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【毎日note169日目】直木賞候補作・『能楽ものがたり 稚児桜』感想

こんばんは。さゆです。

何度も書いてしつこくて申し訳ないのですが、私は今月、33歳になります。


20代の頃は、あれも欲しい、これも欲しい、可愛くなりたい、人から認められたい、賞賛されたい...と、今以上に自己顕示欲丸出しで生きていたものの、さすがに30代ともなると、人の世がままならぬことを悟り、それなりの辛さも体験するため、「今、与えられた駒でどう闘うか」をしたたかに考え始めるようになりました。


置かれた環境で腹を括り、前を向いて生きるーー。


他者の目を気にしたところで、どうせ自分は自分でしかいられない。

だから、できるだけ強くたくましい女性でありたいと、30代半ばを迎えようとしている今、静かに思うのです。

第163回直木賞候補作に選ばれた澤田瞳子先生の『稚児桜』(淡交社)は、能の名曲からインスパイアされた8編の物語が収録された小説です。

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私は能のことはさっぱりわからないのですが、自らの意思とは裏原に、過酷な環境で生きることを強いられた主人公たちが、大胆にしたたかに、時に優しく、時に哀しくも美しく、“苦しい時代を生き抜く強さ”を持っていた所に惹かれるものがありました。


「人の世は、とかく思いのままにならぬもの」。


最も印象に残ったのは、表題作にもなっている「稚児桜」。


本作は、貧しさゆえに親から捨てられた稚児たちが、清水寺にて、昼は僧の身の回りの雑用を、夜になれば閨(ねや)の相手をする日々が綴られています。


(清水寺でそんなことが行われていたのかと唖然としました。)


主人公の14歳の花月は、その可憐な面差しゆえに、僧侶たちからとても人気の稚児。芸を極め、美しく着飾り、殴られたり嫌がらせに合ったりしながらも、生き抜くためにたくましく過ごしてきました。


反対に、まだ寺に来て1年足らずの百合若という稚児は、そんな花月の苦労を知る由もなく、ただ彼を羨み、自分の境遇を嘆く日々…。


どこかで腹を括って稚児勤めに邁進しなければ、寺では生きていけないのですが、どうやら百合若にはその覚悟もなさそうだということが伝わってきます。

そんなある日、突然に、花月を捨てた父親が寺に現れ、花月を引き取りたいと言い出します。

花月はすでに14歳で、そろそろ稚児勤めも先が見えて来た頃。

地獄の日々を抜け出すまたとないチャンスに、花月は思わぬ行動に出て――!?

本作は彼らをずっと見守ってきた寺男の藤内という人物の目線で綴られているのですが、彼の、

人の世は、とかく思いのままにならぬもの。自らの意思とはかかわりなく降りかかる困難にどう立ち向かうかで、一生は定まる。

…という言葉が稚児である花月の生き方を象徴しているようでした。また、時代は変われど、読者を勇気づける言葉でもあり、優しく哀しい花月の人生に心を打たれました。


大胆でしたたかな悪女たちに魅せられる


また、「猟師とその妻」、「大臣の娘」、「秋の扇」の3つの物語は、個人的に「悪女三部作かな…?」と思うほど、一見優しいフリをした、大胆でしたたかな頭脳派の悪女たちの物語でした。


生きるために、殺生を繰り返し、そこに次々と引き込まれる男たち、自分を捨てた母親と久しぶりに再会し、罠にかけようとする娘、共に苦労した仲の遊女を思いのままに操る女…。

ゾッとするほど恐ろしいものの、その不気味さが、どこか艶やかで美しく描かれています。

自らの境遇を嘆き続けておしまい、ではなく、人を陥れてでも、自分たちの人生を少しでも良くするため、成りあがろうとする凛とした姿に天晴れ…! という感じでした(笑)。



他にも、高名な巫女・照日ノ前に買われた醜い童女・久利女の物語「照日の鏡」は、思わず笑ってしまいました…! 

生霊に祟られた光源氏の妻・葵上を救うため、照日ノ前の仕事のお供をすることを命じられた久利女。


六条御息所がいつ大暴れするのかなと思ってワクワクしながら読んでいたら、まさかまさかの結末で…!!

照日ノ前が「世の中には、おぬしの如き醜い女子にしかできぬことがあるでのう」と告げて、化け物だの醜女だの言われ続けた童女・久利女を買った理由が最後に明かされ、なるほど…こんな源氏物語の解釈もありだな…と思い、思わずほくそ笑んでしまったのでした。


当然のように子は親に売り飛ばされ、しかし、その両親とて生活に疲れており、明日を生き抜くことすら大変だった時代。

そんな時代の愛憎劇に、現代の私も、覚悟を決めて強く生き抜くその心を教えてもらった気がします。


無知ゆえに能がわからず、こんな感想で良いものかどうかは全く不明なのですが…。


しかし、時代が変われど、人が人に抱く嫉妬や愛情…あらゆる思いは、ちっとも変わらぬままなのだなあとしみじみと感じたのでありました。



さゆ


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