見出し画像

日常の風景、片付けと3歳児

 ある日、洗濯物を取り込んでリビングに戻ると、息子が目に涙を浮かべながら私に駆け寄りました。

「ママが…ママがいじわるした。」

といって泣くのをぐっと堪えています。どうしたの、と聞くと「ぼくはのどがかわいたんだ。お茶を飲みたい。」と言って私の服の裾を離しません。

 わかったよ、すぐに麦茶を用意するね、といって冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぎました。息子は喉を鳴らしながらそれを飲み干しました。

「のどがかわいたから、おちゃをのみたーい!って言ったのに、ママが無視したんだ。」

 精一杯こらえながら、息子はそういいました。

「いや無視してないよ。」と妻。

 よくよく二人の話を聴いていくと、それぞれの主張がありました。紐解くと、息子がいない間に妻がおもちゃを片付けたことを息子は怒っていたようでした。
 それは、妻が日頃から「片付けないとママが片付けちゃうよ!ママが片付けたらママのおもちゃにするよ!」といって息子を急かしていたからです。

 息子は自分の知らないうちに片付けられたおもちゃを目の当たりにして、「ママにおもちゃをとられちゃった!」と思ったのだと分かりました。


 片付けの習得は難しい。
 大人になっても片付けの苦手な人は多いでしょう。かくいう私も本来は片付けの苦手な性質です。一人暮らし時代の自室など、ちょっと人を招くのを躊躇する仕上がりでした。自分は過ごしやすいのだけれど、物が多い。

 子どもの視野で、次々と遊びたくなるのは道理です。遊び終わったら片付ける。部屋を綺麗にする。たしかにそれは大切なことかもしれません。しかし片付けるように叱るだけでは、なかなか目標は達成されません。子どもは親の姿をよーくみています。まずは自分が部屋を綺麗にしなくては。

 こうして私の片付け&ハウスクリーニング生活が始まりました。職業柄引っ越しの多い生活で、ついつい散らかっていることを許容してしまいます。ここをぐっとこらえて片付けを。不要なものを捨てていく作業、部屋を綺麗にしていく作業をすすめます。地味ですが、すこしずつ綺麗になっていきます。すると不思議なことに心の中まで綺麗になっていくような、晴れやかな気分が生まれます。


 息子が自ら片付けをする姿を見かけることが多くなりました。
 「まだ遊びたい」という気持ちを尊重しながら、初回の声かけから「もう遅いからあと五分ね」などと事前告知を心がけます。気持ちの準備のために予告は極めて重要です。
 片付けを提案する際のポイントとして、「しなければ〜〜」よりも「すれば〜〜」のように罰を与えるより報酬を与えた方が有効です。しかしながら報酬が目的になってしまうと習慣化することが困難で、報酬がないとやらないという状態に陥ります。これは心理学的な裏打ちのある事実です。
 具体的には「片付けないと棄てる」は悪手で、「片付けたらお菓子をあげる」は有効ですが将来的な危険性を孕みます。それで私は当然の顔をして「片付けよう」とか「一緒に片付けようか」と提案します。

 飴も鞭も要らない。
 私の後ろ姿から、何か感じ取ってくれたらそれでいい。

 もちろんイヤイヤ期を経てこれから始まる反抗期、その先まで考えると、物事そううまくいくことばかりではないでしょう。ただ、私は待ちたいと思います。彼らには彼らの時間軸があります。成長を見守る姿勢を忘れないようにしたいと、そう思うのです。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、加速化する社会の中で、貴方の心が置き去りにされませんように。


#子どもの成長記録 #子どもに教えられたこと
#エッセイ #育児 #こころ #心理学 #実践心理学 #片付け

いいなと思ったら応援しよう!

渡邊惺仁
ご支援いただいたものは全て人の幸せに還元いたします。