道端で人が倒れていたらどうするか。
例えば電車の中、ふとした路地裏など。
なぜか見知らぬ人が倒れる瞬間に遭遇したことが何度もあります。何の道具もなしに出来ることは限られます。意識の確認、気道の確認、呼吸の確認、循環の確認を素早く行い、必要に応じて蘇生処置を行うこともありますが、何よりも優先すべき重要事項があります。
それは自分の身の安全です。
倒れている人を発見したらまず周囲の安全を確認し、そもそも近づいて大丈夫か否かを判断します。
もし落下物によって倒れた人だったら、近づいた瞬間に別なものが落ちてくるかもしれません。毒物が撒かれて意識を失っていたら、近づいた瞬間に傷病人が増えるだけです。密室や地下では二酸化炭素中毒や一酸化炭素中毒かもしれませんし、誰かに襲われて倒れたとしたら近くに危険人物がいるかもしれません。そうでなくとも慌てて近づいて自分が車に撥ねられる可能性だってあり得ない話ではないでしょう。人助けを考えるならば、常に自分の身の安全を最優先にする必要があります。
次に感染防御のための器具を装備します。
最低限、手袋やアイガードは必要でしょう。マスクやガウンもあればベターです。それらを持っていなければ2m以内には近寄らず、呼び掛けに反応がない時点で救急車を呼ぶのが最善です。誰か呼ぶだろうと思って誰も呼んでいないケースもあるそうですから、119番に連絡したらいい。重複したら消防署の方が判断するはずですから、誰かが通報したことが明確でなければ、実行あるのみです。
素性の分からない人が倒れていたとして、その人には血液や体液から感染する疾患があるかもしませんし、倒れた原因が重症感染症かもしれません。その人が倒れるのは避けられない運命だったとしても、貴方が近付くかどうかは貴方が決めることのできる分岐点です。
胸骨圧迫(心臓マッサージ)を含む蘇生処置は専門技術であって、残念ながら数回練習したくらいでは身につきません。当然習得しておくべき医療関係者でさえ、習熟している人ばかりではありませんから、まして非医療関係者では余程の熱意がないと不可能です。
たしかにAEDの普及に伴って検証されたデータをみますと、一般市民が遭遇した心臓が原因の心肺停止傷病者の場合、1ヶ月後の生存率を比較したとき、心肺蘇生法が行われないと8.2%、行われると15.2%、AEDも使用されると53.2%と上昇します。それでも半数は亡くなります。
人命救助は尊いことかもしれませんが、自分の安全が確保されていることが大前提です。これを忘れると大変なことになります。
もしも道端で倒れた人の助けになりたいとお考えの方がいらっしゃいましたら、市民に公開されている一次救命処置(Basic Life Support; BLS)の講習を受けることをお勧めいたします。
私は一次救命処置(BLS)や二次救命処置(Advanced Cardiovascular Life Support; ACLS)に加えてICLS(突然の心停止にチームで対処する蘇生法)、JMECC(内科救急医療)、ALSO(周産期救急医療)を習得しています。手袋とマスクは鞄に常備し、アイガード代わりの眼鏡です。
救急医療は緊張するからすごく嫌いですが、嫌いと出来ないは違いますから、どうにかこうにか頑張ります。もしも道端で傷病人を前にしてテンション低めに蘇生しようとしている丸眼鏡を見かけたら私かもしれませんから、どうか勇気を出して「どうしましたか」とでもお声かけください。すごく喜びます。そういう現場ではひとりでも多く協力者がいることがありがたいのです。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、医学知識や医療技術が誤解されずに社会に浸透し、すべての命の灯がその輝きを全うできますように。
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