「肯定的ダブルバインド」とは何か。【実践心理学】
タイトルの「肯定的」という部分が気になる方は、記事の中段まで飛ばしていただいて差し支えありませんし、もし「ダブルバインド」という言葉が不明瞭でしたら、ここから順番に解説させていただきます。
物事には二面性があって、これを理解すると新たな手法が生まれることがあります。先日、ダブルバインドについて否定的な記事を執筆いたしました。
ふたつの矛盾するメッセージを受けて混乱しうる状況をダブルバインドと定義し、受け手の立場から之を回避する方法について検討しました。
通常のダブルバインドでは受け手は二つの選択肢のどちらを選んでも好ましくない結果に至るため、HUNTER×HUNTERに喩えるならパリストンの強制二択のようなものです。策略に囚われたら自力で回避することは困難でしょう。これを便宜上、否定的ダブルバインドと表現します。
ダブルバインドを治療に用いることを考案したのが、米国の精神科医であったミルトン・エリクソン氏です。彼は類稀なる観察力によって次々と新しい理論を打ち出し、特に催眠療法の分野で革新的な成果を残しました。
肯定的ダブルバインド(あるいは治療的ダブルバインド)と呼ばれる手法には、提示される二つの選択肢のどちらを選んでも、選択者に好ましい結果をもたらす仕掛けが施されています。
具体例に移りましょう。
エリクソンは治療を受けたくない患者を前にしたとき、次のようなことを述べて治療を始めたといいます。
来なくてもいいし来てもいいという主旨ですが、よく考えるとそもそもエリクソンの話を聞くことが前提になっています。もちろんこれは彼の言語外のコミュニケーションと併せて効力を発揮するものですが、非常に効果的であったことが知られています。
このような質問もありました。
治療の受け手はこの質問に回答することが求められます。Yes or Noで回答することになりますが、果たしてどのように解釈されるでしょうか。
「Yes」と回答した場合、自分に無限の可能性があることを肯定しています。一方で「No」と回答した場合にも、否定の内容は「気付いていない」であって、すると暗に自分に無限の可能性があることを肯定しています。
話者の意図としては受け手に「自分に可能性があること」を自覚させたいものですから、どちらの返答でも結果が変わらないダブルバインドの状態になっていることが分かります。
肯定的ダブルバインドのポイントは、受け手にダブルバインドだと気付かせないことです。肯定的ダブルバインドは相手が気付いた瞬間に効力を失い、それどころか話し手に対する強い陰性感情を抱かせる可能性があります。
サラッと調べてみたところ、webで辿り着く「肯定的ダブルバインド」や「治療的ダブルバインド」の具体例は、その殆どが効力を発揮し得ない微妙なものに見えました。
そもそもダブルバインド自体が相手の心理に影響を与えうる現象ですから、取り扱いには細心の注意が必要です。
否定的ダブルバインドが無自覚に詠唱され得る闇の魔術である一方、肯定的ダブルバインドの詠唱難易度は極めて高く修練を必要とします。巷に蔓延るダブルバインドに気付くことが、肯定的ダブルバインド習得への第一歩のように思います。
さて、この記事に肯定的ダブルバインドが仕掛けられていたことに気付きましたでしょうか。
冒頭の一文はどちらの選択肢も「記事を読む」ことが前提となっていますから、ここに貴方がいるのは自然な現象です。
拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、貴方を縛る拘束が解除されて、自らの意思で道を選択できますように。
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