酔いどれ雑記 30 陽気な墓
※墓所の写真が沢山あります。苦手な方はご注意ください。
ルーマニアのマラムレシュ地方、ウクライナとの国境近くにサプンツァという村があります。その村には私が訪れた中で1番と言っていいほど好きな墓所があるのです。その名も「陽気な墓」。なんでもフランス人観光客が付けた名前らしいのですが、とっても素敵な名前だと思います。また、ルーマニア人の祖先とされる古代ダキア人の「死をものともしない」という思想から来ているとも聞いたことがあります。あこがれだった彼の地を訪れ、あまりにも気に入ってしまった私は、生前予約は出来ないのかと尋ねたところ、予約でいっぱいだと言われてしまいました(まぁ、村人限定で教会の信徒ではなくてはならないのでしょうけれども)。
墓標にはこのように、故人の生前の様子、あるいは死に様(!)を表したイラストと、故人がどのような人物だったかという紹介が面白く、滑稽な文章で綴られています(ルーマニア語が読めないのが残念過ぎる......)。
こちらはバーテンダーだった方のお墓でしょうか。
こちらは羊飼いの男性?
こちらはお料理が得意だった女性ですかね?
こちらは......交通事故で亡くなられた方でしょうか。電柱のようなものが折れています。
少し見づらいのですが、エプロン姿(?)の男性が、酒瓶片手にくわえ煙草、足元には悪魔のようなものが描かれています。しかもイラストの下の紹介文がやたら短い。
これも交通事故でしょうか......。
これも交通事故......?荷馬車がまだまだ使われていたような村で、車での交通事故死って何だかなぁ......と思ってしまいます。
こちらは更に恐ろしいです。右の墓標、処刑された方なんでしょうか......。しかもほかの墓標はイラストが大抵1つなのに2コマあるし......。ルーマニア語が読めないので推測するしかなくて実は全然違ったりするのかも知れませんが。
墓所の入り口、門柱です。確か入場料と、撮影をするならその費用も必要でした(カメラとビデオ撮影では別料金)。
以下、入り口の装飾です。イエスの磔の場面が描かれています。
塗り替え中のようです。
こちらはだいぶ風化しているような......。
職人さんたちが修復作業を行っています。
こちらはこの「陽気な墓」を始めた職人、ヨハンさんのお墓です。墓所に隣接して小さなミュージアム(兼、工房)もあります。
私はこの「陽気な墓」が好きすぎて、アイロンビーズで風景画まで作ってしまいました。こんなことをするのは世界中で私くらいのものだろう。もしいらっしゃったらご連絡くださいませ。ツイカ(ルーマニアの酒)でも奢らせて下さい。
陽気な墓の敷地内にある教会です。このあたりのキリスト教に詳しい方に訊いたところ、ルーマニアでは一見、正教会っぽく見えるカトリック教会が多いそうです。こちらもそうらしいとのこと(外観はカトリック教会だと素人目にも分かりますが、内部は正教会っぽい装飾だったりするんですよね)。
以下、たくさん撮った写真の中から何枚か掲載します(フィルムカメラで撮った写真を性能の悪いスキャナーで取り込んだか、プリントした写真をデジカメで撮っているので画質悪いです)。
数ある墓標の中ですごく気になるのがこちら。半裸で下半身は下着のみ着用、羽の生えた女性を2人の男性が見つめています。一体どういうことなんでしょう......。
私は色々なところを旅行し、その土地ならではのお土産を各地で購入しましたが、これ↓ほど気に入っているものはありません。「陽気な墓」のミニチュアです。運よく職人さんがいらしたので、名前を入れてもらいました。日付は入れてもらっていませんが、これが私の墓標でいいと思っています(本気)。イラストは男性ですけれども、性自認謎、Xジェンダーの自分にはぴったりです。ルーマニア語は分かりませんが、女という単語、ツイカ(ルーマニアの自家製の酒)と書いてあるのは分かります(多分......)。何といっても持ち歩きができる墓標ですよ。金額のことを言うのは野暮ですが10ユーロでした。世界中に建てられているどんなお墓よりどんなに素晴らしいもの(そして安い)ではないのでしょうか。
可愛らしい坊や(職人さんの息子さん)が店番をしていました。墓標と絵葉書だけの、小さなお店。
この「陽気な墓」を私が気に入っている理由は沢山ありますけれども、単純に楽しそうだなって思うのと、死を暗い、陰惨なものとは考えないところです、一番は。私はこの墓所に眠りたいですーー世界中の人が観光にやってきて、なにこれ、面白いなぁって思って写真でも撮ってくれれば大変結構じゃないですか。私がもしここに眠ることになれば、どんな墓標、どんな紹介文が刻まれるのでしょうかね。ただ1つ思うのは、生き様より死に様がインパクトあるのは自分としては何となく嫌だなということです。写真に載せた、交通事故で亡くなったと思しき方々、生き様ではなく死に様が描かれた人たちは、生前はどんな方だったのか気になります。手に職を持った方かも知れないし、何かが得意な方だったかも知れないのに、墓標に描かれたのは死に様。誰がどのように発注(?)するのか謎ですけれども、墓標の下で眠っているご本人はどう思っているんでしょうかね?そんな場面ではなく、趣味を楽しんでいる絵にしてくれ!とは思っていないのでしょうか。1つ1つ、多分全部の墓標をじっくり見ましたけれども、ここに眠っている人たちみんな、生まれて生きて生活してーーそれぞれの生があってそれぞれの死があったんだなぁと思うとクラクラきます。まぁ、これはこの陽気な墓だけのことではないんですけれども。けれど私は世界中のどんな墓所より、私の好きな有名人、著名人、文化人が眠っている墓地より、おそらく無名の人しか眠っていないこのサプンツァの陽気な墓にどうしても惹かれてしまうのです。