青天の霹靂
娘は2歳半。
万能感を身に纏うイヤイヤ期のド真ん中です。
コアラとトトロをこよなく愛する彼女は保育園のファッションリーダーで、ハートマークのグラサンにファンキーな傘をさして登園しては周囲を沸かせます。
自分の美的センスと合わないコーデを着せようとすれば「イヤーーー!」と叫び捨て、食卓に置かれた箸の種類が気に入らないと「イヤ。かえて。」と交換を申請します。細部にもこだわりを見せる彼女は自立心に溢れ、次々と出来ることを習得していく様子は圧巻といえるでしょう。
最近のブームは「ひとりでトイレ」です。
ひとりでトイレに向かうと、上に乗せるタイプの子供用便座を設置して、踏み台を利用して定位置に座り用を足し、トイレットペーパーを巻き取り適切に拭いてから立ち上がり、子供用便座を片付けて蓋を閉めてから水を流し、よじ登って手を洗い、タオルで拭いてから出てきます。2歳児とは思えぬ所作ですが、女の子は成長が早いのでしょうか。
その夜。
娘がいつものようにトイレに行った数分後、小さな悲鳴が聞こえました。
「い、イヤ……イヤやぁー……!……ッ!!」
いつもの「イヤ」と雰囲気が違います。
どうしたことかと妻と息子と私が駆け寄ってみると、なんとそこにはドアの近くで狼狽える娘の姿と、激しく天井を洗浄するウォシュレット(強)がありました。
こんなん誰だってイヤです。
娘はどうにか事態を収集しようと考えたのでしょう。噴水を抑えようとしたのか両腕から頭まで水浸しです。
「いやぁ……ぁ……!」
悲鳴にも似た叫び声は次第に小さくなって、ウォシュレットのスイッチをオフにしたところでグスンと泣き止みました。
妻は娘を連れて風呂へ行き、私はトイレ掃除に奮闘し、息子は一心不乱に絵を描きます。創作意欲を刺激されたのか連作『トイレの水』を6枚描き上げると、フスーと鼻息荒く彼は言いました。
「じゃ、コレ祖父母に送っといてくれる?」
なんでやねん。
せっかくなので娘の描いた絵も一緒に封筒に入れて、翌朝ポストに投函しました。
不意に両親に届くであろう何枚ものトイレの絵は、きっと青天の霹靂のようなものでしょう。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、日常のハプニングが笑いのネタに昇華されますように。