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蚊の話

 どうしてかゆくなるの、と息子が訊ねます。

 続けて「それはね」と、幼稚園で教わった理由を説明してくれました。曰く、蚊に刺されるとバイキンが入ってかゆくなるのだ、と。どうやら2択クイズが開催されたらしく、かゆくなる理由はバイキンor毒のどちらかという問いの解答が「バイキン」だったというのです。

 違う、そうじゃない。

 そうじゃないのだけれど、無碍に否定したら息子が傷つきます。しかしここで訂正しておかないと、案外こういうことは大人になるまで憶えていたりするものですから、どこかで思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれません。よし。

「実は、そうとも限らないんだ。」

 私は言葉を選びます。

「たしかに刺されたところを掻いて傷がつくと、そこからバイキンが侵入して感染を起こすこともある。そうすると痛くなったりかゆくなったりするよ。でも、刺された後に何もしていなくても痒くなってくるのは、別な理由がある。」

 なになに、と息子の目の色が変わります。

「蚊の注射する麻酔薬に対するアレルギー反応。蚊は刺すときに気づかれないように、ヒトに麻酔を打つんだよ。その成分に対するアレルギーでかゆくなる。虫刺されのときにつける薬、あるだろう。アレはアレルギーを抑える薬であって、抗菌薬じゃあない。ま、自然に治るから心配いらないよ。」

 息子はフゥーと安堵しました。

「でもね、蚊には恐ろしいウイルスがいることもある。日本だと問題になることはまだ少ないけどね。バイキン(細菌)よりずっと小さいウイルスを持っている蚊に刺されたらヤバいよ。死ぬ。」

「しぬの!?」

「ああ、死ぬ。例えばマラリア。あー、ウイルスとはちょっと違うマラリア原虫って名前の小さい虫なんだけど、これは赤血球に感染して増える。高い熱が出て、血が壊れて、死ぬ。早く診断して治療すれば助かることもある。」

「こえぇ…。ほかには?ほかのウイルス。」

 そうして私は息子に質問されるままに、黄熱、日本脳炎、ウエストナイル熱、デング熱、ジカ熱、チクングニア熱について説明しました。どれも恐ろしい病気だから、予防が一番重要だと伝えると、息子は強く頷きます。

 こうして私は、息子から3回目の日本脳炎ワクチン接種の同意を得ました。巷にはワクチンに関する色々な噂が飛び交いますが、ジェンナーの種痘から始まった本来のワクチンは、致死率の高い感染症を効果的に予防あるいは重症化を防ぐ目的で開発されています。そこんとこ間違えると大変なことになりますから、小児の定期予防接種については、実施したほうがいいと思います。新しいヤツのことは…よく分からないけれど。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、蚊即滅。



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渡邊惺仁
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