男爵のヴィラ 2 #いやんズレてる
普段通りの時間が流れている。
のは内面だけだ。
閉ざされた空間で全裸で過ごしている。
空調なしだと椅子にもソファにも汗ばんで貼りついてくる。エアコンを緩めにしても座面から引き剝がして姿勢を変えている。人間社会は衣服というBuffer zoneありきで成立しているらしい。
リサはキッチンに立っている。
それも普段はしないエプロンで前を隠している。
僕がそれを咎めるように凝視していると、油が跳ねて火傷したらどうするの、私は仕事を失うのよ、と言われexcusedの範疇がまた広くなった。
そう、彼女はモデルや、ドラマのちょい役を貰っている。
ホィッパーで何かを攪拌しているが、その動きでhipが小刻みに揺れている。そんなスカート内部の裏事情は、大金庫で秘匿して欲しい。
二日目の朝を迎えれば既に痴態とも思えず、ただただ期限が過ぎるのを待っているだけだ。
寝室にはqueensizeしか置いてなく、今朝は隣で目覚めた。
先に起きていたリサは肘をついていて、屹立している僕の股間を微笑して眺めていたので、鳥肌が立った。
「・・これは男の生理現象、bathroomを使えば萎えてくる」
リサは艶然と笑い、右手を筒状にして覗きながらぺろりと舌を出して、あらお手伝いは必要ないのと言った。毒蛇に睨まれた気がした。
当時はまだAIDSという病が未知の病原菌とされており、彼女の職業柄、関係を持つのは地雷原に踏み込む勇気が必要だ。
それまでの業界の生態を隠すことなく話してくれている。
ちょっと憧れた女優の素顔を聞いて、幻滅したくらいだ。
衣服をそれぞれ纏った。
ようやく文明に復帰した気分になった。
僕はいつこのヴィラに、その彼氏とやらが踏み込みやしないかと極めて臆病になっていた。
「じゃあ、わが家に戻りましょう」
そう言って、リサはChryslerをcoasthighwayに乗せる。
赤毛がかったブロンドが、牝馬のtailのように棚引いている。
「あのさぁ、この休日って意味があったの。結局、自堕落な暮らしをしていただけじゃない」
「私はヨガをして運動していたわ」
ああ。全開で全てを見せてくれたな。
申し訳ないが君らの白い肌には、潤いがなくてこっちは食傷気味になっているんだ。
「まあ、僕は何もしていないが」
「あのねえ、私って視線を集める商売じゃない?だからね、肌には緊張感が必要なの。なんていうの、老廃物が溜まるというか、くすんでしまう気がするの。まあ日光浴みたいなものね」
僕の視線でdetoxificationをしたってことか。
その宵にはワインを開けて食事をして、いつもより丁寧なおやすみのkissをした。後ろ手にドアを閉めたが。
網膜の下に彼女の隅々が駆け巡り、血流が一点に集中して、鎌首をもたげていく感触がする。耐えきれずそのまま膝をついた。
彼女の毒がこちらに回ったらしい。
しかもかなり遅効性だ。
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