見出し画像

全国水族館の旅【40】東海大学海洋科学博物館

今回訪問する施設名には「博物館」とついていますが、そもそも水族館とは博物館の1つです。法律上では動物園も植物園もプラネタリウムも博物館であり、研究と教育を目的とする学術施設なのです。
学びの場である水族館は、研究教育機関である大学との相性が抜群! 誰もが知る中部地方の名門大学には、駿河湾の秘密を学術できる魅力的な水族館があります。


自然科学とグルメの宝庫・駿河湾

スタートはJR清水駅。静岡市内の港街の駅ということで、東京方面からスムーズにアクセスできます。
静岡県の豊かな海の街とくれば、もちろん海産物をたっぷり堪能すべきです(笑)。学習の前の腹ごしらえとして、筆者は海沿いの飲食店でランチをとることにしました。

JR清水駅。駅前には長い商店街があり、街全体がとても賑わっています。
東口から駅を出て、潮風の吹く海の方へ。今回は海路を進んで目的地へ向かう予定です。
静かなる朝の江尻の港。駅からは徒歩5分ほどで着きます。

東口の陸橋を出て少し歩くと、清水魚市場が見えてきます。現地のおいしい水産物を取り扱った市場であり、新鮮な魚介類を買えるだけでなく、最高に美味な海鮮料理を味わえます。ここは値段に糸目をつけず、自分の食べたい料理を好きなだけ食べましょう!

清水魚市場の飲食店エリア。ここでご飯を食べてから東海大の海洋科学博物館へと向かいます。
海の幸をふんだんに使った絶品の海鮮丼! マグロが自慢の清水らしく、おいしいツナも付いてきます。また、味噌汁にも現地の新鮮な海藻が入っていて、最高に美味です。

東海大学海洋科学博物館が立っているのは、湾を挟んで反対側にある三保半島の端。レンタカーや路線バスで向かうのも大いにありですが、筆者は現地ならではの水上バスでアクセスすることにしました。船は江尻・三保・日の出(商業施設を有する観光地)の3地点を巡っており、片道500円で乗ることができます。
ちなみに、水上バス乗り場は清水魚市場まぐろ館のすぐ裏にあります。食事を楽しみすぎて、うっかり出港時間を忘れることのないようご注意願います(笑)。

いざ、水上バスに乗って三保へと出発。港街ならではの究極のアクセス手段です。
颯爽と出港。清水港にはイルカが現れることもあり、イルカウォッチングを目的としたクルーズが実施されています。
船上から見た三保の松原。彼方にうっすらと見える大きな山は富士山です。

海原と緑が織り成す贅沢な景観を味わいながら5分ほど歩くと、目的地の海洋科学博物館に到着です。大学の施設というだけあって、建物からアカデミックな雰囲気が伝わってきます。
なお、本館は事前予約制であり、ホームページからのネット予約が必須となっています。入館人数の定員が決まっているため、早めに予約しておかないと、いつの間にか枠が埋まってしまいます。ですので、来館予定日が確定した瞬間に素早くネット予約してください

事前予約さえ完璧ならば、後は何も心配いりません。現地で思いっきり海洋生物の学習を楽しむのみです!

三保に上陸して5分ほど歩くと、東海大学海洋科学博物館に到着。駿河湾の生き物たちについて深く学びたいです!
繰り返しますが、本館はネットの事前予約制です。入館可能人数には上限がありますので、来館予定日が決まったら即座に予約することをオススメします。
ワクワクしながら観覧開始。このイラストを見て「ニモ」と呼んでいる人もいらしたので、ディズニー映画の影響力は大きいんだなと感じました(笑)。

海洋生物学の神秘へいざなう大学水族館

学術性とインパクトを兼ね備えた工夫満載の水槽展示

本館の序盤の展示「きらきら☆ラグーン」では、生き物の生息環境ごとに水槽を分けて個々に解説してくれています。絢爛な生命の姿を楽しみつつ、海洋生物の多様性を感じられます。いろいろな角度から生き物たちの素顔を覗けるのは、本エリアの展示の魅力の1つだと思います。

「きらきら☆ラグーン」では水槽の形も大きさも様々。展示生物の多様性もとても豊かです。
管でつながった2つの円柱水槽。管の中に何か入ってると思って覗いてみると……。
なんと、管の中にニセゴイシウツボが入っていました! 視覚的な楽しみの深い水族展示ですね。

水族展示の楽しみの1つは、個性派の生き物たちとの出会い。海洋生物マニアの中には、魚や水棲哺乳類よりも一風変わった無脊椎動物に惹かれる方も多いのではないでしょうか。
節足動物もヒトデの仲間もウニの仲間も、海には多様な種類が存在しています。ユニークな海洋生態系のメンバーをじっくりと観察してみましょう。

トラフシャコ。全長40 cmにも達する大型のシャコ類です。
ノコギリウニ。その名の通り、ノコギリ状の突起を有しています。
オニヒトデ。サンゴを食べるヒトデです。
オニイソメ類。大きな顎で他の小動物を捕食します。
この写真の中にゾウリエビが隠れています。自然界では探すのも一苦労だと思います。

水族館の醍醐味は、遠く離れた地方の水域生態系を詳しく学べることです。本館では、様々な環境の水域環境を水槽内で再現し、その特性について詳細に説明してくれています。それぞれの環境でどのような生き物たちが適応しているのか、理論的に紐付けて学ぶことができます。

西表島のマングローブ水域を再現した水槽。オニボラ(写真左)はかっこよくて、筆者の大好きな魚です。
魚たちの産卵や生育の場所であるアマモ場。ここで育てられているアマモは、リュウキュウスガモという海草です。
波が強く打ちつける浅い水域。この水槽には、人工的に波を発生できるギミックがあります。

生体展示の見せ方に独特な工夫が施されている点も、本館の素晴らしい強みの1つだと思います。ぜひとも多くの来館者に観察していただきたいのは、クビアカハゼとニシキテッポウエビが共生する巣穴の断面展示です。
ハゼとテッポウエビは1つの巣穴で共生しており、互いに助け合って暮らしています。そんな彼らの仲睦まじい姿を、巣穴の内部構造と共に丸ごと観察できる展示スタイルは、まさに究極の創意工夫だと思います。魚と甲殻類が力を合わせて自然界でたくましく生きている事実に、改めて強く感動します。

クビアカハゼとニシキテッポウエビが共生する巣穴の断面展示。棲家の構造がわかる素晴らしい工夫だと思います。
ニシキテッポウエビ(写真下)が掘った巣穴に棲むクビアカハゼ(写真上)。ハゼは視力が優れており、敵が近づくと尾を振ってテッポウエビに知らせて、一緒に巣穴の奥へと避難します。
ハゼとテッポウエビの展示の他にも、多くの水槽で独特な工夫が満載。水槽の下方にある照明装置を点灯させてみると……。
光に照らされて、底面から岩の下部がはっきり見えます。美しいオトヒメエビが現れました!

絢爛な「きらきら☆ラグーン」を抜けると、目の前に迫力満点の大型水槽が現れます。この「海洋水槽」は長さ10 m・奥行き10 m・高さ6 mものビッグスケールであり、約50種類もの海洋生物が展示されています。
どの生き物も力強くてかっこよく、その中でも特に多くの人々から注目を集めているのはシロワニです。マッシヴで強そうな巨躯を見せつけるように悠々と泳ぐサメ、とっても荘厳に見えます。やはりサメのかっこよさは最高です!

本館が誇る大展示「海洋水槽」。全面アクリルガラス張りの壮麗な水槽です。
悠然と泳ぐ巨大なシロワニ。やはりサメは超かっこいいですね。
海洋水槽では約50種類の生き物が飼育されており、総数は約1000個体にのぼります。多種多様な魚たちの舞は、まさしく竜宮城の景色のようです。

大きな海洋水槽は超絶見ごたえ抜群なうえに、来館者を楽しませる観覧の工夫が随所に施されています。水槽の真下の通路に入れば観察窓から魚たちの壮美な躍動を間近で拝めますし、壁側のスロープを上がれば高所から大迫力の生体観察ができます。
海の中に入ったかのような感覚に見舞われ、大人も子供も大興奮! 観察窓の前にいきなりシロワニが現れたら、サメ映画のワンシーンごとくドキッとします(笑)。

海洋水槽の下部に入口らしきものを発見。ワクワクしながら入ってみると……。
水槽の真下の通路へと移動。ここには複数の観察窓が設けられており、海洋水槽を底から見上げることができます。
通路の窓から水槽の中を見上げると、目の前をシロワニが通過。臨場感満点で、ワクワク感が倍増します。
壁側のスロープを上がれば、高所からでも海洋水槽を観察できます。本館屈指の大型展示を、あらゆる角度から味わいましょう。

海洋水槽と同じホールには、クラゲの生態について学べる「クラゲギャラリー」があります。不思議いっぱいのクラゲたちの形態や成長の秘密を、とことん学習しましょう。
なお、本展示は季節によってクラゲの種類が変化します。シーズンごとに違ったクラゲに出会えるチャンスがありますので、定期的にリピートしてクラゲ観察を楽しんでください。

不思議な雰囲気を放つ「クラゲギャラリー」。神秘的なクラゲたちは、多くの水族館ファンの心を掴んでいます。
アマクサクラゲ。長い触手で他のクラゲを捕食します。
照明が変化するミズクラゲの水槽。来館者に癒しと感動を与えてくれます。
板に固着しているのはミズクラゲのポリプです。ここから、無性生殖で赤ちゃんクラゲがたくさん生まれてきます。
ちっちゃなエフィラ(クラゲの赤ちゃん)。成体と同じように、触手の毒で水棲生物を捕食します。

不思議いっぱいの駿河湾! 静岡の海洋生態系を学ぶ

本館は大学が運営する水族館ですので、学術性はとても高く、たくさんの海洋生物学の知識を吸収することができます。特に未知なる深海軟骨魚ラブカの研究においては素晴らしい業績をあげられており、その成果が標本と共に豪華に展示されています。
潜水機で野生のラブカの生態に迫り、受精卵の段階からラブカの人工飼育に取り組まれている本館は、まさにラブカ研究の超エキスパート! 解明された新事実に胸を踊らせながら、驚異に満ちた展示資料を目に焼きつけましょう。

深海魚ラブカの研究成果に関する展示。謎に満ちた生態を解明するために、東海大学海洋科学博物館とアクアマリンふくしまが2016年より共同でラブカを研究されています。
ラブカの胎仔の液浸標本。本種は胎生の魚であり、親と同じ形の子供を出産します。母親のお腹にいる間は大きな卵黄を抱えており、そこから栄養を吸収して成長します。
ラブカの幼体の液浸標本。本館では受精卵や胎仔の段階から人工保育を行い、未知の深海魚を438日間も育てることに成功されました。
大型深海魚リュウグウノツカイ。巨大なうえに、とっても美しい液浸標本です。
三保の海で発見されたリュウグウノツカイの幼体。幼体の発見例は珍しく、極めて貴重な標本です。

次なる展示エリアでは、豊かな駿河湾に棲む生き物たちのオンパレード。水槽の数と飼育生物の種数はかなり多く、この記事では到底紹介しきれません。ぜひ、現地にて奇跡の海で暮らす仲間たちの美しい姿をご覧ください。

駿河湾の生き物たちの生体展示。とってもとっても種類が多く、すさまじい見ごたえがあります。
ツマリテングハギ。成魚になると、頭部に角のような突起が発達します。
色鮮やかで可愛らしいシキシマハナダイ。岩場に群がって棲む性質があります。
長大な体をくねらせて泳ぐホタテウミヘビ。ヘビではなく魚です
駿河湾の展示なのに熱帯の魚? 実は暖かい黒潮に乗って熱帯魚の幼魚がたくさん駿河湾にやってきており、本館では8~12月の駿河湾で見られる熱帯魚が飼育展示されています。

駿河湾の魚と言われたら、美味な海の幸を想像される方もいらっしゃるかもしれません。本館の水族展示においても、とってもおいしそうな食用魚がたくさん展示されています。かなり食欲をそそられると思いますので、水族館観覧後は清水駅前の居酒屋で魚介類をたっぷりと食べてください(笑)。

ヘダイ。見るからにおいしそうですね(笑)。
高級な食用魚であるクエ。成長すると体重100kg以上になります。
ヒレの一部が糸のように伸びるイトヒキアジ。本種も食用になります。

駿河湾は日本一深い海域です。最大深度は約2500 mにも及び、未知なる深海生物が無数に生息しています。静岡県の海の底には、謎だらけの自然科学のフロンティアが広がっているのです。
「駿河湾の深海生物」コーナーでは、多種多様な深淵の生き物たちの標本が見られるうえに、深海生物の生態をキャプションや模型で仔細に解説してくれています。本館での学びを通して、駿河湾には地球の神秘が無尽蔵に眠っていることを感じられます。

壁面に配された駿河湾の深海生物の液浸標本。日本一の深海には、どのような生き物たちが息づいているのでしょうか。
立派なメスのビワアンコウの液浸標本。お腹の方を見てみると、何やら小さな生き物がくっついてるような……。
なんと、メスの腹部にオスが寄生しています。チョウチンアンコウ類のオスとメスでは姿も大きさもかなり違っており、メスから離れないようにオスは体表に寄生するのです。
カギイカ。駿河湾でのサクラエビ漁の際に捕獲された個体です。
深海生物の生態に関する解説展示もいっぱい! この資料では標本とイラストを活用し、深海生物の垂直移動について解説してくれています。

駿河湾の展示エリアを抜けると、内装がオレンジ主体の明るい色調へと変化します。ここからは「くまのみ水族館」エリアであり、今や水族館の人気者となったクマノミ類についての展示が始まります。
ここでは日本だけでなく世界のクマノミ類が数多く飼育されており、華やかで可愛い彼らの姿を心ゆくまで堪能できます。本展示を通して、愛らしい彼らの実像に迫ってみましょう。

水族展示のトリを飾るのは「くまのみ水族館」。日本国内のみならず、世界各地のクマノミたちが飼育展示されています。
奄美諸島以南に分布するハマクマノミ。周知の通り、彼らクマノミ類はイソギンチャクと共生しています。
温帯適応種のクマノミ。クマノミ類は体が特殊な粘液で覆われているため、イソギンチャクの毒刺の影響を受けません。
インド太平洋に分布するスパインチークアネモネフィッシュ。英語圏ではクマノミは「アネモネフィッシュ」と呼ばれます。
クラウンアネモネフィッシュとツーバンドアネモネフィッシュ。ほとんどのクマノミ類は、熱帯性もしく亜熱帯性の海水魚です。
ティレズアネモネフィッシュ。めったに会うことのできない超珍しいクマノミです

とっても嬉しいことに、本館では水族展示のバックヤードを覗くことができます。水族館の裏側を見られるチャンスは、全国的に見ても決して多くありません。水族館で働いてみたいと考えている方は、この機会を最大限に活かして、展示解説にしっかりと目を通してください。必ずや、将来に役立つ知識を掴めるはずです。

水族館のバックヤードが覗ける展示。飼育に必要なたくさんの機器設備が見て取れますね。
クマノミ類の幼魚の飼育水槽。「くまのみ水族館」で生体展示されているクマノミたちも、ここで大切に育てられたのです。
クマノミの餌となる動物プランクトンの培養容器。飼育生物の飼料となる生き物も、万全の環境で育てられています。
本館の水循環システムをイラストで解説。高度な技術によって、貴重な水資源が浄化・再利用されているのです。

水族展示はここまでですが、本館には水族館に併設された自然科学展示室「ネイチャー・ルーム」があります。静岡県の生き物や化石を中心に、現代と古代の現地自然の特性を学ぶことができ、自然科学マニアにとってはたまらない内容です。
海洋環境と陸域環境、さらに古環境を学ぶことのできる東海大学海洋科学博物館。水族館ファンのみならず、生命と自然を愛する多くの人々に来館していただきたいと思います。

静岡県の現自然と化石について学べる「ネイチャー・ルーム」。今年6月にオープンした新区画です。
静岡県に棲む昆虫の標本展示に大感動! 本館の水族展示で海を感じた後は、ぜひとも陸のフィールドワークに出て虫たちを観察しましょう。
魅力的な昆虫標本がたくさん。筆者の推しは、ドラゴンのごとくかっこいいヘビトンボです。
菊川市の地層から発見された大型肉食魚メガロドンの背骨。サメの骨格は軟骨ですので、化石として残ることはとっても珍しいのです。
静岡県内のみならず、海外の化石標本も多数展示。こちらはモロッコ産の三葉虫です。

東海大学海洋科学博物館 総合レビュー

所在地:静岡県静岡市清水区三保2389

強み:表層域から深海域まで駿河湾の海洋生物を体系的に学べる圧倒的な専門性、ラブカ研究プロジェクトをはじめ最先端の海洋生物学の成果に触れられる学術性の高さ、各種水槽に施された生物観察手法の創意工夫

アクセス面:最寄り駅はJR清水駅。そこから三保行きの路線バスに乗れば、およそ20分で博物館に到着します。中部地方や関東地方にお住まいの方は自家用車でアクセス可能ですし、旅行者の方は静岡市内からレンタカーで向かうこともできます。ですが、現地の潮風を感じてみるために、筆者のように水上バスに乗っていくのも大いにありだと思います。運が良ければ野生のイルカたちに出会えるかもしれませんので、個人的に強くオススメします。

駿河湾の神秘と海洋生物学の奥深さを強く感じられる究極の大学水族館。本館の魅力いっぱいの展示を目の当たりにして、海洋生態系に関心を抱く子供たちもきっと多いと思います。百花繚乱の生き物たちの生体展示に加えて、先端的な海洋生物研究の成果を学ぶこともできるので、まさしく至高の学術教育施設です。
各種水槽に施された生物観察の工夫も素晴らしく、水族館としての視覚的に楽しみが満載です。筆者としては海洋水槽の通路の観察窓がツボであり、近距離でシロワニを仰いだときの感動は忘れられません。それほどまでに、素敵な発見と感動に満ちあふれた展示施設なのです。
大事なことなので再三言いますが、本館に入るにはネット上での事前予約が必要です。ほとんどの博物館は事前予約不要ですが、念のため学術展示施設を訪問する際には、ホームページから入館方法について確認しておきましょう。

三保のマツ林には、トビがたくさん生息しています。澄みきった海と空に舞う生き物たちを観察してみましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?