【読書録】『ピークパフォーマンス』野上麻理
今日ご紹介する本は、野上麻理氏の『ピークパフォーマンス』(2021年10月、WAVE出版)。副題は『効率と生産性を高め、成果を出し続ける方法』。
著者の野上麻理氏は、ピカピカでバリバリのビジネスウーマンだ。P&Gのマーケティング系のお仕事でキャリアを築かれ、その後は、日系製薬会社・外資系製薬会社の日本法人の社長を歴任している。私から見ると、まさに、雲の上の人。
野上氏のすごいのは、仕事だけではなく、私生活も大変充実していることだ。お子さんを2人出産され、お子さん連れで、スウェーデンへ海外駐在されたという。現役のトライアスリートでもあり、フルマラソンは3時間15分を切り、トライアスロンで年代別入賞をされるという。
この方のことを知ったとき、率直に言って、野上氏が、とても自分と同じ人間であるとは思えなかった。
しかし、この本を読んで、納得できた。野上氏は、上手に効率と生産性を高めることによって、仕事でも私生活でも、自分のやりたいことにエネルギーを集中させ、見事、ご自身の望みを実現してきたのだ。そして、この本で、ご自身の人生の軌跡を織り交ぜながら、その秘訣について明らかにしてくれている。
以下、例によって、印象に残ったくだりをいくつか要約して、書き留めておく。
総論
身体のエネルギー
感情のエネルギー
思考のエネルギー
精神のエネルギー
生産性と効率を上げる基礎能力
習慣化する力
感想
本書の表紙や帯を初めて見たとき、「ピークパフォーマンス」とか「エネルギーのマネジメント」とか、カタカナの大きな文字が目に飛び込んできた。第一印象としては、正直言って、少々、暑苦しそうだな、とか、なかなか読むのがしんどそうだな…、と感じた。
しかし、一旦読み始めると、とてもシンプルで、意外に読みやすい本だった。平易でわかりやすい文章で、忙しい日々の隙間時間に、サッと通しで読め、比較的容易にエッセンスをつかむことができた。
本書には、既に巷で見聞きしているようなことも多く書かれていた。今までの人生で、読んだり聞いたりして得た知識を思い出しながら、復習するつもりで読んだ。
たとえば、「身体のエネルギー」で述べられている「食事・運動・睡眠」の重要性は、誰でも知っていることだ。
「感情のエネルギー」で書かれている、最悪の事態を想定し、コントロールできることに集中する、というのは、先週ご紹介した『幸福論』(ラッセル著)にも出てきた。
「思考のエネルギー」で、ここぞという発表の前にリハーサルをすることは、私も実践していることだ。
「生産性と効率を上げる基礎能力」のくだりも、特にものすごく目新しいものはない。時間を作り出す方法については、以前ご紹介した『自分の時間を取り戻そう』(ちきりん著)とも共通するものが多い。
しかし、他のエネルギーをコントロールする最も大切な「精神のエネルギー」をどのように増やしていくかのくだりについては、オリジナリティがある。
本書のなかでもコアになる部分であり、精神のエネルギーを充実させるマインドセットを持つためのトレーニング方法が、具体的かつ丁寧に記されていた。
精神のエネルギーと言っても、スピリチュアルなものでは全くない。自分の大切にしている価値観を洗い出し、その価値観とギャップがある現状を「ストーリー」として言語化し、それを一度、しっかりと受け止める。そして、それを、理想のストーリーに再構築して、自分の大切な価値観と結び付ける。ポジティブで健全な精神を保つためのトレーニングだ。
ここは時間をかけて読んで、実際にやってみた。とても有益なエクササイズだった。
このトレーニングを実際にやってみると、それなりに、精神的な負荷がかかる。多くの人にとって、普段の生活の中で、自分は何のために生きているのか、何を大切にしているのか、を考える機会は、あまりないだろう。そんななか、自分自身と向き合って対話するのは、なかなかしんどいかもしれない。理想からかけはなれた生活を送っている現状が浮き彫りになると、それを受け止めるのはつらいかもしれない。
しかし、そこを出発点とし、自分の価値観に合致した人生を再設計することができる。これからの人生を、エネルギーに満ちた、希望にあふれたものにできるだろう。
「自分の人生、なぜか、うまくいっていないな」とお悩みの方には、本書を手にとって、このトレーニングを実際にやってみて、エネルギーを高める機運をつかんでいただきたい。
これから社会人になる学生さんや、社会人初心者などの若い人にも、これから残りの人生を充実させたいミドルやシニアにも、すべての人にとって参考になるだろう。
そして、何より、これからキャリアを築きたい、仕事もプライベートも妥協したくない、と考えている女性にとっては、特におすすめしたい。
野上氏は、まだまだ女性リーダーが少なく、おそらくロールモデルなどほとんどいなかったであろう時代に、悩み、考えぬき、試行錯誤しながら、道を切り拓いてきた。そんなご自身のストーリーが、本書全体に織り交ぜられている。そして、これから後に続こうとする世代に熱いエールを送ってくれている。同じ女性として、男性著者による自己啓発本と比べて、ずっと強い影響を受けた。
ご参考になれば幸いです!
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