【短編小説】交代日記《mode:A》
私の身体が私のものじゃないってわかった時、それは大きな衝撃だった。だって二十何年間生きてきた記憶が全部嘘かもしれないなんて、タチの悪い冗談にしか思えない。当然、違和感はあった。よく考えればおかしなことだらけ。まぁ人生そんなものだよねって達観できるほど人間できてないけど、落ち着いてきたから書いてみようと思う。
平凡な家庭に生まれ育って、当たり前に恋をして、勉強なんてしなかった。商業高校に進学して結構楽しい毎日を過ごした。簿記は結構得意な方で、2級までとった。卒業してからは普通に就職した。仕事の疲れは甘いもので癒やす。これ必勝法。つい食べすぎちゃうときもあるけど、仕方ないよね。
桜が好き。
綺麗な桜色の季節は気持ちも明るくなる。
誰だか分かんないけど、余計なことしてくれたよね。いきなり出てきて話を聞いてくれてると思ったら、いつの間にか気づいちゃうんだもの。なんだか男の人の手みたいだなぁとか、こんな服持ってたっけとか、そういうことが続けば鈍感な私だって気づく。鏡をみたときは何がなんだか分からなくなった。自分が自分だと思ってたものが、実は違う人の身体なんて、ショック。人格がどうとか言われたって、じゃあこの私は一体なんなんだよって。
荒れてたときはいっぱい迷惑かけちゃったな。それは悪いことだからいけないって、わかってても抑えられないときだってある。最近は大丈夫。身の程をわきまえるってやつ。消えるのは嫌だから、これが最大限の譲歩。
これが公開されるってことは、素行が良かったご褒美かな。
ここなら良いよね。
どうせ見えないし、誰が誰かなんて関係ない。
私は私。不完全でも、曖昧でも、私だから。
普段は話しちゃいけないって言われてるんだけど、ここなら少しだけ許可が出たから、もし良かったらどーぞ。敬語は苦手だけど許してね。
彼にも何か考えがあるみたい。
今日はもう寝るよ。おやすみ。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。
願わくは、退屈な日常にひと匙のエンターテイメントを。