全国自然博物館の旅【30】栃木県立博物館
関東地方で屈指の大自然を有する栃木県。首都近郊でありながら、日光や那須などの世界に誇る生命のフィールドが広がっています。栃木県の自然に触れたことのある人には、あまりの雄大さと美しさに感極まった経験もおありだと思います。
それほどまでに豊かな栃木の自然環境はどのようにして生まれ、現在どのような生態系が構築されているのでしょうか。尊い関東の宝のルーツを学びに、県立博物館を訪れてみましょう。
自然科学の知に恵まれた栃木の総合学術博物館
旅行者にとって、栃木県の主要な玄関口の1つが宇都宮。JR宇都宮駅には宇都宮線と東北が通っていますので、とてもたくさんの人々が利用されていることと思います。
博物館は緑あふれる栃木県中央公園の中にあり、JR宇都宮駅から公共交通機関やレンタカーで容易にアクセスできます。美原は後者を選択し、宇都宮の車旅を楽しむことにしました。
車を運転すること、およそ15分。花と木々に彩られた中央公園に到着しました。公園は植栽豊かな宇都宮市民の憩いの場であり、子供からご年配まで、たくさんの方々の笑顔があふれています。
園内の植物観察しつつ、公園の管理事務所「栃木県中央公園緑の相談所」にも足を運びましょう。事務所としての機能に加えて園内の動植物資料の展示も行われており、博物館の観覧前後でぜひ訪れたい場所です。公園の中にどのような植物が根づき、どのような鳥や昆虫が生息しているのか、スタッフさんに質問してみるのもいいと思います。
公園内をぐるっと一周した後、満を持して博物館へGO。……と意気込んで突撃すると、エントランス手前のレストランの看板に誘き寄せられ、勢いのままに入店してしまいました(笑)。
恐竜をイメージしたメニューがある博物館のレストラン。店内の窓から男体山を眺望できるので、爽快な気分で料理を味わえます。
「恐竜のタマゴ」を食べたら、いよいよ博物館観覧へ出発です。関東でも指折りの大自然を有する栃木県の博物館、展示への期待で胸が高まりますね。
栃木県での学びが未来の地球環境を救う!
関東屈指の大自然! 日光地方に花咲く生態系
栃木県立博物館は、県内の自然と文化の研究と資料の保存を行う総合博物館。教育性と臨場感を超高レベルで両立した、誰もがワクワクして学べる大型博物館です。栃木県の自然を知り、地球環境への理解を深めましょう。
栃木県が誇る日光地方の大自然。日光に旅行したことのある方でしたら、その雄大さをよくご存じでしょう。
観覧エリアに入ると、来館者はスロープを上がりながら、日光地方の生態系について学んでいきます。スロープの高さが上がっていくにつれて、標高の高い自然環境の展示が移っていきます。それぞれの環境で異なる生態系が構築されており、生命の多様性と適応力の高さを実感します。
全ての自然には始まりがあります。その真理は日光地方の山林にもあてはまり、複雑で壮大な生命のドラマのもとに成り立っています。
本館では、男体山や中禅寺湖の誕生の秘密、そこに息づく生命について詳細に解説してくれています。とても勉強になる見ごたえ抜群のキャプションと、美しい動植物の学術標本。不思議と驚きが満載された展示によって、日光の大自然を楽しく学べます。
栃木県の自然の懐の深さを知ると、生き物好きの皆さんは「日光にはどんな昆虫がいるんだろう?」と思うことでしょう。
多彩な環境を擁する日光地方の昆虫たちは、まさに百花繚乱! それぞれの標高や地形ごとに、バラエティに富んだ虫の世界があります。壮麗な日光に育てられた昆虫たちの姿、余さず見ておきたいですね。
まだ観覧の序盤ですが、見ごたえたっぷりの展示に生物マニアの方々は大興奮していると思います。途中に休憩ゾーンがありますので、少しばかり腰かけていきましょう。
嬉しいことに、休憩所の手前にも展示があります。栃木県の森に棲むツキノワグマたちの生活のジオラマ。森の暮らしのワンシーンを見ているようで、癒しの空気を感じられるのではないでしょうか。
休憩を終えると、天空の世界の展示へと向かいましょう。栃木県は関東で最も標高の高い白根山を有しており、不思議な高山性の動植物が数多く生息しています。
果てしなく広がる高山の大平原、冷ややかな風と無限に透き通る青天、山頂よりもはるかに高い空を飛ぶ鳥たち。実際に高山環境に立った自分をイメージしながら、天空の世界の生態系を学習していきましょう。
日光地方の展示を締め括るのは、爽快かつ鮮やかな高山地域のジオラマです。標高2500 m以上の山に登ったことのある方はご存じだと思いますが、「森林限界」と呼ばれる高度を越えれば、一面の大草原が目の前に広がります。
本展示で高山環境の特性を学び、十分に知識をインプットしたら、ぜひ日光の山々へ繰り出してみましょう。きっと、言葉には表せられない情景と素敵な生命との出会いが待っています。
偉大なる化石の産地・栃木県
スロープを登りきって2階に到着すると、ここから古生物学の展示スタート。お待ちかねの恐竜たちの登場です。
一番目を引くイケメンは、肉食恐竜アロサウルスの復元模型。彼らの顎と爪は現生動物よりもはるかに大きく、恐竜のスケールを改めて感じさせてくれます。
アロサウルスの永遠のライバルと言えば、同時代の植物食恐竜ステゴサウルス。彼らも強そうな外見をしており、肉食恐竜が強くなる度に、植物食恐竜も強大に進化したことがわかります。
ジュラ紀の両雄に続いて、様々な恐竜たちの骨格が来館者を驚かせます。個人的にお気に入りはプシッタコサウルス。中型犬くらいの大きさなので、現代に生きていたら、家の中で飼育できそうと思いました(笑)。
世界のパワフルな恐竜たちの次は、栃木県で発掘された古生物化石を見ていきましょう。日本古生物学にとって、栃木県は重要な化石産地です。古生代から新生代まで連なる栃木県の化石ラッシュの始まりです。
そして、佐野市葛生地域の石灰岩地帯からは、新生代更新世の動物化石が数多く発見されています。これらの化石たちは葛生動物群と呼ばれており、現代日本には生息しない動物も含まれています。
サイやゾウが闊歩していた太古の栃木県。彼らの生きた証、本展示で詳細に学びましょう。
栃木県の大地から得られる地質資料はとても多く、古生代から新生代まで、すさまじく長い時代の範囲に及びます。近い将来、栃木県にて巨大な恐竜の化石が出土するかもしれません。これからどんな大発見があるのか楽しみです。
消えゆく自然を守るために! 栃木の生命のつながりを学ぶ!!
「身近な自然環境を守るのは極めて重要」だと多くの科学者が述べています。生物多様性に富んでいるのは、サバンナやジャングルだけではありません。私たちの周囲に存在する水田や里山にも、数えきれないほど多くの生命が息づいています。
田んぼや雑木林を守ることの大切さは、学術施設での学びを通して理解できます。栃木県立博物館の学習展示は、生命と環境のつながりを理解するうえで理想的な内容だと思います。
雑木林は私たちに馴染み深い緑の楽園であり、多くの生き物の棲む家となっています。地球環境を身近で感じられる大切な森、その重要性を本エリアの展示で多面的に学べます。本展示をご覧になった後は、ポケット図鑑を片手に雑木林へ繰り出してみてはいかがでしょうか。
続いては水域です。私たちの身近な小川にも、希少生物たちが力強く生きているかもしれません。栃木県では、絶滅危惧種ミヤコタナゴの保護を含めた水域の環境保全活動が行われています。水の生き物たちがどのような状況に置かれているのか、正確に理解することが保全への第一歩です。
昆虫マニアの方はよくご存じのように、水域の希少生物と言えば水生昆虫です。数十年前には普通に田んぼや溜池で見られたゲンゴロウなどの昆虫たちも、人間による環境破壊の影響で現在では個体数が激減しています。かつての自然環境を取り戻すにはどうすればいいのか、本展示を見て学びながら考えましょう。
人工的な水域も、ときには生き物の揺りかごとなります。その好例の1つが水田です。浅く暖かい環境は小型水棲生物にとって暮らしやすいうえに、豊富な餌を求めて鳥や爬虫類が集まってきます。
現在は休耕田が増えて、生き物たちの居場所がどんどんなくなってきています。展示を通して水田の重要性を学び、自分にできる保全活動を考えていきたいと思います。
展示室2には、大きな化石標本のガラスケースが配されています。立ち並ぶのは、貴重な世界各国の実物化石! 古生代から新生代までのスターが目白押しで、化石マニアは大感激必至です。ここまで至れり尽くせりな展示を見せてくれるとは、本館はすごすぎます。
本館のすごいところは、普段我々があまり触れることのない地衣類や菌類について詳細な解説展示を実施している点です。彼らについて、これほど体系的かつ綿密に学べる機会はそうめったにありません。ぜひとも、このチャンスを最大限活かして学習しましょう。
そして、植物についてもかなり掘り下げて解説してくれています。模型やキャプションを効果的に用いられており、多種多様な植物たちの複雑な生活環が明瞭に理解できます。また、化石展示を交えて、植物の進化について学べるのも嬉しいところです。
いよいよ、展示室2の自然科学展示の最奥部に到達します。ここでは栃木県内外の多種多様な動物群が一堂に会します。改めて、本館の資料点数の多さに脱帽します。
最後に総括として、栃木県に棲む生き物たちを体系的に学びましょう。これほど壮大で魅力的な大自然の世界は、あらゆる生き物のマニアにとって絶対探究したくなるフィールドです。観覧を終えたとき、きっと来館者は栃木県の偉大さに改めて気づくはずです。
日光や那須に旅をして、壮大で明媚な栃木の大自然に感動した人は多いと思います。その偉大な自然環境の成り立ちや生態系を学ぶことで、感動はさらに増幅されます。
本館の魅力的な展示を通して、日本国内にもまだまだ謎めいた神秘の世界がたくさんあるとわかりました。栃木県の自然は関東のみならず、地球の宝なのです。
栃木県立博物館 総合レビュー
所在地:栃木県宇都宮市睦町2-2
強み:自然豊かな栃木県の網羅的な動植物資料の展示、栃木県産の貴重な実物化石標本と濃密な古生物学の解説資料、内装の工夫とジオラマによる臨場感あふれる展示設計
アクセス面:博物館を有する栃木県中央公園までは、JR宇都宮駅から車で15分ほど。関東在住の方ならば、自宅から車を運転して行くことも十分可能です。中央公園には大きな駐車場が2つもありますので、車で向かうのが理にかなっています。公共交通機関を利用する場合は、JR宇都宮駅の西口から路線バスに乗り、「中央公園博物館前」か「文星芸術大学付属中高」のバス停で降りましょう。
古代・現代における栃木県の大自然について、体系的かつ濃密に学べる総合博物館です。ほぼ全ての生物種の資料を展示しており、植物や菌類に関してもかなり細かい領域まで学習できます。アロサウルスやステゴサウルスといったスター恐竜のインパクトも大きく、家族連れの人々も大いに楽しめると思います。
筆者が推したいのは、栃木県の原自然や里山に生きる生命に関する展示です。興味深い多数の資料もさることながら、自然環境の尊さや環境保全の意義について深く学ぶことができます。環境教育面のクオリティもとってもハイレベルな博物館ですので、老若男女問わずたくさんの方々に観覧していただきたいと思います。