人間だけが分かる、意味のちがい。『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
Siriやルンバが登場して、何年くらい経ったのでしょうか。
私は今までAIにあまり興味はなく、「Siriもルンバも喋ったり動いたり、すごいな」くらいしか思っていませんでした。
そんな私が、なぜこの本を読もうと思ったのか。
きっかけは、ライター講座の卒業課題として取り組んだ「AIとクラシック音楽の関係」についてのインタビューでした。
話を聞けば聞くほど、記事を書けば書くほど「おや?AIって、深いな」と思うようになったのです。
そこで大ヒットしたAIの本を読もうと決意し、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を手に取りました。
著者は数学者の新井紀子さん。
ロボットが東大合格を目指していた「東ロボくん」のプロジェクトリーダーの方です。
本を読み終えた今、私はAIに対してどこか楽観的だったのだと痛感しました。
「そもそもAIは作られたものなんだから、人間の能力を超えるなんて無理でしょ」と。
ですが、今はこう思います。
「やばい。人間も負けてられない」
私たちが認識している"AI"とは
私たちが普段当たり前のように使っている"AI"という言葉は"AI技術"のことを指すそうです。
Siriやルンバも、厳密に言うと「AI技術を使った機械」だとか。
「でもSiriは人間が話しかけたら答えるし、ルンバだって勝手に掃除してくれるよ?」と思いますよね。
しかしそれは「感情」から来る行為ではないことが、次の文章から分かります。
AIが使っているのは、足し算と掛け算だけだそう。
つまりAIは数字がないと何もできない、ということです。
なるほど。だからAIが「感情」を持つことが難しいんですね。
ちなみに人間の常識をAIが理解するのは、今の時点ではとても難しいことだそうです。
今までなんとなく「AIにもできそう」と思っていたことが、「あ、無理なんだ」と腑に落ちた瞬間でした。
人間同士でも、ニュアンスを取り違えることはありますもんね。
それを数字で表すとなると…。
ど素人の私が考えただけでも、かなり難しそうです。
この時点では「ふむ、やはりAIが人間の仕事を奪うには無理があるのでは?」と思っていました。
あ、もしかするとやばいかも。
ところが第3章では、そうも言ってられない調査結果が次々と出て来るのです。
話の中心となるのは、著者の新井さんが独自に行っている「リーディングスキルテスト(=以下、RST)」です。
RSTとは中高生を対象に、「基礎的読解力」を調べるもの。
6つの分野から構成されており、AIが得意とするものから苦手なものまで、バラエティに富んだ内容です。
2018年の刊行時点では、全国2万5千人ものデータが集められています。
本の中ではRSTの例題がいくつか紹介されているので、ぜひ試してみてください。
「いやいや、中高生レベルの問題でしょ?」。
私もそう思っていました。
しかし侮ることなかれ。
結構頭をひねります。
恥を承知で言うと、33歳の私でもいくつか間違えました。
さらにショックだったのが、AIが苦手とする問題が、私や中高生にとっても「難しい」と思ったことです。
それが何を意味するのかというと、AIと人間が同じくらいの読解力しか持ち合わせていない、ということ。
これこそが、新井さんが提示している問題点なのです。
そこでいよいよ思います。
「もしかして、このままではAIに仕事を奪われることがあるかも…?」
人間が必要な"読解力"とは
とはいえ教科書の読解力は人生において役に立たない、と考える人もいるでしょう。
ここで言う読解力とは、物語における主人公Aの気持ちを選択肢から答えるようなものではありません。
著者の新井さん曰く、教科書が読める読解力=作業マニュアルや安全マニュアルを読めるようになること。
つまり私たちに必要なのは「そこにある事実を正しく理解する能力」なのです。
人間は言葉の持つ意味の違いが分かるのだから、AIとはその点で差をつけられます。
今こそ人間だけに与えられた「言葉を持つこと」について、もっと深く、もっと真剣に考えないと。
と、本を読みながら思ったのでした。
自分で判断できる大人でありたい
私は30代なので、もちろん「教科書が読めない子どもたち」の世代ではありません。
彼らから見ると、大人の世代。
それでもやはり、「私って読解力ないのかな…」と焦ります。
ただその状況に落ち込むだけでなく、今からでもしっかり日本語を扱えるようになることが大事だと思いました。
これから先、AIは想像もつかないほど発展するでしょう。
数十年後には私たちの生活において、AIはかけがえのない存在になっているかもしれません。
しかし私はこの先の未来でもAIを"使う"立場でありたいし、自分で判断できる大人でありたい。
そう決意した、肌寒い秋の夜なのでした。