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舟を編む【レビュー】
こんばんは!雄一郎です。
僕は読書の良さに目覚めたので、
2025年は本を100冊読む!ということを一つの目標に据えました。
せっかく本を読むなら良かった部分を整理して、
アウトプットして残しておきたくなりました。
ということで、note上で読んだ本の
レビュー記事をたまに書いていこうと思います。
現在、読破した本の数は5冊になっています。
今日は、小説のレビューをしてみようと思います!
紹介するのはこちら!
三浦しをん - 『舟を編む』です!
この本は一言で言うと、「人生をかけて辞書作りに向き合った人達の不器用だけど優しい出会いと成長を描いた物語」と言えると思います。
ここから先ネタバレもあるので苦手な方は、お気をつけください。
⚪︎「辞書作りに関わる人達の生き様」という特殊な設定
この小説は株式会社玄武書房の辞書編集部のメンバーを中心にして、
物語が進んでいきます。
辞書をを作るプロフェッショナル達のお話です。
辞書に関しては少し関心はあっても今は全然使わないし、作り方なんて想像もしなかったから設定の特殊さが面白かったです。
率直な感想として、「辞書ってこんなに長い年月かけて作られるもんなんだ!!」と思いました。
まぁ、でも冷静に考えればそうだよなー。
辞書ってあんなに言葉が収められていて、しかもその意味を説明するわけだら。間違えちゃいけないですもんね。
そしてさまざまな分野の言葉が辞書に収録されるわけでたくさんの知識人(学者とか、大学教授とか)が関わり、単語の説明を考えてくれるみたいです。
その個人的な感情をなるべく排した普遍的なものがいいのですが、学者も人間だから個人の感情が入るという。そして、それを編集部の人はよりみた人にとって普遍的な意味になるように編集しなければいけない。
そうしてさらに、学者様に送り返す。
偉ぶった学者様はプライドが傷つき、不機嫌になる
そんな様子を読み進めていると「ああ、なんて大変な作業なんだ!!!」と、全過程を想像した辟易したりしました。
言葉というものは情報媒介をする装置で、普遍的な解釈ができるものだと思ってしまう。だから、意味なんかに多少のブレがあっても、普段喋るだけなら許されてしまいます。
だけど、一旦言葉の意味を定義するとなると、それを行うのは個人だから感情が入るは、納期が遅いは、そりゃもう大変。
当たり前のことなんですが、辞書は人間が作る。
そしてその裏側を知ることで辞書と言葉の意味に対して意識的になる。
言葉の認識が少し鋭くなった気がして、大雑把な僕は嬉しくなりました。
⚪︎時間と視点の変化でもたらされる厚み
物語の序盤は馬締光也という冴えないけど言葉への鋭い感性を持った青年の、成長物語を描いているんだと思いました。
27歳で恋愛をしたことがない、不器用で真面目な主人公。
彼が辞書作りに出会い、そして不器用ながらも恋をして成長していく。
設定は斬新ながら物語の展開はよくある感じになるのかと思いましたが、
違いました。
途中から、主人公が切り替わります。
え、その人の視点に切り替わるんだ!!と、僕は驚きました。
脇役として、平坦ではないものの幸せな主人公を横目に、
成長のシーンがちょっとだけ挟まれる。
そうして最終的にみんなが成長した結果が、
物語のエピローグを色付けると思っていました。
でも、まさかのあなたが主人公になんのね!!という驚きと共に、
自分が同じ立場だったら確かに色々おもうことあるだろうな、という人が一度主人公になります。
馬締光也は、辞書作りに対して天性と言わざる負えない才能の持ち主です。
一人の主人公をベースに物語が作られるパターンが、僕は多いと思っているので脇役が何を思っているか想像していませんでした。
だけど、一旦主人公が変わると、「こんなこと思ってたのね。そりゃそうよね」と共感が一気に顔をもたげてきました。
辞書作りみたいな特殊な世界においては、向き不向きははっきりすると思います。
そして天性に出会った人対して、そうじゃない一般的な人は何を思うか。
ずっと続けてきたのに、悔しさ感じちゃうよねって共感しました。
自分の凡人性も明らかになった気がしました。
かといって、それを卑下する必要は全くないですけどね。
そんな共感ポイントを生み出す、視点の切り替え。
そして、一つの辞書をつくるために要した時間が15年近く。
視点の切り替えと共に、時間も一気に飛びます。
辞書編集部を取りまく環境も変わるのですが、そのリアルさがまた物語に深みを出している気がします。
やっぱりそのくらいの時間が経つと、老いの問題が出てきたりする訳です。
時間経過による環境の変化にリアルさを感じて、そこが作家の想像力だなぁという気がしました。
実際どんな変化が起こっているのかは、読んでみてほしいですね。
視点変化、時間経過によって単純な成長物語で終わらないところが、この話に厚みを持たせていると思いました。
⚪︎言葉へのこだわり
最初は、この物語にどハマりしなかったんです。
昨年、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』や、町田そのこさん『52ヘルツのくじらたち』を読んで結構衝撃でした。あと原田マハさんの作品とか。
鮮やかな文体や衝撃的な設定の盛り込まれ方だったのに対して、「舟を編む」は穏やかなだなぁという気がしないでもなかったです。
なんとなく読みやすさがあって、それが退屈な気がしていました。
だけど、割と序盤の方でこんな文章がありました。
言葉というものをイメージするたび、馬締の脳裏には、木製の東京タワーのごとき物が浮かぶ。互いに補いあい、支えあって、絶妙のバランスで建つ揺らぎやすい塔。すでに存在する辞書をどんなに見比べても、たくさんの資料をどれだけ調べても、つかんだと思った端から、言葉は馬締の指のあいだをすり抜け、脆く崩れて実体を霧散させていく
言葉というものの実態のなさを、木製の東京タワーと表現してもらうと頭の中で「今にも崩れそうな揺れている木製のタワーを、見上げながらしかし先端は見えていない」みたいな情景が頭の中で浮かんだんです。
辞書ってなんとなくアナログなイメージがあって、それを「木製」という表現をされるとアナログの温もり感がすごく想像できます。
そして、どこまで思いを言語化しても、聞いた人は同じ気持ちにはなれない。言葉はあくまでも記号であり、情報媒介装置でしかないという不完全感を見事に表していると思いました。
そんな表現があってから注意深く本を読んでいると、なんと澄んだわかりやすい例えの数々。
そして、言葉の解釈についての文章。
「あがる」と「のぼる」の定義の違いとか。
言葉を愛し、それに対しての深い感受性があるからこそ、作家として辞書の物語を描かれたのかなと勝手に想像していました。
海の底で輝く宝石を拾い上げるみたいに、物語の背景に一歩近づいたような気がしました。
全体レビュー
全体を通して、想像できる情景が明るいなと思いました。
雰囲気が暗くない。比喩も、しっとりした質感だけど、澄んでて淡く光っているようなものが多くて読みやすかったです。
わかりやすさと文体の明るさ、それがこの小説を包んだベールの正体という感じがしています。
そして、15年もかけて一つの辞書を作り上げるという、もの作りに関わる人々の情熱を感じられるのがこの物語の一番のいいところだと思います。
時間をかけて、辞書作りに関わる人々の成長を丁寧に描く。
だからこそ、リアルさを感じるし、そうして辞書が生まれるという過程に感動するのだと思います。
文化祭の時とかなんでもいいけど誰かと何かを作った経験がある人はすごく共感できるだろうし、そうじゃない人も何かに出会ってそれを通して人が成長するという過程に熱くなるものがある気がします。
そうして、自分も何か作りたいという気持ちにさせられる。
一見すぐにイメージはできない辞書作りだけど、
だからこその普遍的な物語への情熱を感じることができました。
調べてみると映画、ドラマ、アニメと多数のメディアで展開されているのが印象的でした。それだけ、さまざまな人に愛されている作品なんだと思います。
(僕はアニメ版を少しみて、イメージと違って観るのをやめました笑だけど、アニメオリジナルシーンの挿入もあって、更に舟を編むの世界を自分の中で広げるきっかけになりそうな気はしました。)
2025年は小説を読みたい!と思う方はぜひ、これを最初の一冊にしてみてはいかがでしょうか!読みやすさ的にも、内容のハートフルさ的にもおすすめです!!
ではまた次回お会いしましょう!!
【今回のハッとした言葉集】
・言葉というものをイメージするたび、馬締の脳裏には、木製の東京タワーのごとき物が浮かぶ。互いに補いあい、支えあって、絶妙のバランスで建つ揺らぎやすい塔。すでに存在する辞書をどんなに見比べても、たくさんの資料をどれだけ調べても、つかんだと思った端から、言葉は馬締の指のあいだをすり抜け、脆く崩れて実体を霧散させていく