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子どもが変化する瞬間を見るたびに、この仕事にはまっていく|公立中学校 教諭 桜井嘉人さん(仮名)

こんにちは。公立中学校で特別支援学級の担任をしている桜井嘉人(仮名)です。

今年度で教員生活は13年目。初任校は特別支援学校で、その後は中学校に異動して特別支援学級の担任を受け持ってきました。

大切にしているのは、「障害名」ではなく「その子自身」を見ること。教員生活は決して楽なことばかりではありませんが、子どものしんどさが少しでも楽になる瞬間を見ると、この仕事へのやりがいを感じます。

彼らはこの社会で一緒に生きていく仲間だ。そう思いながら、生徒との日々を過ごしています。

初任で特別支援学校へ。その子自身を理解するために、毎日記録を取った

大学時代は中学校の社会科の教員になるために勉強していました。特別支援教育については専門的に学んでいたわけではなかったので、初任で特別支援学校に配属されたときは生徒とどう関われば良いのかわからず、上手くいかないことが続きました。

ボランティアで特別支援学級の生徒と過ごした経験はあったものの、実際にさまざまな障害のある生徒を目の前にすると、どう関わればいいのかわからず上手くいかないことが続きました。自分自身の知識が不足していることはわかっていたので、1年目は図書館に行って特別支援教育に関する本を手当たり次第に読みました。

それと同時に、1人ひとりを理解するには本の知識だけではなくその子自身の姿を見る必要があると思ったので、子どもの様子を毎日記録していました。その日の出来事や気づいたことをノートに書いていくんです。書くことで事実を客観的に見る視点を持てて、自分自身が固定観念にとらわれていることに気づくこともありました。

一人ひとりと向き合うことで得た「喜び」と「自信」

そうやって学んでいくことが実際に子どもと関わる中で活かせたときは、特に嬉しさを感じました。解決とまではいかなくても、その子のしんどさがパッと楽になる瞬間や成長する瞬間があるんですよね。

自閉症のAさんは、とにかく時計やおもちゃなどをよく壊すような子どもでした。なぜ壊すのか、どうしたらいいのかも分からず、苦労しました。体を動かすことが好きだったので毎朝その子と一緒にランニングをしていたのですが、グラウンドを2周走り終えたあたりで僕に向かって防音のために付けていたイヤーマフを投げつけたことがありました。他の先生と一緒に4周走る日もあったものの、「しんどい」「嫌だ」という気持ちを上手く伝えられないのではないかな?と心配になっていました。

ある朝、いつものようにイラストでわかるスケジュールを見せながら「ランニングをしてから朝の会をやるよ」と伝えると、その瞬間にソファに倒れ込んで動かなくなってしまったんです。もしかしたらランニングのせいかもしれないと思い、ランニングのイラストを外してトランポリンのイラストを見せながら「こっちにしようか?」と伝えたら、すぐに着替えてトランポリンを始めたんです。

今まで適切に自分の気持ちを伝えられなかった子が、そうやってすっと動いてくれたことは本当に嬉しかったですね。当時一緒に組んでいたベテランの先生にその出来事を話して、「これからはランニングではなく、その子が楽しめる活動を選んでもらうのはどうでしょうか?」と提案したら、それも理解してくれました。

その子のしんどさがふっと軽くなる環境を見つけられたことや、ベテランの先生に認めてもらえたことが自分の自信にも繋がりました。

「その子と仲間でいられるか」を考えて関わる

あるとき、初任校の教頭先生から「一生関わるつもりで子どもに接しなさい」と言われたことがあります。当時は意味がわからず、「え?一生関わるって、親になるつもりで関わるということ?」と思っていました。

今は、「その子と一緒に生きていけるか」つまり「仲間でいられるか」を考えて関わりなさいという意味だったのかなと思っています。先程の自閉症の子からも、その意味に気づくきっかけをもらいました。

Aさんは食べられるものが少なくて、食べたくないものがあるとよくお盆ごとガーンと投げ飛ばしていました。最初はとにかくその行動を止めていたのですが、「食べたくないことを伝えられないのではないか」と仮説をたて、それからはマルとバツが書かれたイラストを用意して選んでもらうことにしたんです。

自分の意思に関係なく、聞かれたらなんでも肯定してしまう子だったので、最初は僕が見本を見せました。スープを見せながら「これ、スープ。残すよね。嫌やんな。バツ」と言ってバツのイラストを見せてお盆から取り除く。それを繰り返しやって見せました。徐々に食べたくないものにバツをつけられるようになって、自分が苦手な食べ物はあらかじめ取り除けるようになりました。

ある日、完食した後に他の先生が食べていたスープを指さしたんです。「食べたいの?」と聞くと、「うん」と頷いたので、食べる前にどけたスープをその子のお盆に置いたんです。また投げるんちゃうかな…と、内心はドキドキです(笑)そう思いながら様子を見ていると、なんと全部食べたんです。嫌と言えるようになっただけではなく、自分の意思で「食べたい」と言えるようになったんです。

そんな経験をすると、どんどんこの仕事にはまっていくんです。シンプルに言うと、居心地がいい。「この子と一緒に生きていけそうやわ」と思えるんです。子どもを信じたくなりますよね。

カリキュラムに合った教育より、子どもに合った教育ができる学校に

学校は、子どもを大切にできるような場所であったらいいなと思います。今の学校の仕組みが本当に子どもに合っているのかを考え直すことも、時には必要だと思います。

学力テストや入試にばかり追われると、子どもを大切にすることよりもそちらにエネルギーが注がれてしまう。そうせざるを得ない部分もあると思いますが、少しずつ方向が変わっていくといいなとは思っています。

僕は今、中学校の特別支援学級で担任をしているのですが、大人の価値観で子どもを“普通”にさせようとする教育にはしんどさを感じることがあります。それぞれの学年のカリキュラムは発達段階に応じたものになっていると思いますが、その物差しで子どもを見てしまいがちな側面もあると思っています。

カリキュラムに合わせようとしすぎると、教科書の進み具合ばかりを気にしてしまう。それよりも、その子に合った学びをすることの方が大切なはずです。学校を卒業してからの暮らしにも目を向けて、どういう道筋で何を学べば今と将来が良くなるのかを総合的に考えられるといいなと思っています。

学校と地域、お互いがわかり合えるといい

学校に直接関わる人以外にも、学校のことをわかって欲しいなと思っています。学校だけが子どもを育てているわけではないですし、当然子どもは学校の中だけで生きているわけでもありません。

地域のことを学校が知らない部分もあるし、学校のことを地域が知らない部分もある。少しでもお互いがわかり合えるきっかけがあるといいなと思います。School Voice Projectでは、アンケートを取る仕組みがあるので、学校には支援学級がありいろんな子がそこに来ているんだとわかるようなことも、社会全体に向けて発信してくれたらいいなと思っています。

※ エピソードは、話の流れに支障がない形で一部改変しています。

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(取材・文:建石 尚子)

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