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全国自然博物館の旅【56】山口県立山口博物館

瀬戸内海や日本海に面し、豊かな山林環境を有する山口県。なおかつ古生物化石にも恵まれた地域であり、生き物好きなら当地の自然科学を必ず学んでおきたいところです。
本県の県立博物館では、雄大な自然環境の調査研究が実施されていて、山口県の現自然や太古の世界の秘密が解き明かされ続けています。博物館で山口県の自然科学を学ぶことで、地球環境に対する理解も一段と深まると思います。


山口県の大自然に秘められた謎と不思議

山口県の現代・古代の自然環境が学べる県立博物館。所在地は山口市内の県庁近くであり、個人的には車でのアクセスを推奨します。遠方からの旅行者である筆者は下関市スタートとなり、朝イチに駅前でレンタカーを借りて走り出しました。

筆者のように遠方からの旅行者は、下関市スタートになると思います。レンタカーを借りて、高速道路で山口市へと向かいましょう。

高速の中国自動車道を走って山口市へ向かい、国道9号もしくは県道204号経由で県庁へ続く「パークロード」へと入ります。道路の周辺には多くの公共施設・学習施設が密集しており、県政の中核を担う地であると言えます。このパークロードの道半ばに、目的地の山口博物館が立っています。

高速道路を下りて、県道204号または国道9号からパークロードへ向かいます。周辺には、様々な博物館施設や公共施設が立っています。
パークロードを進んでいけば、目的地はすぐそこです。博物館の敷地内には駐車場がありますので、車での来館に適しています。

博物館の敷地内の駐車場に車を停めたら、一度、館の周辺を歩いてみましょう。県内で採集された化石標本が屋外展示されていて、山口県に眠る生命史の深さに触れられます。我が国に息づいていた太古の生命を想像すると、古生物学への強い憧れが生まれますね。

山口博物館。本県の自然科学・人文科学・先端科学テクノロジーを広く学べる総合博物館です。
博物館の敷地内には、県内で採掘された化石が屋外展示されています。山口県の大地には、地球の古い記憶が眠っているのです。
貝類の化石が密集した砂岩。約300万年前の下関市には、浅い海が広がっていたことを教えてくれます。
建屋の側には、D60形式1号蒸気機関車が展示されています。昭和41年に廃車となり、現在では歴史の語り手として博物館の傍らに座しています。

それでは、心が暖まってきたところで入館!
階段を登って、いざ展示エリアへ。本館のキャラクター「なっとくん」と一緒に、山口県の自然科学をとことん学習しましょう。

いざ入館。ゲートに続く道は、生き物好きの好奇心をそそりますね。
展示エリアへの入口は2階にあります。階段を登って近づく度に、テンションがどんどん上がっていきます。
博物館のマスコットキャラクター「なっとくん」。知りたがりの星から来た勉強家の子です。

全生物マニアを魅せる山口県の自然環境

神秘と迫力に満ちた古生物たちの共演

観覧スタート。自然科学を第一に学びたい方は、まず自然エリアの「地学」の区画へと向かってください。最初は古生物たちとの出会いから、地球生命と生態系の学習が始まります。
展示区画に足を踏み入れた瞬間、現れるのはパワフルなティラノサウルス(スタンと呼ばれる個体)の全身骨格! 最強の陸上肉食動物と謳われる恐竜の王の生態、詳しく学んでいきましょう。

地学系の展示区画。山口県のみならず、世界各地で発見された古生物と対面できます。
展示室に入ると、いきなりティラノサウルスが登場! 「スタン」と呼ばれる成体の骨格を再現したレプリカとなります。
顎をはじめ、骨格にはいくつかの傷跡が見られます。獲物との対決、またはティラノサウルス同士の闘争で負傷したと思われます。
ティラノサウルスの解説キャプションは超充実。最強の陸上肉食動物の秘密、とことん知りたいですね。

ティラノの勇姿に圧倒されたら、その勢いのまま生命史の学習を始めます。本館の化石展示は地球の全時代をフォローしており、世界各地の素晴らしい標本を間近で拝めます。それぞれの時代の魅力的な古生物たちが、自然科学への探究心を呼び起こしてくれます。

世界最古クラスの生命の化石を有する、オーストラリア産の堆積岩。産出地層からは、なんと35億年前のバクテリアの化石が見つかっています
約6億年前の海に生きていたサイクロメデューサ。「エディアカラ動物群」に属する、極めて古い多細胞生物です。
黒い部分は、カナダ産の古代植物クックソニアの化石。シルル紀に登場した陸上植物です。
シーラカンス類の化石と模型を同時展示。彼らの分類群の系統は、現在まで生き続けています。
ペルム紀の両生類ディスコサウリスクス。当該標本はチェコにて発見されました。

そして、お待ちかねの中生代の古生物展示。みんな大好き恐竜たちの骨格を存分に拝みましょう。地球全土に君臨し、永きにわたる王朝を築き上げた彼らは、この星で最も強力な生命なのかもしれません。強くてかっこいい恐竜たちを科学的に探究すれば、ますます彼らのことが好きになると思います。

肉食恐竜アロサウルスの複製頭骨。ティラノサウルスに比べて顎は細く、「噛みつきながら切り裂く」スタイルで獲物を仕留めていました。
恐竜の実物化石にタッチできる体験展示。アパトサウルスの大腿骨、エドモントサウルスの上腕骨に触れます。
やはりティラノサウルスの存在感は圧倒的。物を噛む力は、陸上生物で最強と言われています
ジュラ紀の海洋爬虫類プレシオサウルスの複製頭骨。彼らは首長竜という動物群であり、恐竜ではありません

各国のスター古生物たちについて学んだら、いよいよ山口県が誇る貴重な化石標本とご対面! 秋吉台のカルスト台地が有名な山口県は地学資料に富んでいて、古生代・中生代・新生代の地層が広く分布しています。山口県にはいかなる古生物たちが息づいていたのか、本館の化石標本とキャプションで徹底的に濃厚学習できます。

山口県産の化石展示スタート! 秋吉台で有名な美祢市は、化石の一大産地なのです。
古生代の山口県の環境復元図。約3.5億年~約2.5億年前、秋吉台にはサンゴ礁が広がっていました。当地の地層からは、石炭紀やペルム紀の生物化石が多数発見されています。
美祢市で発見された海洋生物ウミユリ類の茎の化石。見た目は植物のようですが、実はヒトデに近い棘皮動物です
同じく、美祢市で採集された腕足類フィリコドチリスの化石。現生のシャミセンガイと同じ分類群に属しています。
サンゴ類タイシャクフィラムの化石。はるか南の海で形成された雄大なサンゴ礁は、海洋プレートの移動によって、ペルム紀末期にアジア大陸に運ばれてきたのです。

悠久の時の中、環境は移り変わり、中生代へ始まります。恐竜たちの時代になると、山口県の大地にはジャングルが広がり、海洋ではアンモナイトをはじめ多種多様な生命が栄えました。爆発的に発展する生命の歩みを、さらに追っていきましょう。

複数のシダ植物の化石を宿す、大嶺町産の標本。2億年以上も太古の山口県には、超広大な亜熱帯ジャングルが存在していたのです
珪化した裸子植物ナンヨウスギの化石。世界的に見てもとても珍しい標本であり、山陽小野田市にて出土しました。
美祢市産のイチョウ類の葉化石。現代のイチョウと比べて、葉の切れ込みが大きくなっています。
一方、海の中では、たくさんのアンモナイトが栄えていました。この立体造形は、太古の下関市の海をイメージして作られました。
下関市で発見されたアンモナイト類フシニセラス。もちろん、彼らを捕食する海洋爬虫類も、中生代の山口県の海で大繁栄していたでしょう。

怒涛の中生代が過ぎ、時は新生代へ。種類を問わず、非常に多様な生物化石が山口県の地層から出土しており、当時の世界には壮大な生態系があったことを強く示しています。
採集された化石標本たちは、当時の山口県の様相を雄弁に語りかけてくれます。尊い古生物たちを観覧しつつ、太古の環境を想像してみましょう。

新生代更新世に生きていたヤベオオツノジカ。美祢市から化石が発見されており、その大きさはニホンジカの3倍に達したと考えられています。
長門市にて出土したクジラ類の化石。新生代の山口県では、陸にも海にも驚異の動物王国が存在したのです。
長門市産の巨大な貝類の密集化石。約3000万年前の地層から出土しており、保存状態はとても良好です。
約2000万年前の山口県の海を泳ぎ回っていたスサウミガメ。同じ年代の地層からは、オウムガイ類の化石も出土しています。
周防大島の沖合の海底より採集されたナウマンゾウの歯。彼らはヤベオオツノジカと同じく、更新世の日本を代表する大型動物です。

地球の永い歴史の流れを大地に宿す山口県は、太古の夢とロマンであふれています。マニアにとっても研究者にとっても魅力的な大地であり、探究心が無限に湧いてきます。
地球のタイムカプセルのような世界が我が国に存在している事実に胸が踊ります! 生命の旅路を感じられる県、本当に素敵です。

森の中を闊歩する肉食恐竜の復元図。中生代の地層を擁する山口県では、いずれ恐竜化石の大発見があるかもしれません。

豊富な資料と標本で現自然を総合学習

ここからは、現代の山口県の自然環境に迫っていきましょう。次なる展示区画「植物・動物」では、文字通り県内の動植物について学習できます。県内の壮大かつ多様な生態系の秘密が凝縮されていて、学習を通して山口県の大自然への憧れが強まります。
県立博物館で地域の自然を学ぶ時間は、本当にワクワクしますね!

現代の自然を学べる「植物・動物」の展示エリア。山口県の魅力的な生態系に、好奇心が爆発します。
標本・ジオラマ・キャプションが豪華に融合。全身で楽しみながら自然学習ができます。
ファイリングされた植物標本を手元で観察できる展示。間近で標本を見ることにより、自然科学への関心が高まってきます。

本館の自然科学展示エリアでは、剥製と模型を組み合わせたリアルなジオラマが設置されていて、山口県の自然環境を鮮明にイメージしながら生態学習ができます。動植物が命の駆け引きを繰り広げる秋吉台の大地、海と空の生命が数多く集まる海浜・干潟。全てのジオラマとキャプションをとことん楽しみ、膨大な知識をゲットしてください。

秋吉台の一角を切り取った小型ジオラマ。当地は植生豊かなうえに、身を隠せる岩場が多く、様々な動物たちが生息しています。
本館の野生動物研究の成果を解説パネルで学習。プロの研究資料に触れられて、生物マニアは大満足です。
海浜・干潟を再現したジオラマ。瀬戸内海側には大きな干潟が点在しており、カブトガニの生息地となっている地域もあります。
市街地をイメージしたジオラマ。水辺にウシガエルやミシシッピアカミミガメが配置されており、現代の外来種問題を強く訴えています。
ジオラマと合わせて、生物の解説パネルが展示されています。ホテイアオイは西日本を中心に生息拡大している外来植物であり、ニュース番組にもよく登場します。

展示順路を進むと、さらに大きなジオラマが出現します。県内の森林環境をイメージした巨大なステージであり、動植物の模型や剥製が豪華に配されています。本展示に込められた情報量はすさまじく、学べば学ぶほど楽しさが増していきます。
本館の学芸員さんが調査・研究された森の世界には、いったいどのような生命のドラマが繰り広げられているのでしょうか。

森林環境を再現した大型ジオラマ。剥製標本を効果的に用いることで、動物たちの姿が活き活きと表現されています。
ムササビやフクロウが空中で躍動する姿を、剥製でかっこよく表現。野生動物の生態をリアルにイメージできますね。
林床にも動物たちの剥製がいっぱい。タヌキはニホンアナグマの巣穴を繁殖利用しており、その行動が本館の学芸員さんの調査によって観察されました!
こちらの大型ジオラマでは、紅葉の季節も再現されています。立派なツキノワグマの剥製が目立ちますね。
少し視点を変えてみると、小さな動物たちの剥製にも出会えます。ヒメネズミやヤマネも森の生態系の構成員であり、彼らの生態が本当に興味深いです。

さて、博物館は展示教育施設であると同時に、プロの科学者が集う研究施設でもあります。本館では常設展示で野生動物の研究レポートを読むことができ、動物生態学に関する知識が数多く得られます。どの博物館にもキャプションには素晴らしい知見が書かれていますので、ぜひ余すところなく読んでいただきたいと思います

本館のヤマネの生態調査レポート。動物に発信機を装着し、生態を探るテレメトリー法は、生態学の世界で広く応用されています。
ヤマネの剥製。とても希少な動物であり、本館の生態研究は保全への重要な知見となります
巣箱を利用したヒメネズミの生態研究。地道な研究調査の積み重ねが、誰も知らない新発見へとつながるのです。
自動カメラによって、モモンガの姿が観察されています。山口県の森の生物多様性は驚くほど高く、生き物好きの好奇心をそそります。

そして、博物館における生物マニアの大きな楽しみの1つ。待ちに待った昆虫標本のお出ましです。山口県内に棲む昆虫たちの総合的な展示に加えて、世界各地の個性豊かな種類にも出会うことができます。当地の昆虫相を学び、様々な地方と比較することは、とても重要な学習になると思います。

自然博物館の醍醐味の1つ、昆虫標本の展示。本館では山口県の昆虫たちはもちろん、世界各地の様々な種類と対面できます。
山口県に生息するクワガタムシの標本。概して大型種は子供たちから大人気ですが、マニアになればなるほど小型種への関心が強まってきます。
カマキリそっくりのアミメカゲロウ類ヒメカマキリモドキ。不思議な生態を有しており、幼虫はクモに取りついて、クモの卵塊の中で成長していきます。
オサムシ類はかっこよくて大好きです。肉食系の昆虫の姿には惚れ惚れします。
世界の昆虫たちも大集合! 超美麗なルリタマムシ類は、まさに森の宝石です。

博物館で得られる生物の知識は、専門的かつ貴重です。本館では、標本とキャプションを複合させた展示資料により、詳細かつ明瞭に動植物の生態を説いてくれています。1つ1つの学術資料から、学芸員さんの工夫と愛情が感じられます。改めて、山口博物館が素晴らしい研究教育施設であると実感しました。

標本・キャプション・写真を同時展示してセイボウ類の生態を詳細に解説。教育資料としての創意工夫がすごい!
コウモリ類とヤガ類の闇夜の空中戦を解説。コウモリの超音波探知に対して、ガは独自の生態戦略で対抗しています。
アリ類の身体構造や生態の解説資料。彼らはハチの仲間であり、高度に進化した社会性昆虫なのです。
昆虫をメインにした節足動物の進化系統樹。分類群の名前と進化の流れを合わせて学習できます。

現自然の生態系、広範な時代の古生物学。山口県の自然環境を学びつつ、地球と生命の尊さ・壮大な超スケールを感じられます。観覧後は、本県の豊かな森と海に繰り出して、動植物の野生の姿を観察してみましょう。

学習コーナーは図書資料が充実。専門書籍を読んで、さらに山口県の自然環境を理解しましょう。

山口県立山口博物館 総合レビュー

所在地:山口県山口市春日町8-2

強み:山口県内外における広範な時代の古生物の解説展示、ジオラマと標本を効果的に用いた臨場感あふれる展示の創意工夫、フィールド調査の研究成果を教示する濃密な解説資料

アクセス面:レンタカーもしくは自家用車がベスト! 遠方から車で向かわれる方は、(広島方面からでも下関方面からでも)高速の中国自動車道を利用しましょう。山口県庁前のパークロードを走っていけば、自然と博物館にたどり着けます。公共交通機関を利用される場合は、JR山口駅あるいは新山口駅から路線バスに乗って「県庁前」で降りてください。なお、JR山口駅から徒歩で行けないこともありませんので、多少長い距離を歩くのが苦にならない方は、パークロードをのんびり散歩して向かうのも大いにありです

動植物に満ちあふれ、広範な時代の化石を大地に宿す山口県ならではの自然科学展示。県の生命史と自然環境を総合的に学ぶならば、本館の解説展示はベストであると思います。さらに、古生物学や現生動植物の深い生態学的を得ることができるので、筋金入りの生物マニアも本館の展示資料にどっぷりハマることでしょう。
そして、学芸員さんの研究成果を明瞭に学べる解説資料も最高に素晴らしいです。学会のポスター発表のごとく、研究内容やデータをわかりやすく教示していて、フィールドでの調査研究への関心を芽生えさせてくれます。なおかつ、研究資料を標本やジオラマと合わせて展示することで、濃密な学術空間を形作っています。
本館の生態学研究に触れれば、山口県の自然環境の多様さが改めてわかります。太古から現代まで続く生命の奥深さを知るためにも、ぜひ山口博物館を訪れていただきたいと思います。

本館では、先端の工学テクノロジーについても学べます。山口県の企業が多数出展されていて、県内の素晴らしい科学技術に触れられます


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