日露関係史好きな私が『菜の花の沖』を『坂の上の雲』よりも愛するようになってきた理由
皆さん、こんにちは!私は大学生の時にロシア文学にハマり、その後、ロシア映画好きになり、あわせて日露関係の歴史にも興味を持つようになった者です。
しかも、司馬遼太郎さんの歴史小説が好きなので、『坂の上の雲』ゆかりの地である愛媛県松山市にも、『菜の花の沖』ゆかりの地である函館市にも行きましたよ。え?「日露関係史が好きなら今のロシアについてどう思うか?」って?それはもう過去の記事でさんざん怒りをぶちまけてきた話題なので今日は敢えてやらないですよご了承を!(もう二年半も怒っててまるで無力なんですさすがに疲れが…)
ところで!
司馬遼太郎さんは人気の高い作家なので、とくに年齢層高めな男性の方には、ファンの方も多いとお見受けする。
そんな方にぜひ、聞きたいことが。
同じく、ロシアが重要な相手として登場する司馬遼太郎作品として、『坂の上の雲』と『菜の花の沖』を並べた時、皆さんは、どちらが好きですか?
予想として、
多くの方が『坂の上の雲』を挙げるのでは?
かつてのNHKドラマも、とてもよかったし、
なにせ、日露戦争という興味深いスペクタクルが入りますからね。司馬遼太郎さん自身は、「これを戦争モノとして読むのではなく、あくまで、日露戦争という困難な時代にがんばった日本人たちの青春成長モノとして読んでほしい」という意味のことを仰っていたそうですし、まったくその通りだと思うんですが、良くも悪くも、戦争シーンの派手さが面白くてスイスイとページをめくってしまう本に仕上がっている点は多分にあり、、、。
これと比較すると、
『菜の花の沖』は、かなり、地味!
そういうわけで、私自身、若い頃はこの作品は、あまり好きではありませんでした。
でも、、、
私自身が歳をとってきて、
かつ、戦争戦争、また戦争の最近の厳しい世界情勢を見ていると、
日本人が列強(そう、あえて「列強」と、古い言い方をさせていただきます)のエゴに囲まれている中でどのように振る舞うべきか、と考えた時、戦争が出てこないのに日本人が信念と理を通した『菜の花の沖』のほうが好きになってきたんです。
知らない方のために、簡単に内容を申し上げると、
これは高田屋嘉兵衛さんという、実在した江戸時代の海船商人さんを描いた物語。この方はいまでいう北海道から北方四島のあたりで活躍していた商人なのですが、
ある日やってきたロシアの軍艦に拿捕され、ロシアの人質として何年も過ごしながら、諦めずにロシア側に「帰国したい」旨を訴え続け、その間、日露双方の政府同士の交渉が(何度かロシアが武力をちらつかせてくるやばい局面もあったとはいえ)少しずつ進んだこともあり、奇跡の帰国を果たす、というオハナシ。
そうです。戦争も、殺陣も、出てこない。ひたすらに「交渉交渉、また交渉」が続くオハナシ。地味ですよね。
でもね、、、歳をとり、国際情勢の過酷さというものを理解してくると、この高田屋嘉兵衛の「ロシアに拿捕されたのに無事に帰国して家族と再会できた」って、たしかに、奇跡的な物語とわかるんですよ。そうならずに歴史の中で消えていった可哀想な人など山ほどいるはずなので。
そーなんです、、、
そーなんですわ、、、
これ、、、よく考えたら、
簡単に言っちゃうと、拉致被害者が生還する物語なんですわw
本人の粘り強い努力と、双方の政府の駆け引きがどうにかうまく動いたことのおかげでね。
そして、拉致されていたこの高田屋嘉兵衛さんが無事にロシア船によって日本に送り返されたということは、ロシアが日本に武力で開国を迫ることをいったんは保留してくれた、という意味で、250年近く続いていた江戸日本の平和がさらにまた何年か守られた、という意味にもなる。スナオに感動的なラストです。
まあ、ここでロシアとの交渉を切り抜けた日本、
もうしばらくすると、アメリカの黒船がやってきて、「四日以内に返答をしないと兵を上陸させて戦争だぞコラ?」と堂々と武力脅迫してくるペリーさんなる御方によって強制的に開国させられ、おそろしい国際関係ゲームに巻き込まれていくわけですが、それはまた別の話。
先ほど申し上げた通り、いくらなんでも地味すぎる作品なので、『菜の花の沖』は「合わない」方も多いかもしれませんが、
こうやって年月をかけてだんだん好きになってくるところがある作品と、ぜひ、申し上げた上で、未読の方にはチャレンジしてほしいと思うのでした。