見出し画像

実力も運のうち 能力主義は正義か?(マイケル・サンデル)

なぜこの本

初春の3月は微かな花の香りが漂い、四季の一巡を感じられる月。
そして入学、卒業、就職、転職、異動等で期待と不安が入り混じる時期でもあります。
受験の結果が出揃い、4月からの新天地が決まる人もいるでしょう。
不本意な進路、希望した進路と異なる進路を取る人もいるはずです。
一喜一憂はあれど、3月の結果という断面のみならず、長期的かつ広範な視点を持つことが精神衛生上も良いように思います。

受験に人々が力を尽くすのはなぜでしょうか。

良い学校・大学に行くことで人生が決まる側面はありますが、必ず幸福になれるわけでもありません(イノベーション・オブ・ライフを見ても然り)。
しかしながら、日本に限らず、世界でも受験戦争は激しさを増しています。
アメリカでは受験不正が大きなスキャンダルになりました。
「高い学歴を有する者は高い能力を有している」
「努力して高い能力を手中に入れた者はそれに値する社会的成功と報酬を手にする」
というMeritocracy(メリトクラシー)が学歴・受験信奉を築き上げている側面があるでしょう。

どんな本

メリトクラシーを考えながら、どういった社会が望ましいのかを問うたのが、マイケル・サンデル「実力も運のうち 能力主義は正義か?」。原題は「The Tyranny of Merit ~What's Become of the Common Good?~」。

マイケル・サンデルはハーバード大学の政治哲学教授。
NHKのハーバード白熱教室の対話型授業で日本でも有名になりました。
彼の主張の柱はアリストテレスから通じる共通善。
本書でもマイケル・サンデルは共通善をベースとしながら、メリトクラシーを問うていきます。
2010年代後半からの民主主義の変化(Brexitや2018年のトランプ当選など)を丁寧に解きほぐしながら社会の分断の遠因となったメリトクラシーについて考えていくと実力主義がもたらす哲学的問題と人権概念に辿りつきます。
トランプ当選の背景にあるアメリカ民主党への逆風は日本人にとって理解しがたい部分があるかもしれません。
前大統領のオバマが訴えかけた「Yes, we can」はセンセーショナルに取り上げられましたが、このフレーズ自体が実はメリトクラシーであることに気が付かされた時は恥ずかしながら衝撃でした。
「私たちは(やれば)できる」
しかしながら、社会的弱者にいる人々から見れば「やる気」の問題だけではありません。
努力しても報われるだけの成果が約束されるわけではないとしたら…努力を続けることはできるでしょうか。

誰が、いつ読むのがおすすめ

この春に漠然とした不安を持っている方におすすめ。
この本を読むだけで目の前の世界が良くなるわけでも、キャリア開発になるわけでもないですが、漠然とした不安の端緒を本書の中に見つけることができます。
不条理な世の中を俯瞰しながら、ふと重荷を下ろす清涼剤のような一冊。
皆さまの春が良き季節となりますことを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?