「 猫を抱いて象と泳ぐ 」
小川洋子さんの「口笛の上手な白雪姫」という短編集の感想をnoteに投稿してから1年半ほど経ってしまいました。
このnoteの終わりにも読みたいと書いた「猫を抱いて象と泳ぐ」の感想を今日は書きたいと思います。本当は1年くらい前に読み終えていましたが、すっかりタイミングを逃していました。
この本も、小川洋子さんの綺麗な文章と不思議な世界観に引き込まれ比較的短期間で読み終えました。小川洋子さんの小説は、個人的に、狂気的、奇妙といった印象を受けることも少なくないです。しかし、この本は全体的には暗い、というか静かな雰囲気で物語が進んでいきながらも、読み終えた時にはやさしさと切なさを感じました。それも主人公の周りの人間に主人公を想うやさしさを感じる描写が多いからだと思います。
模造品の唇を持ち、大きくなることを悲劇と考え身体が完全に成長しきれなかった主人公“リトル・アリョーヒン”が、チェスを通して様々な人と出会い自分の居場所を見つけていきます。チェスについての描写が本当に多いので、チェスが好きな方や知っている方はより楽しめると思います。私は、チェスのルールや駒の動かし方を知らない状態で読みましたが、チェスの世界に少し触れることができで良かったです。チェスの複雑さや芸術性がこの本の世界観を創っていると思います。
成長していくにつれてどこか気品を感じ、そして心の中には静かな情熱を持ち前に進み続ける主人公。主人公のような優しくて繊細な人間が最後まで幸せになれないのは悲しく感じます。いや、主人公が幸せでなかったと断言するのは良くないですが、もっともっと幸福な最期を迎えてほしかったです。
少年と弟がお子様ランチを食べるシーン、祖母やマスターの温かさ、そして「慌てるな、坊や」という言葉が読み終えて時間が経った今でも印象に残っています。