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パッションフルーツの午後
騒ぎを聞きつけた妹夫婦が我が家を訪問した。
手土産はパッションフルーツ。奄美大島に行ってきたという。
ビタミンですよ、と義弟が言う。たしかにそうだなと私は思う。
妻の怪我を契機に家事育児分担の再構築を行い、当面彼女が片腕を使えない状況でも家での生活に支障ないような環境作りを進めている。彼女を軍曹とするなら私はその片腕といったところか。パートナーとして連携をとりながらミッションを達成していく日々が始まった。
今日は午前中で仕事を切り上げて家に帰り家事をしている。さぁ、夕飯の下拵えもできたし、あとは保育園の迎えの時間までどうしようかと思い、noteを開いた。冷蔵庫で冷やしておいたパッションフルーツを取り出して、ナイフを入れる。乾燥した赤紫色の果皮を開くと、瑞々しい黄色と緑の世界が開放された。スプーンで掬ってひとくち。ああ、爽やかで美味い。喉から浸透して身体に水分が満たされるような感覚に浸りながら、窓の外の入道雲を眺めて思う。
ああ、これか。
きっと私に必要だったのはこういう時間なのだと、淡く思考を泳がせる。まだ確信は持てず、正解もわからず、見通しも立たないが、不思議と晴れやかな気分だった。入道雲は少しずつ形を変えていく。空の様相は一瞬も同じではない。常に変化しながら私たちの頭上を通り過ぎていく。私はいつから、空の変化に鈍感になっていたのだろう。自然はどこにでもある。それに気づくかどうかは私たちの心の在り方にかかっているのだろう。
残りの果汁を飲み干して、少し背伸びをした。
華やかな酸味を南国の香りが追いかける。
明るい未来の予感がして、私は言葉を綴ろうと思った。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の心のモヤが晴れて、この世界の美しさに包まれますように。
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