ガーデンクォーツと祖父の夢
山の麓に居を構えて仙人のような生活をしていた母方の祖父は、かつて宝石職人でした。
世界中を飛び回っては原石を買い付け、自宅の工房で研磨して作品に仕上げていったそうです。今となっては手元に残る彼の作品は少なく、しかし強い念の込められた宝石は不思議な魅力を放ち続けています。
私が幼い頃、山菜採りに連れて行ってもらったときのことです。クマが出ると危ないからといって、鈴と鉈と猟犬を携えて山奥に進む祖父の背中は力強く、私が恐怖を感じることはありませんでした。
さらに奥へ進もうかというところで祖父が立ち止まり辺りを警戒する素振りを見せました。猟犬の様子が変だというのです。危険が近いのか獲物が近いのか判然としませんでしたが、不穏な空気を感じたのか、祖父は山を降りようと言いました。
そのとき「これ持ってろ。護ってくれるから。」といって渡されたのが、写真に収めた宝石です。
庭園水晶。
その小さな原石でした。
この水晶に内在するのは苔の世界で、それは龍の畝りのようにも見えました。
その日は何事もなく帰宅して、山菜の天麩羅を楽しみました。
祖父の夢は、自然と一体化することでした。
空気にも神様がいるんだよ、と日常のあらゆるものに宿る「神」を感じながら山と共に生きた晩年。
雪の降る2月にその生涯を閉じるまで、彼は彼であり続けました。
祖父の形見となった庭園水晶は、今も私の生活の片隅に息づいています。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の忘れ得ぬ大切な人の魂が、幸せな色でありますように。
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