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レースカーテンの光

普段離れて暮らしている祖父母の家へ行くと、あちこちに繊細なレースのカーテンがあり、窓からそっと光がこぼれている。

とてもかわいく清潔なおうちなので、もしいつか自分の家を持つことになったら、ぜひともあんな雰囲気にできるといいなあ、と思う。そういうおうちだ。

このまえ祖父母の家へ行ったとき、夕方お風呂にはいってから、祖母が夕飯の支度をしてくれているのを手伝おうと思って、キッチンに立った。立ったはいいものの、私はかなりお料理音痴なので何をしたらいいか分からず、妹や祖母と顔を見合わせて笑っていた。するとそれを見ていた祖父が、青葉ちゃん、ばあちゃんが若いころによう似てるなあ、と言った。

私の祖母は本当にかわいいひとで、ひとつずつ歳を重ねてきた今ももちろん素敵なんだけれども、若いころの写真を見るとあまりにきれいなのでびっくりする。

写真を見るたび、父と父の兄はこんなにきれいな母をもったのだな、祖父はこんなにうつくしい妻をもったのだな、と思う。そして私たちは、こんなにもかわいらしい祖母をもったのだな、とも。

だから祖父が私を見て若いころの祖母に似てると言ったのを、そんなわけない、と思った。だけど、祖父は本当に思ったことしか決して口に出しては言わない人間だと知っている私は、やっぱりその発言がうれしくて、「ほんと?ほんとうに似てる?」と訊き返した。

すると祖父が大真面目な顔で「似てる」というので、私はまたうれしくなった。きっと私の見た目とかいうものより、雰囲気が似ているのだろうな、と思って、でもそれだってやっぱりうれしいことだから、私は祖父に向かってにっこり微笑んでみせた。

祖母は私の横でお料理をしながら、私と同じように、にこにこしてそれを眺めていた。

祖母は私たちが遊びにゆくたび、お洋服や靴や、コートをくれる。若いときに着ていたものとか、もう使わないものとかを惜しみなく私たちにくれる。この前もそうだったのだけど、祖母の出してきた衣類の中に、すごくかわいいピンク色のカーディガンがあった。

ピンクといってもそんなに強い色のじゃなく、桜色より濃くてベビーピンクより淡い、やさしくてしっとりしている色だ。そこに金色に光る、まるくて上品なボタンがついている。

私は幼いころから、藍色や藤色、白や黒、こげ茶色のように、わりと深い色や寒色の服を着せられてきたので、ひと目見たときから、そのピンクのカーディガンが欲しくてたまらなかった。でもあんまり似合わないだろうな、とも思った。私の肌は、元気はつらつ小麦色なので、色の白い妹たちが着たほうが、かわいいだろうなと思った。

でも祖母が私に、そのカーディガンかわいいやろ、着てみ〜と言うので、すぐに袖を通した。祖母はうれしそうに、やあ〜、よおにおうてるわ、と言った。

「ピンクってあんまり似合わない気がするんだけど、似合うかなあ?」と言ったら、「におうてる。かわいらしなあ〜」と笑う。ちょっと照れくさくて、でもうれしくて、このラブリーなカーディガンを、そしてピンクの服を、これからたくさん着よう、と思った。

レースのカーテンにやわらかな光が透過する、あのかわいい家に行くたび、私は祖父と祖母に思いきりあまやかされる。その時間のことを、いつまでも憶えていたいな、と思う。

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