総合英語Forest/Evergreen [書評]②:「第19章 冠詞」
これまで授業資料の記事中でいろいろな教材をご紹介してきましたが、特に丁寧にご説明しておきたい英語学習参考書の書評を個別に記事にしていきます。
旧名「総合英語Forest」書評の続編です。今は「総合英語Evergreen」という書名になって中身も追加されています。学校英語における英文法参考書の最高峰と言っても過言ではない名著。私も個人的にForestの第6版と第7版を合わせて10年以上読み込んで学校英語のプラス面とマイナス面を考察する際の基準にしてきましたので、特別な思い入れがあります。先にForestの書評を書いて、後からEvergreenの情報を追加できればと考えています(冠詞の章に追加はありませんでした)。
総合英語Evergreen
川崎芳人・久保田廣美・高田有現・高橋克美・土屋満明・Guy Fisher・山田光 (著),
墺タカユキ (編集), 鈴木希明 (編集)
株式会いいずな書店
ISBN-10 : 4864607214
ISBN-13 : 978-4864607216
今回は、私が特に重視している名詞の重要な構成要素である「第19章 冠詞」のご紹介です。
以下、Forest原文を引用・要約(簡潔に表現するため多少アレンジしてある場合もあり)して、私からのコメントを入れていきます。著作権を考慮して必要以上の引用は避けておりますので、内容を詳しく知りたい方は原本を直接ご覧ください。
原文では、「無冠詞」ではなく「冠詞を使わない場合」と表現。
「まとまり」・「ふたの開いた/閉じた入れ物」等の独特な表現で学術的な概念(様々な用語がありますが、この記事内では「不定(性)」・「定(性)」という言葉を使うことにします)を何とか分かりやすく言い換えようとする努力は感じられますが、残念ながら抽象的で必ずしも分かりやすくなっているとは言えません。
中高生の方は、まだこういう学術的な説明は分からなくても大丈夫ですので、まず英語経験を地道に積んで、自分自身の判断基準となるデータベースをしっかりと構築してください(これは、個々の具体例から共通性を見つけ出す帰納的アプローチ)。それができたら、Evergreen/Forestのこうした演繹的な説明(先に原則・法則を提示してから具体例を当てはめるやり方)に対しても妥当か否かの判断ができるようになると思います。
原文では、「可算名詞」ではなく「数えられる名詞」、「不可算名詞」ではなく「数えられない名詞」と表現。また、「無冠詞」ではなく「冠詞がない」と表現。
説明自体はいずれも学校英語の定番。
もう少し分かりやすく、説明漏れがないように言い換え:①a/anはもともと「1つの」という意味で、可算名詞単数形であること+「不定性」を示す記号(標識・目印)。②無冠詞は不可算名詞や可算名詞複数形であること+「不定性」を示す(分かりにくいかもしれませんが、記号がないこと自体が標識・目印)。そして、③theは可算名詞単数形・複数形と不可算名詞のいずれとも結びついて「定性」を示す記号。
英語史の上でan[アン]がone[ワン]と同じ単語だったことは、独語「アイン(ス)・ツヴァイ・ドライ[eins, zwei, drei]」、 仏語「アン・ドゥ・トロワ[un, deux, trois]」を思い出せば納得しやすいと思います(音の共通性:逆にoneが一番仲間外れ)。
ここでようやく「冠詞がない場合」を「無冠詞」と表現。
原文では、「可算名詞」ではなく「数えられる名詞」とまだ表現。
説明に「可算名詞・不可算名詞」・「固有名詞・共通名詞」を使っていないので、かなり分かりにくい印象。冠詞と名詞の分類は一体不可分なので、本来はセットで説明することが必要だと改めて強く感じます。
説明漏れがないように、私なりに言い換えてみます。ご参考にしていただければ幸いです。❶は可算名詞の「単数vs複数」対比。可算名詞の復習なので、分かりやすいはず。❷は「定vs不定」対比の主要な柱である「定冠詞vs不定冠詞」対比。定冠詞theの導入は、ある意味で冠詞解説の最大のポイント。❸は、例として挙げられている単語を見ると、無冠詞で使える不可算名詞の「定vs不定」対比(無冠詞は、不定冠詞がなくても不定の一部)。❹は、同じ「不定冠詞と無冠詞」でも❶とは違って「可算vs不可算」対比(例として挙げられている単語を見ると、「可算名詞の不可算化」)。❶〜❹を並列的に並べるのが妥当かどうかは議論の余地あり。
俯瞰的に整理し直せば、(1)可算名詞内の「単数vs複数」という小規模な対比、(2)共通名詞内の「可算vs不可算」という中規模な対比、(3)ほぼ全ての名詞内の『a/anと無冠詞を合わせて「不定性」』対『theの「定性」』という大規模な対比(改めて、実践ロイヤル英文法の書評①「第14章 名詞」(前半)でご説明した「固有名詞vs共通名詞」2大分類という名詞観とその応用)。
繰り返しになりますが、冠詞と名詞の分類は一体不可分なので、本来はセットで説明することが必要。学術的には冠詞こそが名詞の本体[head]であるという考え方があり、その影響を受けて冠詞を中心に据えた説明になっていると思われますが、それを表に出さないことで逆に中途半端な印象を受けます。
まだこの段階では無冠詞の重要なジャンルである固有名詞に関する言及がないのが気になります。最後にコラム「固有名詞と冠詞」で少しだけ説明されますが、やや物足りない印象。
❶不定冠詞a/anの用法を整理
まず『anはもともとoneと同じ単語で「1つの」』が基本(定番説明)。
その上で具体的な用法を個別に分類すると、
可算名詞単数形であることを示す記号(≒one)
初出(不定性)
任意性(不定性)(最後のコラム「総称表現」に繋がる)、の3つが基本。
ある/いくらかの/一定の、
単位を表す名詞の前で「~につき」の意味を表す(≒per)、の2つは応用。
❷定冠詞theの用法を整理
まず『話し手と聞き手にわかる「特定のもの・こと・人」』が基本(定番説明)。
その上で具体的な用法を個別に分類すると、
既出で特定可能(定性)
状況・文脈から特定可能(定性)
修飾語で特定可能(定性)
唯一無二の存在(≒固有名詞)(定性)、の4つが基本。
身体の一部
道具(楽器・発明品を含む)
「総称表現」(最後のコラムで説明)、の3つは応用。
単位を表す名詞の前で「〜単位で」の意味を表す、
the+形容詞:形容詞の名詞化+α(主に「人」を表す)、の2つはさらなる考察が必要な例外的応用。
❸無冠詞の用法の整理
無冠詞(学術的にはゼロ冠詞)の用法は、簡潔に説明するのは非常に困難です(そもそも不定冠詞と定冠詞の用法の整理も、簡潔にできているとは言えません)が、それでも挑戦してみます。
不可算名詞や可算名詞複数形であることを示す(繰り返しになりますが、記号がないこと自体が標識・目印):不可算と可算複数を無冠詞として一括りにすることが良いことなのか混乱の原因なのか、しっかり考えるべきポイント
不可算でも可算複数でも、可算名詞単数形と同じく「任意性」(不定性)(最後のコラム「総称表現」にも繋がる)、の2つが基本。以下は全て応用。
機能に焦点を当てる:「可算名詞の不可算化」で説明可能(「第18章 名詞」で説明不足だった点)
byを使って手段を表す:前置詞句内の冠詞省略で説明可能(「可算名詞の不可算化」と解釈することも可能)
呼びかけ/家族関係・称号や官職:Mr.やMrs.などの肩書き・称号は無冠詞が原則ですが、可算名詞としても使われる単語群が存在するので注意が必要
食事・スポーツ・ゲームの名:普通に不可算名詞で整理可能(上と同じく、可算名詞としても使われる単語群には注意が必要)
慣用句における無冠詞(2つの名詞句が対句になっている場合も要は慣用句)
新聞の見出しで無冠詞になる場合:新聞以外でもタイトル・見出し全般に見られる現象(字数制限があるのは理解できますが、そのためなら文法を無視してもいい?)
これだけ三者三様に多様性があるので、全体像を理解するのは簡単ではありません。徐々にレベルを上げて行きましょう。
ここで無冠詞(不可算名詞)の重要なジャンルである固有名詞に関する言及がやっと出ましたが、扱いが小さいのが気になります。結局、固有名詞は上記「❸無冠詞になる場合」ではどの説明に該当?そもそも5分類の「固有名詞は不可算」は正しい?(明らかに数は「1」なのに数えられない?)
繰り返しになりますが、これも俯瞰的に整理すると、the「定性」とa/an「不定性」が対極の概念だという考え方の応用(実践ロイヤル英文法の書評①「第14章 名詞」(前半)でご説明した「固有名詞vs共通名詞」2大分類という名詞観)。
今回の書評は以上です。いかがでしたか?面白いと思った方は、コメントしていただけると、今後の励みになります。
❶本文中でもご紹介した「表現のための実践ロイヤル英文法」は、Evergreen/Forestよりも上のレベルの学習をしたい人向き。英語好きなら読んでおくべき名著。
❷冠詞という単一トピックに関するモノグラフとして、以下の書籍もご紹介しておきます。学校英語の参考書では説明不足で曖昧になっている点を、実例を多く挙げてしっかりと補っている良書です。
以下は、総合英語Evergreen/Forestと表現のための実践ロイヤル英文法の「名詞」章の書評です。ご参考にしていただければ幸いです。
以下をクリックして関連記事もご覧ください。学校英語では説明が足りない点を補ってもらうための教材です。
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