロ野球人生」。ここからは愚直に投げ続けてほしい。もう器用である必要はない。
「不器用」でいい。一球一球に野球人生をかけてほしい。根尾投手に今季の活躍にエールを送りたい。