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海や国境を自転車で駆け抜ける
ペダルを踏むたびに風を感じ、目の前の景色を全身で楽しめる自転車。
気分転換や体力作りもできて環境保護にもつながる――ポジティブな効果がたくさんあります。
移動手段という枠を超え、ライフスタイルそのものとして自転車を愛用している成城学園の先生方のお話を、シリーズでお届けしています。
「先生×自転車」の第2回目は文芸学部文化史学科 俵木 悟 教授です。
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自転車をはじめたきっかけを教えてください。
初めてドロップハンドルの付いたスポーツタイプの自転車に乗ったのは30年以上前のことです。
二つ下の弟がイタリアのビアンキというメーカーの自転車を買ったのですが、たいして乗らないままベランダに置いてありました。もったいないなと思って、私が勝手に乗り回すようになったのが、自転車のはじまりです。
当時は自転車に乗ることが目的ではなくて、元々登山や旅行が好きだったので、お金をかけずに移動するための手段として乗っていました。
今みたいに自転車を楽しむようになったのは、2016年にアメリカの大学に研修で半年間行ってからですね。
その時に現地で私がお世話になっていた先生が、引っ越しのタイミングで使っていた自転車を譲ってくれて、日常的に乗るようになりました。
借りていた家から大学まで徒歩で45分くらいかかる場所にあったので、とても助かりました。ちょうど私が研修に行っていた時期はアメリカの大学の夏休みと重なっていたこともあり、2ヶ月くらい時間に余裕があったので、大学だけでなく街のあちこちへ自転車に乗って行きました。
後で知ったことですが、私が行ったインディアナ州ブルーミントンは、アメリカでは自転車の街として有名な街だったんです。
インディアナ大学の周辺で行われる自転車競技をテーマにした「ヤング・ゼネレーション」という映画の舞台になっていて、自転車道も整備されていて走りやすかったです。
アメリカ中西部の景色や豊かな自然も心地よくて、ほとんど毎日50キロくらい走っていました。
それから自転車で走ることがおもしろくなって、日本に帰ってきてからは自転車を自分でカスタムするようになって、どんどんハマっていきました。
自転車のこだわりポイントはありますか?
この数年で自転車が増えて、今は8台あります。こだわりは、自分で作るってところでしょうか。
フレームやハンドルを組み合わせて、軽さを重視した自転車や長距離を走れるような自転車というように、用途に合わせて自分の手を動かしています。
基本的にメンテナンスも自分でやりますし、旅先でのパンクなどちょっとした修理は珍しくありません。
できるだけ荷物は軽量化していますが、最低限の修理道具は持って乗っています。
パンクしてしまうことも珍しくないので、チューブは 2 本入れています。
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自転車で走った思い出の場所は?
今年は夏休みに北海道を500キロくらい走りました。紋別空港から宗谷岬を通って稚内に行って、フェリーで利尻島と礼文島を巡って稚内に戻ってくるというコースでした。
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学生の頃に自転車で北海道を旅した時に、予定していたフェリーに乗れず、予定通り帰ることができなかったこともありました。
まだ携帯がない時代だったので、家族にすぐ連絡をすることができず、心配をかけてしまったこともありますね…思い出深いです。
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瀬戸内海の島をつなぐ橋を、自転車で走るのも気持ちがいいですよ。海の上を走るってなかなか体験できないので、開放感があってとても好きです。
鹿児島県の甑島列島もいいと思います。
上甑島、中甑島、下甑島とあるのですが、2020年に中甑島と下甑島をつなぐ甑大橋が開通しました。長さ1.5キロの絶景で、海と空が一体になっているような開放感があります。
車の通りも少なく、私が渡った時は車も自転車も1台もすれ違いませんでした!
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昨年は研修でヨーロッパに行っていたので、そこでもいろいろなところを走りました。
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日本では国境を自転車で越えるなんてできないけれど、滞在していたオランダのアムステルダムからベルギー、ベルギーからフランス…と、陸続きの国々を走りました。
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国境といっても普通の路地なのですが、日本にいたら感じられないことなのでワクワクしました。
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特定の場所に思い出があるわけではないのですが、民俗学者なので都会の文化よりも地方や、人があまり行かないような土地に関心があるし調査にも行くので、中心から遠いところに行くことが多いですね。
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直線ルートではなく、意味もなくどこかの離島を回って…とか、半島の最端にとりあえず行ってみる…とか、そういう走り方が好きです。
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昨年は日本一高い国道として知られる群馬県と長野県の間にある渋峠を走りました。
平坦な道を走る分には、無限に走れるような気がするくらいあまり疲れを感じませんが、標高が高いと苦しいです!
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最近では距離や標高を記録してくれるアプリがあって、獲得標高を振り返るとちょっとした登山よりのぼっていることもありますね。
今年の10月に東北に行ったときに、岩手県の大船渡市から半島を回って、気仙沼まで帰ってくるというルートで走りました。
その時は広田半島や唐桑半島、気仙沼大島などを通って約100kmを走って、獲得標高が1712mでした。
自転車に乗っている時にどんなことを考えていますか?
自転車に限らず、山登りでもそうですが景色がきれいだなぁとか、その瞬間を楽しんでいて、何か考えているってことはないです。
研究者をしているので、原稿を書いている期間は頭の中で何かしら考えていますけど、意識的にというよりは、無意識にアイデアが浮かぶことはあります。
でも自転車に乗っている時はメモができないので、そのアイデアを忘れないように同じことを頭の中で反芻していることもありますね。
椅子に座ってじっと考えるよりは、体を動かしている時にいいアイデアが浮かんだり、考えがまとまったりするタイプかもしれません。
さいごに、あなたにとって自転車とは…?
好きな時に好きなところに行ける楽しい乗り物。電車やバスだと時間が決まっているし、当然ルートも決まっているので、自転車はそういうものに縛られずに動ける、自分に合った乗り物です。
車ではなかなか行けない僻地にも行けるので、民俗学をやっている私にフィットしていると思います。
自分のペースで動ける自由さも自転車の魅力です。
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海も島も陸も自転車だから味わえるロマンを感じて
陸の最果て、人が定めた領地の境界、島々をつなぐ橋。俵木教授が自転車に乗って感じた胸の高鳴りを、お話を聞きながら一緒に体感したような時間でした。
自分の未開を興味のままに自転車を走らせることができたら、五感や人の根底にある好奇心を研ぎ澄ませ、現代人に足りない感覚を取り戻せそうですね。
新大陸を目指す大冒険!とはいきませんが、ただ知らない街を目指して、ただ水平線を眺めに、そんな純粋な好奇心で自転車を走らせてみるのもいいかもしれません。