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冬にはきれいごと
この数日は、きもちよい晴れ。しかもあたたかい。うららか、という言葉がぴったりくる。しかしときどき雨が降って虹が出たり、風がなくて海が湖のように凪いだりなどもしていて、なんだか楽しい。
その一方で、季節感がなくてすこし戸惑ってもいる。まだ寒いはずなのに、春が近くまできていてそわそわする。冬は好きじゃないのに、こうして追いやられているのは、ちょっとかわいそう。
最近はねむくてねむくて、毎日、時計の針がひとまわりするくらい眠っている。
山から降りてすぐは、まだ頭や身体のあちこちが緊張したままで、変にハイになっていた。もう終わったのだからリラックスしなさい、と家族に言われても、えっ、してるけどなあ…みたいなかんじだった。
でも1ヶ月経ってようやくちゃんと緊張がほどけはじめて、いろいろなものが緩んできたみたいだ。今度は逆に、だるくなって困っている。頭も身体も、気分もだるい。
あんなに読みたかったはずの本も、いまは全然読みたくないし、映画を見るほどの気力もない。でも、太宰治の『斜陽』だけ読んだな。
ずっと読みたかったのに読めていなくて、はじめて読んだらものすごくよくて、たぶん近いうちにまた読むと思う。
作中で、かわいいかわいいお母さまがねむの花が好きだと言っているのを見て、私の母と同じだ、と思い(たぶんそれについて過去にnoteに書いている)、すこし考えてみると『斜陽』を好きだという私の母が、意図的に「ねむの花が好き」と言っている可能性が出てきて、もしそうだとしたらたまらないな…と、すこしどきどきしている。
私はそういうことをひとにするタイプなので、母もそうだとしたら、これは母の血だということになる。
『斜陽』を読んでしまってからは、前に1度見ている、メンタリストというドラマをBGMみたいにずっとテレビで流して、パトリック・ジェーンのキュートな笑顔に癒されている。
こうして文章を書いていてもすぐ疲れる。高野山のことを書いたnoteの文章も、編集し始めてすぐにやめちゃうくらいだ。結構書いているんだけど、まだ完成には遠い。なんとなく携帯をかまっていても、流れてくる情報が多すぎて、夕方ごろには頭が痛くなってくる。困るな。
眠るのはだいすきだけれど、あんまり長い時間眠ると腰が痛くなることもわかって、それがかなしい。眠りすぎることへの罪悪感もある。今ごろ学生や社会人は学校や会社に行っているのに…と思ってなんとか起きる。
起きたってだるいんだけれどさ。
暇さえあれば、YEN TOWN BANDのMONTAGEというアルバムを聴いている。全部すんごくいいけれど、Sunday Parkはやたら繰り返して聴いちゃう。すこしノスタルジックでそこはかとなくせつない。
山では使えなかったいいにおいのシャンプーにも、ふたたび慣れた。髪が揺れるたびにあまいにおいがするというのは、すばらしいことだと思うけど、それが普通の日々が続くと、そのすてきさを忘れてしまうのが人間らしい。
そしてなんと、早風呂を数か月強いられたせいで、お風呂にすこしも浸かっていられなくなった。すぐのぼせてしまいそうで。
バスボムを持って浴室に入り、泡がしゅわしゅわ出る入浴剤が溶けきるまではお湯の中にいよう、と思うのだが、溶けきるまでに出てしまう。やまぶきいろや、オレンジや、さくら色に染まっていく湯船の中で、ソーダ水に浸かったらこんな感じかなとぼんやり考えていたら、その間にのぼせてしまうのだ。灯りを落としたまま、明るいうちにお風呂に入るのが最近はすきだけど、お風呂に入るだけで疲れてしまうので、やっぱりまだ、あちこち疲弊してるのだろう。
来週から母校で実習があるので、朝起きられるのか心配。そんなことを思っていると、高校生だったとき、母校のホームページに載せられていた、さなぎであり、蝶である、という言葉をふと思い出した。
そのときは、なんだいそりゃあと思っていたけど、いまになるとそれほど悪くないなと思う。感性の変化だろうか。大人になったのか、それとも、さなぎから蝶になったのかしらね。
そういえば、さなぎが蝶になるときは、1度身体が全部とけてどろどろになるんだよと妹が言っていた。だからさなぎを切ってひらいても、その中にあるのはスープだけ。スープというと、『斜陽』のお母さまが、スプーンひと匙ずつすくって軽やかに「スウプ」を飲む、すごく印象的な冒頭を思い出す。こうやっていつも、とりとめのない思考がゆらゆらと、どこまでもいつまでも続く。
しばらくそういうぽやぽやした頭で体力と気力を回復させるか。よく寝てよく食べて、拝むための体力ではなく、生活するための体力を取り戻さなくては。
さっき書いたMONTAGEのアルバムジャケットも、そういえば蝶なのだった。