秋映と戦慄の朝
悪夢をみました。
痴呆の老獪が包丁を片手に院内を練り歩く夢でした。幾人かの臓物が廊下に溢れ落ちていて、室内を彩るは死屍累々の赫灼です。惨状が新鮮であると悟った私は踵を返して生存者を探します。然れども饐えた匂いの中で見るものは、どれもこれも絶命し、ただ重く生温い空気が私の肌を舐めました。
せめて靴を履きたい。臓物の散らばる冷たい廊下を歩きながら私は思いました。ずぐんと踏んだのは大腸かしら。腸間膜に大網が纏わりついて脂肪織特有のぬめりを足底に感じます。不可思議な状況を夢世界と認識して、しかし五感の正確であることは私の思考を惑わします。現実と変わらない感覚の夢ならば、それは現実と何が違うのでしょうか。
朝食に林檎を剥きました。濃い赤色の品種でしたから、それに触発されたのかもしれません。ゴウ、と音を立てて忘却の海から浮上した其の夢の記憶は鮮烈で、手元の包丁に自分が老獪に成り果てた錯覚をみました。軽い眩暈を感じて洗面所に移動すると、姿見に居たのは見知らぬ老人でした。
嗚呼つかれているのだと私は判じました。多重夢に遭うのは久方振りです。此処から醒めるのは実に骨の折れることで、普通に起きようとしても次の夢に移るばかりです。こういう時は逆に眠り続けようとしたほうが上手くいきます。どうせ疲れているのだから、寝ていたらいいのです。
明け方に目を覚ますと、右隣の息子が私の首元に突き刺さり、左隣の娘は半分私の上に居ました。足下に追いやられた掛布団が足枷の役割を果たす事で私は奇妙な姿勢に拘束されていたようです。
…腰いてぇ。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは今宵貴方の見る夢が愉快なものでありますように。
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#それは敢えて痴呆と呼ぶべき老獪でした
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