失敗だって当たり前のように許されたら、おもしろいだろ?
素敵なことばを紹介します。
砥上裕將さんの小説「線は、僕を描く」
水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、ひょんなことから弟子になった全くの初心者、青山霜介。
初めて筆を持った霜介に、ともかくやってみろ、と湖山先生は何枚でも新しい紙を用意して、描き潰させてくれた。
どうしようもない落書きを繰り返し、何度も失敗するうちに、霜介はいつの間にか夢中になり
どうせ失敗するんだから。と気楽なきもちで次々に新しい紙に向かっている自分に気がついた。
その時、湖山先生が穏やかな目でこう言った。
おもしろくないわけがないよ。
真っ白い紙を好きなだけ
墨で汚していいんだよ。
どんなに失敗してもいい。
失敗することだって当たり前のように
許されたら、おもしろいだろ?
霜介は、その言葉を聞いてハッとする。
———確かにそうだ。こんなにも何度も失敗を黙々と繰り返したことは、僕にはない。失敗を繰り返すほど、何かに挑んだこともなければ、失敗を楽しいと思ったこともない。
湖山先生:いま君が経験したのが天才が絵を描いたときに感じる感覚だよ。純粋に絵を描くことと言ってもいい。
霜介:天才が絵を描いた時の感覚? あんな子供のように描くことがですか?
湖山先生:もし子供のように無邪気に描ければ、その人は天才になれるよ。失敗することが楽しければ、成功したらもっと嬉しいし、楽しいに決まってる。
… 引用ここまで …
言われてみればその通りだと思うし、心がほっとする言葉でもある。
私もいつも緊張して、つい恥をかかないようにしようとしてしまう演技のクラスで、この湖山先生のことばを思いだして
「思いっきり失敗してこよう」と自分に言い聞かせたら、心が軽やかになった。
紹介した部分は、まだまだ物語の序盤で
この先でも霜介が立ちどまるたびに、まずはやってみよう。と踏み出していく様子や
周囲の人たちとの関係性の変化、水墨画を通して見えてくる命、描くことの本質や奥深さが
物語にあらわされていて、するすると読みやすいのに、心の深くから満たされるような充足や温もりを感じられる。
そしてきっと、水墨画をやってみたくてしょうがなくなる。。(笑)
そんな素敵ですばらしい作品です。
この間、読んだことがあると気づかずに本書をまた買ってしまい、久々に読んだのですが
2回目も、夢中になってあっという間に読みおえて、著者の砥上さんの他の作品を読むために、また書店に足を運んでしまうくらい、魅力的な物語でした。
※もちろん2回目も同様に水墨画をやりたくなりました(書道教室を体験予約しました)
素敵な専用サイトも見つけました(サムネ引用元)
https://senboku.kodansha.co.jp/
…
その日の最後に、湖山先生は霜介にこう言います。
君は今日、挑戦した。それが、まずはとても大事。
そして、心から満足そうに笑いました。
おわり☺︎