【読書録】『あなたのチームは機能してますか?』パトリック・レンシオーニ
今日ご紹介するのは、パトリック・レンシオーニ氏のビジネス書『あなたのチームは機能してますか?』(伊豆原弓訳、翔泳社、2003年)。原題は、"The Five Dysfunction of a Team"。著者は、組織と経営チームの強化育成を専門とする経営コンサル会社のトップだ。
これは、私の尊敬している、とある経営者の方に薦められた本だ。私にとっては、とてもたくさんの気づきを得られ、有益だった。
本書のテーマは、チームワーク。とりわけ、チームが機能不全に陥る5つの要素とその相互関係について解説するものだ。
本書の構成は、200ページ余りのビジネス小説と、その後の30ページあまりの解説から成り立っている。
まず、本書の大部分を占める小説について。主人公は、業績不振のIT企業のCEOに突如任命されたキャサリン。彼女が、機能不全に陥っている経営幹部チームのメンバーを、チーム会議での対話によって一つにまとめていくというストーリー。
これが非常に面白く、一気に読んでしまった。ものすごくリアルな、チーム運営上よく遭遇する場面が出てきて、感情移入してしまった。
せっかく設定したチームミーティングに、他の仕事をぶつけて欠席しようとするメンバーがいる。会議で辛辣な皮肉を言って、場を凍らせるメンバーがいる。どうしても協力を得られず、会社を辞めてもらう必要のあるメンバーがいる。こういった難しい場面に遭遇したときの、キャサリンの葛藤、決意、時には後悔などの心の声が、生々しく綴られている。
読み進めるうちに、いつの間にか、自分がキャサリンと一体化した感覚になる。展開されるシナリオに一喜一憂しつつ、同じ状況に自分が陥ったら同じようにできるだろうかと考えながら、ドキドキしながらページを繰っていった。
そして、長い物語が終わると、小説のなかで出てきた、チームの5つの機能不全というテーマについての解説が始まる。
5つの機能不全とは。それらは、
①信頼の欠如
②衝突への恐怖
③責任感の不足
④説明責任の回避
⑤結果への無関心
だという。これらの5つが、①から⑤の順に、ピラミッドの最下層から最上層へ積みあがっていくイメージ図が書かれている。
以下、備忘録として、この5つについて重要な記載を引用しておく。
第1の機能不全:信頼の欠如
第1の機能不全である「信頼の欠如」については、次のような解説があった。チームで安心して自分をさらけ出し、弱みを見せられるというのが信頼で、それができる環境がないことが機能不全だという。
チームが信頼を比較的短時間で築くための手法には、以下のようなものがある。
さらに、チームの信頼構築を促すためにリーダーがとるべき役割は、以下のとおり。
第2の機能不全:衝突への恐怖
第2の機能不全は、衝突への恐怖。ここでは、「前向きな衝突」「生産的な衝突」「健全な衝突」という言葉を使い、ポジティブな意味での「衝突」を恐れて避けてしまうことが、機能不全であるという。
衝突回避という機能不全を克服するための手法は、以下のとおり。
リーダーの役割は、以下のとおり。
第3の機能不全:責任感の不足
次は、第3の機能不全「責任感の不足」。以下のくだりが、私にとっては、目からウロコだった。
このくだりを読んだときに、まず、「全員一致」や「確実性」が、責任感不足の原因になる、という点については、感覚に反するもので、意外に思えた。しかし、全員の意見が一致せず、不確実な状況でも、恐れずに決断をするという場面を思い浮かべると、確かに、チームとしての一体感や責任感が生まれるというイメージは沸く。
この「責任感の不足」という機能不全を克服する策には、以下のようなものがある。
リーダーの役割は、以下のとおり。
第4の機能不全:説明責任の回避
第4の機能不全は、「説明責任の回避」。
このくだりを読むと、説明責任を、チームメンバー間で、チームに悪影響を与える行動や態度について指摘して、プレッシャーを与える、という意味で使っているようだ。それができるチームは、お互いの期待に応えるために、自然と高い水準の仕事をする。そしてそれができないチームは、そうならないばかりか、仮に人間関係がうまくいっているように見えても、チームメンバー相互間の不満が胸の内で募り、人間関係はいずれ悪化していく、ということなのだろう。
この「説明責任の回避」という機能不全を克服するための手法は、以下のとおり。曖昧さを除去し、フィードバックを与えるルーティンを作るだけで、説明責任を追求しやすくなる。
リーダーの役割は、以下のとおり。
第5の機能不全:結果への無関心
最後の機能不全は、「結果への無関心」。
これは、比較的分かりやすかった。結果を重視しなければ、そもそも結果を出すために構成されたチームであるという存在意義を失わせることになるのは明らかだ。
この機能不全を克服する策は、次のとおり。
リーダーの役割は、次のとおり。
まとめ
これらの5つの機能不全は、相互にリンクしている。
第1の機能不全である「信頼の欠如」があると、恐怖ゆえにチームメンバーと対峙できず、第2の機能不全「衝突への恐怖」が生まれる。これは、分かりやすい。
「衝突への恐怖」があると、生産的な衝突が生まれず、各メンバーの意見が十分に議論に取り込まれない。そのため、決定を明確に支持する気持ちになれないメンバーが出てきてしまい、第3の機能不全「責任感の不足」につながる。
「責任感の不足」があると、チームメイトに相互に何を期待すべきか明確に理解できず、それゆえ、互いの行動や態度をとがめることができない。こうして、第4の機能不全「説明責任の回避」が生まれる。
「説明責任の回避」により、チームでメンバー相互の責任を追求しなければ、自分の責任範囲のことだけに目が向き、全体の結果を重視しない、第5の機能不全「結果への無関心」に至る。
ここまで読んできて、陳腐な言い方だが、チームメンバーによるチームワークの良し悪しが、チームの成果に及ぼす決定的な重要性について腹落ちした。
チームメンバーの一人ひとりは、感情を持った生身の人間だ。そんな不完全な人間たちが、信頼、衝突、支持、責任追及という、面倒で厄介なプロセスを経て、良い人間関係を構築、維持しながらひとつにまとまるというのは、並大抵のことではない。チームワークというと、言葉にするとシンプルだが、真のチームワークに到達するまでの道は険しい。そして、それを率いていかなければいけないリーダーの役割は、あまりにも重い。
しかし、本書は、そういう重責を担うリーダーに対して、気を付けるべき5つの機能不全を解きほぐし、それぞれの落とし穴に落ちないような対策を含め、数々のヒントを与えてくれる。
チームをまとめるリーダー的な役割を担う方には、きっとお役に立つ本だと思う。
ご参考になれば幸いです!
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