『世にも奇妙な物語』好きは安部公房がキライなわけがない【エッセイ】
この文章は「今年(2024年)は、安部公房生誕100周年の年らしいよ!」なんて話を急にぶつけられても・・
と気が引けてしまうくらい控えめなあなたのための敷居をググッと下げた安部公房評です。
安部公房という作家の楽しみ方をお伝えできれば、というかぼくは安部公房をこうやって楽しんでますみたいな感じのが近いかと思います。
高校の授業でその名前くらい聞いた覚えはある気がするけど、なんとなく手に取るのをためらっていた人が読んでくれているなら、本稿はぴったりかもしれません。
じつは安部公房。
ノーベル賞受賞直前だったりとかで、でもノーベル文学賞には、死んだ人に賞を渡したらいけないというルールがあるらしく、
その後に大江健三郎がその受賞後に「安部公房の代わりに取ってきましたw」
なんて言われてしまうくらいのすごい文学者なんです。(今でいうと、村上春樹とかそういう感じなのかな。と言っても、村上春樹ほど爆発的に売れてるわけでもないので、比較のしようがありませんが。と、文学界においての村上春樹の異質な立ち位置についてはまた今後別の機会に)
これが、安部公房のお顔です。
この人こう見えて(どう見えてだよw)東京帝国大学医学部(いまでいう東大医学部)を卒業されてる、めちゃめちゃインテリです。
ちなみにフランツ・カフカという、これまた文学界ではビッグネームがいるのですが、カフカの亡くなったのが1924年で、ちょうどその年に生まれたのが、安部公房なんです。だからなのか、その作風的にも似てるところがあり、カフカの再来なんて言われたりもしているみたいです。
(余談ですが、安部公房が亡くなった1993年に生まれたのが、ぼくですw安部公房の再来とか言われたらかっこいいなぁ。そりゃなさそうだけどw)
カフカというのは、チェコ出身なのですが、かれはドイツ語で文学を紡ぎました。そんなわけで、かれのキーワードはアイデンティティの不在です。その何者でもなさこそがカフカだ、みたいな感じで流行ったんですよ。
安部公房の人生も、どことなくそんな雰囲気が漂います。というのも、生まれは東京ですが、その後すぐに満州に飛んでいます。ですので、アイデンティティが形成される思春期のほとんどは、満州で過ごしたと言えるのですが、歴史が示す通り、満州は中国に返還されているので、実質的な故郷喪失を経験されているのだとか。それから、満州からの引き上げなども経験されています。
そんな境遇が、カフカと似ていると言われれば、たしかにとうなずけませんか。
安部公房は、なにが面白いかというと、その世界観のつくりこみだと思います。
小説を読んでいると、急にぽーんと理数学的な数式が叩きつけられるわけです。ぽかーんとしながらページを捲っていると、やたらと不思議な言い回しの独特な比喩表現が散りばめられるんです。
書評なんかを読むとやたら強調される「実験的な文体」というのは、おそらくこのあたりから言われているのではないかと思います。
なんというか、文学という体験を新たなステージに押し上げている感じがするんですよね。
だから、昔の文章のはずなのに、めちゃめちゃ新しい発見や気づきがあるんです。
そして読んでいて全然、古臭くないんですよ。
物語自体が普遍的な構造を持っているというか、まったく時代にとらわれていない感じがします。
そして、東大医学部卒の人の物語なんだから、難しいんじゃないの?と思うかもしれませんが、意外とそんなことはありません。
あっさりいけます。ぐんぐん読めちゃいます。で、気づいたら取り返しのつかない場所に来ちゃったりしています。この体験がいいですよ。
ホラー小説とかではないんですけど、どの作品もアイデンティティ自体を揺さぶりかけてくるテーマなので、心臓を握られている気分になります。
似てるジャンルで言うなら、「世にも奇妙な物語」やNetflixオリジナルの「ブラック・ミラー」なんですけど、それともすこし違うんですよね。
まぁ、読んだ人にだけわかると思います。でも、この体験が案外癖になるんじゃないかなとぼくは思っています。
で、こういう物語のつくりこみは、絶対に影響受けている(はず)のが村上春樹なんです。
だから、カフカ+安部公房=村上春樹、みたいな捉え方をしている人もいると思います。それはそれで捉えやすいんでいいんじゃないかな。
まぁ、とにかくです。
安部公房が、現代に流れている文学の大水脈のひとつの源泉であることは間違いありません。
どうですか。すこしだけ安部公房を読んでみたくなったんじゃないですか?
そんなあなたに3冊だけおすすめします。
『砂の女』
まずは、定番中の定番です。
安部公房といえば、みたいな代名詞的作品ですよね。
ストーリーは、昆虫採集してた男が砂の集落に閉じ込められるという不条理小説的展開なのですが、ただただ惹き込まれます。「え?本当にこういう集落あるんじゃないか?」というリアリティが漂うんですよね。そして、砂についてただだた考えさせられます。ずあぁりと砂と歯があたる、あの嫌な感覚がずっとつきまとうみたいな内容です。すみません、よくわかりませんよね。でも、読んでいただけると、今、ぼくが言ってることを納得していただけるんじゃないかと思います。
不思議なことに読んでるうちに、気づくと自分の人生も砂みたいなものなんじゃないかという疑いが表れてきます。
これが安部公房の狙い(しらんけどw)です。
こんな風に、安部公房という作家はメタファーに見せかけて実は「ところでおまえはどうなんだ」を突きつけてくる名人です。
『他人の顔』
この作品は、今の時代でも読んでて面白いんじゃないかな。
というか、今の時代こそジャストでぶっ刺さるかもしれません。
美容整形業界が潤っている現代において、「顔」というものをもう一度考え直すきっかけになると思います。
そうした意味でも、予言的な小説であるといえるかもしれません。
主人公が、他人の顔になりすまして、妻をナンパするんですよ。
で、ナンパに応じる妻みたいな軽い話なんです。
妻の不貞(?)を一部始終見届ける夫の心情が手記として語られているので、
面白いのが、いわゆる寝取りなんですけど、寝取るのも自分という……なんとも意味不明な展開です。
この作品、ストーリー展開がやや特殊で最初読むの苦労するかもしれません。
それこそ小説とか読まない人がいきなり読んだら、なんだこれ?で終わっちゃうんじゃないかなと思います。
そんな人のために楽しむコツみたいなものをお伝えしておきます。
それは、男の日記を元にストーリーは自分でつくるみたいな作業なんですよね。書いてある日記をもとにじぶんでストーリーを膨らましていくというか。
すみません感覚的な話でした。でも、慣れてくるとこれがたまらないんですよね。
『箱男』
最後はもちろん、箱男です。
この作品を安部公房の最高傑作だと語る人も多いですよ。
このホームレスでもなく、でも街を浮遊する存在の箱男という存在が、「これおれのことだ!」って、な・ぜ・か、なるんですよね。特に、ぼくは夜中に街をぶらぶらことが多いので、気分はいつも箱男です(笑)
安部公房は、いつもそうです。おかしな物語を書きながら、ひょっとしておれのことを言っているんじゃないか?という疑心暗鬼の電流を流すんです。そして、気づけばじぶんのアイデンティティが不確かになるんです。たとえるならジェットコースターの落下時に、お腹がひゅっとなるあの感覚ですかね。そう、安部公房は体験なんですよね、ぼくの中で。
箱男のことばっかり考えるようになって、自らも箱男になって、エロもあって、バイオレンスもあって、哲学的でもあって、みたいな1冊で、これだけ楽しめることがあるのかねってくらい面白いです。
最近、映画も上映されてて、観てきましたが、原作を忠実に映像化しているなぁという印象でした。
好きな人は好きだと思います。
もちろん、ぼくは大好きです。
ぜひ、あなたの人生にちょっとだけ安部公房成分を加えてみてください。
どちらかというとビターな味わいですが、これが癖になる。
さいごに
ここまで読んでくれてありがとうございます。
もし、この話を読んで面白いと思ってくれた人に
一個だけ頼みがあります。
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ぼくは、これからこういう活動(文章を書く仕事)で本気で食っていきたいと考えています。
だから、今後のためにもあなたがどんな人物で、どんな感想を抱くのかということは知っておきたい。
ぜひよろしくお願いします!!