ストレンジャーとしての孤独~星新一「地球から来た男」レビュー~
もし自分が別の惑星に飛ばされたら、あなたはどうしますか?
辿り着いた先が地球と全く同じ場所だったら?
星新一さんのショートショート「地球から来た男」(『地球から来た男』所収、角川文庫、2007年6月25日改版)は、地球外に追放された男の数奇な運命が描かれています。NHKのよるドラ「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」で映像化されたエピソードの1つでもあります。
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調査会社勤務の「おれ」は産業スパイとしてある研究所へ潜入します。しかし、そこで捕らえられ、テレポーテーション装置で他の星に転送されてしまいます。
この後、ハリウッド映画のような劇的な展開が待ち受けている訳ではありません。また、未知の惑星を冒険するSF小説のようなワクワク感もほとんどありません。
何故なら、冒頭部分でも述べたように、そこは地球そっくりの場所だったからです。周囲の人間が「宇宙からの来訪者」としてではなく地球にいた頃と同じように接してくることは、「おれ」をますます混乱させます。
「住みごこちはどうだい」
どこからともなく聞こえてくる声が、数年経っても故郷に帰れずにいる男に問いかけます。それまでと変わらない毎日を過ごしているはずなのに、言葉にしがたい違和感を感じているのは、彼だけではないと作者が語りかけているかのようです。
本書の解説で作家の桜庭一樹さんは、大人になってから星新一さんのショートショートを読み返した感想について、次のように述べています。
桜庭さんのいう「寂しさ」は、星新一さんの作品で描かれているテーマの1つでもあります。
本作と同様に映像化された「不眠症」(『ボッコちゃん』所収、新潮文庫、2012年2月25日改版)で浮かび上がってくるのは、事故をきっかけに眠れない体質になってしまった主人公の苦悩です。テレビドラマ版では、当初自身の症状に頭を抱えていましたが、ある日を境に24時間を労働に充てることを思い立ちます。その結果、会社での評価は上がり、同じ部署の同僚とは恋人同士になりました。仕事もプライベートも充実する一方で、ふとした瞬間「あきらめたつもりの眠りが、たとえようもなく、すばらしく思えてきた」のです。ベッドの隣で眠る恋人の寝顔を眺めるシーンは、哀愁すら感じます。
「地球から来た男」も例外ではありません。作中を通して、ストレンジャーとしての孤独や「理解されない悲しさ」が、丁寧にすくい上げられています。ショートショートという形式の中で、それらを表現する星さんの筆力には敬服いたしました。
書きたいことは一通り書いたので、僕はこれから録りためたよるドラを観ることにします。また会いましょう。さようなら。
西月