白衣の価値は
人間の思考は「保留」を嫌い、白か黒か決着をつけたがります。それは合理性の表れであって、実務的に物事を進めていくために必要な機能です。
しかし現実には、白とも黒とも言い難い灰色の世界が広がっています。
例えば診断学の領域で100%の診断というのは存外難しいものです。某感染症のPCR検査だって100%ではありません。原因微生物のわかっている感染症ですら感度とか特異度とかそういうものを前提に、検査前確率やら陽性尤度比やら、そういうものを考えなければいけません。呼吸器内科領域で診断が最も複雑な疾患群といえば「びまん性肺疾患」ですが、近年では他職種で議論することで確からしい診断に辿り着こうとする試み(multi-disciplinary discussion:MDD)が行われています。疾患を診断するという作業は極めて専門的で、曖昧さを残した科学です。
矛盾を極力排除しようとする西洋医学でさえ、これほど難しい領域ですから、矛盾をも受け入れる東洋医学の診断と治療は非常に混沌としてきます。教科書を読めばわかるような単純な学問ではなくて、武道のように師匠について実践的に学んでいかなければ身につかない難解さがあります。見よう見まねでやったって、武道は身につきませんね。東洋医学はそういう性質のある医学です。
西洋医学で治らなくて東洋医学で治りました。
そういう体験談が散見されます。それをみると東洋医学が素晴らしいもののように思えてきますが、要注意です。その裏には、東洋医学が太刀打ちできずに西洋医学で治療(あるいは根治に至らずとも生活できるようにする、寿命を延ばす)している疾患群が山のようにあるのです。
西洋医学者は「科学的でない」医療を受け入れ難く、例えば西洋医学なら素早く治せるものをこじれた状態で診療することになると、陰性感情が溜まります。
東洋医学者は西洋医学に取り零された疾患群を治療していきますから、どうして西洋ではこんな治療をするのだ、こうすれば治るのに、と、やはり陰性感情が溜まります。
私は西洋医学者であり東洋医学者でもありますから、どちらの医学の危険性も経験します。
他院で治らないと言われた肺非結核性抗酸菌症を漢方治療を主軸に治癒せしめたこともあれば、東洋医学者に治ると言われて治療を続けても改善せずに受診に至り、進行期肺癌と判明し西洋医学的な治療を始めた人もいます。
どちらか片方では不十分。
優劣ではなくて特性が異なるのだと考えます。
西洋医学と東洋医学。
それらは対立するものではなくて、共存してこそ真理に近付いていくように感じます。形而下学と形而上学との関係性に似ていますね。
異質なものには拒絶よりも理解の為の対話を。
此処には白と黒、0と1では表現し切れない灰色の世界が広がっています。陰中の陽、陽中の陰。全ては等価的に移ろい行く世の中です。
私は白衣を纏い、白と黒の境界を進みます。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、私の抱える灰色が、何処かで誰かの助けになりますように。
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