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中国語翻訳者・通訳者向けマガジン

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主に中国語上級者向けのマガジンです。
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記事一覧

ちゃんとやろうよ。翻訳を!

遅ればせながら。 今回は何を話そうかと思っていた矢先に出たあの話題。 Xでは私の考えをいろいろポストはしてみたのですが、翻訳者の目線から見た、ディープシーク社AIについての感想をやはりここでももう少し話りたいと思います。 このニュース、日本や西側にとっては経済安全保障上問題があるとか、中国側は「いやそうではない」とか、いろいろ言われていますが、驚きを持ってこのニュースを見た人はかなりいたという私は印象を受けました。それは「この中国産を使えば、安価でOpenAI並みのAI

中国語の時制の流れ

中国語と日本語の文章中における時間の流れの違い。これについては中国語→日本語の翻訳をしている人、翻訳の勉強をしている人なら一度は実感したことがあるのではないでしょうか。 このことについては、これまで当noteでも何回か解説してきました。先々週も「自動詞と他動詞」という視点から、日本語と中国語の時制の流れについて解説しました。 前々回は語句単位のお話でしたが、今回は文章中における文節単位の時の流れについてお話をしたいと思っています。実はこの文節単位の時の流れについては、以前

「也」の用法

ここのところ、難しい解説が続いたこともあり、「初級者にはわかんないよ!」と心の中でつぶやいた人もいるかと思います。 そこで今回は。「基本的な用法を見直す回」としたいと思います。初級者にも中級者にも、「そうなんだ!」と言ってもらえるようないわゆる「知っているようで知らない知識」を解説していきたい。そう思っています。今回テーマとするのは「也」です。 「そんなのわかっているよ!」という声も聞こえそうですが、せっかくなのでここでもう一度おさらいをしてみましょう。 「也」の用法は

自動詞と他動詞(ふたたび)

皆さんは自動詞と他動詞という言葉を知っていますか?中国語を勉強している方などはたぶん、「知っているけど、気にしていない」みたいに答えるのではないでしょうか。 日常会話程度ならばそれでもかまわないのですが、こと日中・中日の翻訳・通訳となってくると、この「自動詞」と「他動詞」を意識して訳すという作業は非常に重要になってきます。 実はこの「自動詞」と「他動詞」の処理ですが、3年前ぐらいに当noteで解説しています。 前回のnoteでは「自動詞は無生物が主語になることが多い」「

「好」の解釈の難しさ

たかが「好」。されど「好」。中国語を学んだことがある人、日中・中日の翻訳を生業にしている人ならば一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。 というわけで今回はこの「好」の落とし穴について少し語ろうと思います。ご興味のある方はしばしおつきあいください。 先ごろ、自民党の森山裕幹事長、公明党の西田実仁幹事長らが中国を訪問し、王毅外交部長や李強総理らと会見しました。 この報道の内容自体はもうみなさんご存じかもしれないので割愛しますが、自公幹事長が訪中に関する中国側の報道

今年も一年ありがとうございました

今年も残すところ2日となりました。 振り返ってみて、今年のnoteの記事は中身が薄いものが多かったなぁと反省しているところです。ただ一方で率直に言うならば、当noteの中国語の翻訳理論に関する解説も、ほぼ語りつくしたかなという感があります。現にここ数カ月は過去の記事をリメイクしたみたいな感じになってしまっていて、自分としては忸怩たる思いでもありました。 まぁ翻訳理論というのは、語っていけばいつかはネタも尽きるというわけで、頭に叩き込んだ後はひたすら実践あるのみです。実践の

「日本語らしい文」ってなんだろう

翻訳業界でよく言われること。それは「翻訳をやるなら母国語はしっかりと身につけておけ」というものです。 そして、その後に続くのは「だからこそ小説や論文など母国語の文章をよく読め」というアドバイスでしょう。翻訳を目指す皆さんなら、一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。 私は中日翻訳を20年以上続けていますが、このテーマに長年悩まされてきました。なぜなら私自身読書好きでも「本の虫」というわけでもなく、中二病の学生時代には「本を読め」という大人の言葉に反発して漫画ばかり

中日ニュース翻訳のステップアップで大切なもの

突然ですが、私は中国語→日本語のニュース翻訳を20年以上続けています。 20年も翻訳を続けていて大変なことも多かったのですが、日常的に向き合っていると中国語のニュースに潜むいろいろな法則が分かってきます。そしてこの法則、結構私の中でニュース翻訳処理に役立っているのです。 そこで今回は、ニュース翻訳をやっていて皆さんにも知ってほしいなぁと感じた法則、そして翻訳力を向上するに当たってどのあたりに留意してトレーニングしたらいいのかということをつらつら書いていこうかと思っています

肩書きの訳し方について考える(外国の要人編)

肩書きについての解説。前回からだいぶ時間が開いてしまいました。いろいろあったので、すみません(汗)。気を取り直して。 前回は国内の要人の中国語表記について解説しました。 ◇◇ では中国メディアの報道に出てくる外国の要人の肩書はどうでしょうか。 これについては私は訳出の際、中国語表記をそのまま書くのではなく、ちゃんと日本語に訳して表記するようにしています。もっと言えば、日本の新聞報道で使われている肩書(つまり記者ハンドブックで使われているような肩書)になるようにしていま

「不」と「没有」(再び)

ユニクロ社長である柳井さんの発言が、中国国内で波紋となっています。発端はBBCのインタビューでした。 実際に柳井さんのインタビュー動画があるのですが、記者はそのなかで日本語で、「今新疆から買った綿を使っているか」と質問しました。 これに対し柳井さんは同じく日本語で「新疆の綿は使って『いません』」と答えたのです。 この発言が歪曲して翻訳され、中国のネチズンの逆鱗に触れたのです。 当ノートは政治的な問題を議論する場ではないのでこの発言の是非は一旦横に置いておくとして、誤訳が

肩書の訳し方について考える(再び)

翻訳していると、処理するのが厄介なものの一つに「肩書」があります。 これはやはり翻訳している皆さんの現場のローカルルールに従うのが一番なのですが、ローカルルールがない場合はどうすればいいのか。 正直言うならばこれは難しいところです。ただ少なくとも、一般的に「報道向けの原稿」ではなく、「翻訳原稿」として出す場合は私たちにも最低限守るべき、「暗黙の了解」みたいなものはあるとは言えるでしょう。 この肩書きの表記については以前の私のnoteやXでも触れたことがありますが、まだ混

「延期」と「延長」を間違えないようにしましょう

これまで当noteやXの方でも何回も紹介してきた「中国語と日本語で同じ漢字でも意味が微妙に違う語句」。 日中・中日の翻訳の中でこのような「語句の訳し間違え」というものが重なってしまうと、トータルで「何を言っているのか分からない文」になってしまいかねません。翻訳者として、このようなことを避けるべく努力してほしいという願いから、私は事あるごとに当noteで注意喚起をしているわけです。 というわけで今回話題にしたいのは日本語の「延期(えんき)」と「延長(えんちょう)」、中国語の

~ぶりという便利な日本語

日中・中日翻訳者だからでしょうか・・「これ中国語に訳すなら、どういう風にしようか」とはたと困ってしまう語句というのは良くあります。同じように、「この中国語文、日本語でどういう風に言おうか」と悩んでしまうことも多々あるのです。 そういうときに使える便利な日本語が「~ぶり」なのではと思っています。「~ぶり」というとおひさし「ぶり」、何年「ぶり」なんて言い方をしますよね。 「日本語→中国語」ならスムーズに訳せると思います。しかし「中国語→日本語」の翻訳の場面で、皆さんなら「~ぶ

中国の政治家から学ぶ中国語(8)──難解な文章に出会ったとき

私は日々業務の中で、中国や台湾の政治家のスピーチを翻訳する機会が多いのですが、そうなるとやはり辞書にも載っていないし、ネットでも見たことのない「これ、どう訳せばいいのだろう・・」という語句や文章に頻繁に出くわします。とりわけ印象的だったのは数年前に指導者のスピーチで目にしたこの文章でしょう。 この文章、皆さんならどう訳しますか?この文章の初出は、2013年12月3日に開催された第18期中央政治局第11回集団学習の席上、習近平総書記が講話した際に発したフレーズとされています。