白無垢の女 #白いワンピース
フロントには手配をしていた。
外資系のリゾートホテルはこんな事に頼りになる。
私の電話を受けて、電話口の向こうでは、係員がウィンクしていたかもしれない。
梅雨空が切れ切れになって、夏の顔を見せてきた初夏。
その厚い雲が嘘のように取り払われた日に巡り合えた。
きっと蒼天に映えるだろうな、そう車窓からぼんやりと眺めていた。
英国製の彼の車には綺麗に掃除がされていても、マットには長い髪が落ちていた。ああ、まだデートする程度には円満なのね。
水を差すのも悪いわね。
でも抑えきれない想い。
それも最期になるのね。
部屋は応接間のあるsuite。
綺麗にお花が活けてあった。
血の色のような深紅の薔薇。
あのフロントマンの、丁寧な口調の裏にあった含み笑いがこの趣向なのかもしれない。冴えてるな。
予約を入れたのは彼だったし、paymentも済ましてある。それに色を添えたのは、私。
バルコニーに出ると、そこにはリゾートチェアが並んでいる。目の奥に痛みを感じるほど、陽光が眩しい。
チャイムの音がした。
「シャンパンが届いたみたいだ」
そう彼は言って、ドアに向かっていく。
それからミニワゴンごと押して寝室に戻ってきた。
銀食器に軽食のサンドが並んでいる。
私は帽子のふちを直しながら、開け放ったバルコニーの窓からの風を受けていた。スカートが旗のように揺れている。
「ね。クロゼットを開けてみて」
並んだグラスに黄金色のお酒が注がれている。
「まずは乾杯しよう、それからプールでもいいし海でもいい。何ならヨットでも借りるか」
確かにそのどれもが揃っている。
空中でかちんとグラスがなって、芳醇で刺激的に弾けるそれを飲み干した。喉に熱く、胸に冷たい。
「クロゼットだって」と彼は席を立って、その鎧戸の観音開きを開いて、しかも一歩退いて小さく呻いた。
「・・・これは」
「私ね、結婚するの。その時に着るドレスよ」
「・・そうか、おめでとう。参列はできないけど」
でも私は、貴方の式には地味なドレスでいたのよ。
「そうね、貴方とは並んでは着れない服よ。だから持ってきたの。今日なら着てもいいかな、って」
「・・・ああ、お別れの記念ってことでいいのかな」
そうね、よくわかっているじゃない。
「ひとりでは着れないの、手伝ってくれる?・・・それから脱がしてくれる?」
彼が重そうにレースが幾重にも施されたその服をハンガーごと持ち上げた。私がオーダーして誂えたもの。それを発送してフロントマンに頼んで部屋に入れて貰っていた。
あっさりと肩から翠色のサマードレスが足元に落ちた。
帽子も脱いで、髪を後ろ手にかき分けながら進んだ。
そうね。
「脱がしてくれるときに、乱暴に破いてもいいわ」
そう、その顔が見たかったのよ。